第6話 カエデさんー絶望の転生者

 彼女は美しかった。服は所々がすり切れていて汚れていたが、その美しさは寸分も損なわれていなかった。

 長い沈黙の後、彼女は口を開いた。


「そう……ここは異世界なのね」

「正確にはアエギタロスとあなた方の世界の狭間になります」

「まぁ、アエギタロス? 可愛いあのコと同じ名前なのね」

「先ほどお見せしたトリカイさんもとても驚いておりました」

 チュートリアルさんの表情は読み取れないが、2人は穏やかに話し合った。


「まだ見ますか? それとも……」

「もういいの……カスミは決めてるから……」

 彼女は憂いを帯びた表情で言った。


「……転生をせず『消滅』でよろしいのですか?」

「あのね、衣装ダンスの中には異世界に通じる扉があるって近所のお姉さんが言ってたの」

 カスミさんはチュートリアルさんの言葉を無視し、話し始めた。


「カスミのお家にも衣装ダンスがあるの。それはママが決めたカスミのお部屋で、本当に異世界に通じてて嬉しかったの」

 彼女が話し終えるのをチュートリアルさんは静かに待った。


「ママがいいよって言うまで出ちゃいけないカスミのお部屋。だけど、ずうっとママがいいよって言わないから、カスミはお話に聞いたもうひとつの扉を探したの。だから、ここに来れただけで満足なの」

 と、彼女は話を終えた。


「では、そろそろ道を開きます……」

「ありがとう、チュートリアルさん。これでもう苦しむ事はないのね……」

 ゆっくりと微笑みながら消えていくカスミさん。

 チュートリアルさんはそれを黙って見送る他になかった。


「最期にあなたに会えてよかっ……」


            ***


「もー、鬱展開になるならなるって先に言ってよね」

「鬱……展開? また新しい言葉ですね」

 シマダはチュートリアルさんに対して、涙目言った。


「ちなみに、血が吹き出したりする内容だったら『グロ注意』って先に言うと親切だよ?」

「そうなのですね。あなたと話をしていると、とても勉強になります」

 チュートリアルさんは、シマダの文句に真摯に向き合っている。


「ねぇ、アエギタロスが可愛いコと同じ名前って何?」

「それは元の世界に帰れた時にお調べください」

 ケチ〜、とシマダは思った。同時に彼との会話が楽しくなってきて、ずっとここにいたいと思い始めてきた。


「決めた! ボクはここに残るよ!」

 シマダの決断を聞いて、チュートリアルさんの輝きが次第に消え、中から優しい男性が姿を現した。

 突然のことに驚くシマダに彼は静か話し始めた。


「この時を待っていました……」

 ああ、この人はこう言う風に笑うんだなぁ……と、シマダは思った。

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