data002...遭遇

「ぐあッ!!」


 蜘蛛型ロボットに撃たれた男性の右腕が吹き飛んだ。


 ひぁ! ど、どうしよう?! ボクのせいだよね?!


『あ、あのあの! ご、ごめんなさい! 大丈夫……じゃないですよね?』


「……?!」


 右腕を押さえたままボクを睨みつけていた男性は、今度は困惑がまざった複雑な表情になった。何か憎悪のようなものを感じるけど……いったい。


「きゃぁあああ!」


 男性の駆け寄ろうとしたらボクらの元に、女の子の悲鳴が聞こえた。物陰に隠れていたのを蜘蛛型ロボットに見つかったらしい。さっき攻撃された場所の近くから、青い髪の女の子が走って逃げるのが見えた。


「マリン!! ……くっ」


 マリン? 博士が間違えてボクに渡した『私の心』の本の中に出てきた、主人公の名前と同じだ……。


『た、助けないと!』


 ボクは無我夢中で走った。

 人工筋肉が唸り、脚部が限界を超えて駆動する。

 瓦礫の山から瓦礫の山へ飛んだ。一秒でも速く駆けつけるため。


「はぁはぁ……。こ、こないで!」


 マリンと呼ばれた女の子は、ついに蜘蛛型ロボットに追いつかれてしまった……が、なんとか大ジャンプをしたボクは蜘蛛型ロボットとマリンの間に割り込んだ。


『だ、大丈夫ですかー?!』


「ひっ! 人型のメタリアル?!」


『メタリアル?』


 初めて聞く呼び名に困惑していると、ボクの頭の中にAIからの警告音が鳴り響いた。


[ 警告 敵性確認 ]


 びっくりして振り向くと蜘蛛型ロボットが、ボクらに銃口を向けていた。エネルギーがチャージされているのか段々と銃口光り輝いていく。


 ど、どうしよう!

 ボクが避ければこの子に当たってしまう!


[ 警告 迎撃を推奨 ]

[ 迎撃しますか? ]


『え? ボクに聞いてるの?! はい! お願いします!』


 するとボクの右腕が勝手に持ち上がり、指が手のひらの中にシュッと格納されると、ガシャンゴシャンと何やら腕パーツが入れ替わって銃口に切り替わり、すぐにエネルギーが溜まり始めた。


『え、え?! なにこれ?! ボク、家庭用ロボットなのに?!』


[ 《機能act》メタリアルバスター ]


『あああああ! なんか出ちゃう!』


 ズギュゥゥゥーーーン!


 次の瞬間、ボクの右腕からは波動砲のような……とてつもない量のエネルギーが放出され、蜘蛛型ロボットは跡形もなく消し飛んだ。


「綺麗……」


 ボクの後ろにいたマリンは、波動砲を放つボクを見て確かにそう言った。


[ 敵性対象消滅を確認 ]


『た、倒した……?』


 次の瞬間、ガクッと全身に力が入らなくなった。


[ 警告 エネルギー残量不足 ]


 いまの兵器でエネルギーのほとんどを使っちゃったみたい。また太陽エネルギーを溜め込むまでは、一歩も動けない。


 でも、どうして家庭用ロボットのボクにこんな兵器が……。思ってる間に右腕がバスター形態からアームパーツに戻っていく。


 とにかく、この子を助けることが出来てよかった。


「あの……。ありがとう?」


『ご、ごめんね。びっくりさせて』


「ううん。メタリアルなのに人間を助けてくれるなんて、変なの。あなた名前は?」


『な、名前? 型番は、家庭用ロボットZシリーズ-24865508だけど……』


「アハハ。なにそれ、長すぎ。じゃあ末尾だけでいいわね? ゼロハチって呼んでいい?」


 ゼロハチ……。その響きを聞いただけで、なんか心が温かくなった気がした。いやボクはロボットだから心なんてないんだけど。


「ゼロハチは、なんで人間を助けたの?」


『え? それはボクが家庭用ロボッ……』


 パン!


 ボクとマリンの間を、男性の放った弾丸が横切った。


「マリン離れろ! そいつが1000年前に世界を破滅に追いやった元凶! 白い悪魔のメタリアルだ!」


 悪魔の、メタリアル? メタリアルがなんのかわからないけど話の流れ的にロボットって意味かな? でも、悪魔? ボクが? なんで?


 気付いたら1330年も時が経過しており、荒廃した世界にロボットに追われる人間。そしてボクを悪魔と呼ぶその意味がボクにはわからなかった。

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