第二章 森の外の世界

第二章 プロローグ


 ――罪は、罪として生涯を彩る。


 償いをして罪状を軽くせしめても、根罪が払拭されることは無い。


 罪を背負い、正面から向き合い、行動で反省を示しても、それはゼロに至るまでの過程。際限なくゼロへ続く道であり、その差が埋まることはあっても、基準に戻ることは永遠とない。


 それが、「罪」という一生消えない十字架。


 心を改めても、意識を入れ替えれば褒められるなどというのは、筋違いだ。無論、心を入れ替え、真っ当に生きていくことを誓って、恥じぬ生き方をしようとすることは、素晴らしい心変わりだと個人的には思うし、美徳だと思っている。


 だが、悪いことをしない、罪を生まないなんてのは道理の根底。盗難、殺人、放火、誘拐などの犯罪の数々は、起こした時点で悪であり、軽さや重さはあれど、罪である事実に相違はない。


 反省するのは、当たり前の話だ。


 悪いことをしたら反省する。そんなこと、誰に言われるまでもなく教えられる、世の理だ。理に反する行為をして、他者から悲観の目を向けられ、強い言葉をぶつけられる。至極当然の話だろう。


 だからこそ、より大事に、明白に聖職者たちなどから告げられるのは、罪に対しての認識具合。


 ――罪を罰と定めるか、罪を罪と定めるか。気の持ちよう一つで、この二つの境目は大きく変化を及ぼす。


 向き合うのも、目を背けるのも、極論から言って人の自由だ。反省する者もいれば、逆にしない者もいる。他者にどれだけ説かれても、心の琴線が刺激されて感銘を受けなければ、その境目に隔てられた線引きを押し開くことなど不可能。


 ――俺も、例外ではない。過去の罪に対して、何もできない無力な自分を悔やみ、せめてもの償いとして行動で示した。罪を罰として定め、降ってきた罰に恥じないように尽力してきた。


 言葉遣いを、心構えを、人としての在り方を。人が変わったと言われるぐらいに大きく、昔の面影が消えるほどに、行動で示してきた。


 許しを請うつもりは無い。ただ、せめてもの罪滅ぼし。公的に罰を与えられなかった己に課した、自らで定めし消えない罪。それを自覚し、一生忘れないようにと、己に命じて律してきた。そして――、


「そん、な……」


 膝から崩れ、瞳は愕然と開かれる。


 連れて来られた聖域。花に囲まれた、神秘的な場所。踏み込める人物が限られている、秘密の花園。


 その花園の下に盛られた土塊。そこに、過去から続き、影の如く続いている罪の原罪が、二つ眠っている。


 この瞬間――俺は確信した。


 森での出会いは、偶然でも何でもない。


 確かな罰によって巡り合った出会い。それは即ち、


 ・・運命であったと、この日を境に知ることとなった……。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る