失われた加護
「後遺症が残っているのであれば、セラの回復魔法で再生すると思う。切断された腕もくっつくしな」
「いや、これは……俺の罪だから。いいんだ」
「罪? また妙なことを言う。とりあえず、もう一度横になっておくがいい。明日、ギルド職員と騎士団が事情聴取を行いたいらしい」
「色々とすまない。どうお礼をすればいいか、回復魔法の代金も払わないと」
「おい、次このセラ様に回復魔法の代金を払うなどと言いおったら、ぶち殺すぞ」
「え?」
「回復魔法で金をとるなどこのセラ様は絶対にしない。他の奴はしらんが」
「分かった。そのありがとう。でもいずれお礼をさせてほしい、こうやって面倒も見てもらって、フィオとシルメリアのことも」
「うむ。だが本当に良いのかその腕? まともに動かせない状態であろうに」
「ああ、心配ありがとう、いいんだ」
口は悪いがセラは思いやりと慈愛に溢れる女性だった。
魔族であるというが、何も関係ない。
人として尊敬に値する人物だ。
俺なんかと比べれば、俺はなんて小さいんだ。
◇
翌日、ギルド職員でクラーノという眼鏡をかけた気難しそうな男性が聞き取り調査にやってきた。
極めて事務的で、感情が出ないタイプであったが、こういうときには逆に気分的に楽でもあった。
「これでギルドでの聞き取り調査は終わりました。これから騎士団の詰め所に向かい、取り調べを受けてもらいますが、冒険者ギルド側の人間として私も立ち会う予定です」
「監視、ですか」
「そう受け取ってもらっても構いませんが、ギルドはレイジさんたち3人を保護したいと考えております。無論騎士団としても君がただの殺人鬼であれば容赦なく捕縛していたでしょうが、今現在監視もなく出頭して事情聴取というは、ほぼレイジさんの主張通りであると考えているからでしょう」
「そうでしたか」
「これも、あのセラという方が証言してくれたことが大きいようですよ」
騎士団の詰め所は訓練所に併設された事務所であり、副騎士団長のラグエルという30代の精悍な男が担当した。
どこか垂れ目で憎めないタイプに見える。
「こちらでも調査したのだが、ほぼレイジ君の証言と同じ内容だった。ギルドのクラーノさんからも報告があったが、あのマンティスエッジは詐欺の他に積み荷の窃盗や殺人の疑いまで濃厚であり、除名処分寸前であったとか。まあ10人全員絶命したそうなので一安心です」
「おっしゃる通りです。もっと早くに除名、追放処分をしていればレイジさんたちが被害にあうことも無かったかもしれません」
「あの、俺はどういう処分を受けるのでしょうか、フィオとシルメリアはどうか見逃してください」
クラーノとラグエルは顔を見合わせてから、ぷっと吹き出した。
「レイジ、君は腕は立つというのに色々と世慣れしてないんだな。殺意を持って攻撃してくる相手に対し、容赦は不要。10対3 というより、ほぼ10対1で相手を殲滅させた君の腕を誇りたまえ。うちに欲しいぐらいだよ」
「レイジさん、処分はなし。取り調べは事実確認のためですよ。はっきり言ってマンティスエッジは、サイクロプスの報奨金の件でも相当にギルド長を怒らせていましたからね、ギルドで奴等を擁護する連中は皆無です」
「仲間が傷ついて落ち込んでるのは分かるが、早く立ち直れ。情勢も不安定だからな、このフォートボレアもいつ魔物の襲撃で陥落するか分からんぞ」
なんとか受け答えをしながら俺は宿に帰ってきた。
一時預かりになっていた鬼凛丸と脇差、そして荷物も帰ってきた。
3人分、ちゃんとアストラルフィルムも……そのままに。
浮かれていたと思う。
強敵倒して、刀を手に入れて、レアアイテムたくさんゲットして。
調子に乗った結果がこのざまだ。
そりゃ阿修羅王、文殊法眼にも見捨てられるよな。
「ははは……魔王を倒すだって、何様だよ俺」
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