第5話 トリカイさんー鳥になった者

 トリカイさんは、とある土地に生息する希少な野鳥の生態を研究する学者さんでした。

 寒さと羆の脅威にも負けず、現地の人々の協力の元、野鳥の研究と保護活動に尽力していましたが……


「……が?」

「雪の降る日に木の上に設置した観察小屋から足を滑らせて落下しました」

 チュートリアルさんは悲しい光を放ちながら答えました。


「その落下の衝撃でワタシの前に来たのです。……あの、ワタシの言葉の説明だけで本当に良いのでしょうか? 今からでも映像をお見せできますが……」

「いいの、いいの。見てばっかりだと飽きちゃうからねぇ」

 戸惑い鈍く光るチュートリアルさんにシマダは元気に答えた。

 正直、頭の中に直接映像を流されると疲れるのである。


「では、続けます。説明の後にトリカイさんは言いました。

『鳥だ! 鳥に転生させてくれ! 人じゃなくてもいいんだろう?』と。映像を見るまでもなく即決していました」

「おおお、その決断力が羨ましい……ボクなんていまだに決められてないのになぁ」

 シマダはチュートリアルさんの棒読みの転生者の再現台詞に完全に慣れて気にならなくなっていた。


「そして彼は鳥に転生します……


 暖かな太陽の光が青空に広がり、彼は羽ばたきました。自由に風に乗って空高く舞い上がる。


『これが鳥の目線、鳥の世界!』

 未知の地への希望の翼を広げて彼は仲間の元へ羽ばたいて行きました。


 ……その後、トリカイさんは人としての記憶も薄れ、完全に鳥になりました」

「身も心も鳥になっちゃったんだ! 学者さんとしては本望だねぇ」

 シマダはどこまでも青く広がる空の旅に思いを馳せ……てみたが高所恐怖症なので、その考えをすぐに頭から追い払った。


「それで、トリカイさんはどうなったの?」

「トリカイさんは同じ種族の鳥と番になり、繁殖に成功します」

 いやいや、繁殖に成功って……と、シマダは言いかけたが言葉を飲み込んだ。


「その種は非常に珍しいものであり、その羽根は1枚でも非常に高値がつくもので、密猟者が後を絶ちません。

 トリカイさんの家族もその魔の手にかかります。しかし、彼は必死に抵抗し密猟者と相打ちで息絶えてしまうのです」

「……え、そんなぁ。トリカイさんの鳥さん家族はどうなったの?」

「鳥さん家族……は無事でしたよ。トリカイさんは相打ちになる前に密猟者一行に重篤な怪我を追わせましたからね」

 チュートリアルさんの言葉にシマダはホッと胸を撫で下ろした。


「トリカイさんは天寿を全うしました」

「わぁ、ついにマットーできた人が来た!」

 シマダはチュートリアルさんのその言葉に心から喜んだ。


「そして、元の世界の元の場所でトリカイさんは目を覚まします。あの落下した木の下で。彼はその後、優れた鳥類学者としての地位を確立しました」

「凄いなぁ。ボクも早く元の世界に戻らなくちゃなぁ」

 シマダは答えを焦れば焦るほど、転生者を見れば見るほど答えが遠のいて行く気がした。


「では、もう1人の転生者をお見せします。それともここで決断しますか?」

 ……うーむ、どうしよう。と、シマダは悩んだ。

 そんなシマダをチュートリアルさんは温かい眼差しで……と言っても表情は相変わらず見えないのだけど……見守っていた。

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