date001...ここはどこ?

『1330年後……』


 ボソリと呟いた言葉だけど、信じられない。体内時計が狂ってる? ありえる。ネットやGPSでの微調整をしていない体内時計は、ズレる可能性が高い。


 もっと情報が欲しいと思ったところで、丁度全身までエネルギーが行き渡り、全ての機能がオールグリーンへと変わった。


 ギュイン


 ベアリングが唸り、足の駆動装置が小さな音を鳴らすとボクは初めて立ち上がった。


『うん。問題なさそう』


 その場に二、三歩歩いてみたけど特にエラーは出ない。まぁ歩くのは初めてなんだけど……。


 改めて研究所を見回してもやはり生活の跡は無い。博士の死体も無い。何か情報は無いかとあちこち触ってみたけど、どれも内部の機械が壊れていて動かなかった。


 データ管理ばかりだと、こういう時には不便だと改めて思う。


『外に行ってみよう』


 例え外がどんな環境でもボクはロボットだから大丈夫。そう思って研究所のドアを開けようとしたが、開かない。


『え? 硬ったいな。ボクの力でも開かないなんて……』


 となると出口は一つ、穴の空いた天井を見ると、青空が見える。仮に1330年経っていても、空は空のままだったことが、少し嬉しい。


『よっ』


 ガシャンガシャンと音を立てて足場を伝って登ると、脚部にパワーを溜めてジャンプ。天井に空いた穴から飛び出した。


『うわぁーー!』


 思わず声を上げてしまった。


 だって、外の世界は荒廃していたから。


 崩壊したビル群、それが苔や植物で彩られている。インプットしたデータの中に未来の荒廃した世界を旅する映画があったけど、まさにそれだった。


『本当に1330年経ってるかもしれない……』


 誰に聞かせるわけでもなく呟くと、ボクは研究所の外を歩いてみた。外に出てわかる。ボクのいた研究所は地下にあったらしい。それが経年劣化で上のビルが崩壊して地上と繋がったようだ。


 その時だった。


 ゴゴゴゴ……ズドーーーン!という爆音を伴い研究所が崩壊した。


『わぁ、危なかったー』


 下手したらそのまま研究所と共に、ビルの瓦礫に埋もれていたかもしれない。


『はぁ、どうしよう……』


 見る限り人間はおろか、もはや生物すら生きているか怪しい。家庭用ロボットとして作られたボクは、目的を見失ってしまった。


 その時だった。


 ビ……ガガガ……。


 こち……ら……ロ……です。


『ん?』


 ボクはダメ元で高周波無線を探っていると、女の人の声をキャッチした。


『え? まさか生きてる人がいるの?』


 でも発信源が遠すぎるのか、方向すら絞れなかった。GPS機能があれば方向くらいはわかるのに……。


『もう一度お願い!』


 必死に願って待つこと数分。ボクの願いは届いた。


 ……現在、Aの5。救援を求む!


 今度は確かに聞こえた! しかもさっきより近いし、男の人の声で救援を求める声だ!


 ボクの心は踊った。いやロボットであるボクに心なんてあるわけない。救援を求める声に喜んじゃいけないかもしれないけど、でも、嬉しい気持ちになった。


『こっちの方だったよね?! よーし! 《機能act》アクセラレーター!』


 ボクは全速力で走った。走ったのなんて初めてだけど、物凄く身体が軽い。身体を構成する未知のパーツのおかげだろうか。


 ……パンパン!


 男の人の声が聞こえた方へ走っていると、何やら乾いた発砲音が聞こえてきた。まさか誰かが戦っているの?!


『どうしよう。ボク武器なんて持ってないけど……』


 最悪パンチでも体当たりでもなんでも出来る。ボクは考えるのをやめて、さらに速度を上げると銃撃の現場が見えてきた。


『ロボット?』


 崩れた廃墟の山の中、多脚の蜘蛛のようなロボットが二人の人間を追っていた。一人は濃い無精髭の男性で、もう一人は青い髪の女の子だった。


『やっぱり人間だ!』


 喜んだのも束の間、蜘蛛型ロボットが頭部に乗せた二つの砲台からレーザー光線を放った。


 ドゥシューーン!


 重い音と纏った赤い色のレーザーが放たれると、二人はタイヤの無い車のような物体に隠れた。が、レーザが当たると車は一瞬で溶けてしまった。


 パン!


 いつの間にか移動していた男が、その隙を狙って発砲音。蜘蛛型ロボットの二つある砲台の一つに当たり、見事に破壊した。


『ただの拳銃じゃない? のかな。すごい威力』


 って、感心してる場合じゃ無い! 助けないと!


 瓦礫の山を駆け、男性の元へ駆け寄るとボクは大きな声を出した。


『大丈夫ですかー?!』


 男性は驚いてボクの方を向くと、その表情は一瞬で恐怖へと変わった。


「そ、そんな……。バカな」


 次の瞬間。ボクに気を取られたせいで、男性は蜘蛛型ロボットの放ったレーザーに右肩を貫かれしまった。

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