ローデリアダンジョン④ ~ジェネラル~

 ファントムクロースの素材入手難易度が高い理由がまた一つ判明した。


 「ボス?」


 「そう。地下5階にはボス部屋があって、そこを通らないと地下6階には行けないんです」


 「攻略難易度はしっかりとしたCランク以上の冒険者パーティ―でないときついみたい」


 俺とシルメリアがD。フィオがC。

 3人で大丈夫だろうか。

 「ボスの情報は買ってあるわ。お相手はオークジェネラル。恐らく単体ならレイジであれば倒せる相手だと思う。でも問題があってオーク・オークメイジ・オークファイターをランダムで召喚するらしいの。1~3体」


 単純に数の有利不利というのは、非常に大きい。

 

 俺たちはフォーメーションと連係について話し合った。

 二人はマルチショットと、マルチバーストという複数ターゲットを狙える攻撃手段で敵を排除、足止めし、俺がジェネラルと一対一を作れる状況を維持するというのが基本方針となった。


 ボス部屋に近づくにつれ、発光する外壁の光度が上がっていく。


 城門のような巨大な扉の前に立つと青白い松明がぼっぼっと点灯し、覚悟せよとでも言いたげな威圧感が周囲に満ちていく。


 「初手はフィオのブラインドショットで、詠唱完了後にシルメリアのアイシクルランス、その隙に俺が距離を詰めて奴と対峙、雑魚敵の召喚をさせない猛攻で一気に蹴りをつける、でいいな?」

 

「うん」

「はい」


 「んで二人は問題を解決したってことで、俺は懸念を持つことなく斬り込む」

「なんか、ありがとねレイジ」

「一族の名にかけてもうあんな醜態は晒しません」


 「さっさと倒して6階に乗り込むぞ」


 「「おおー!」」


 軋む扉の音さえ重厚感が漂い、その重みがプレッシャーとなって圧しかかる。

 初めてのボス戦。

 

 舐めてかかったら死ぬ。

 死んだら、真由のいる地球が。

 

 俺如きの一人や二人がいなくなろうと、きっと体勢に影響は与えないんだろう。

 でも、あと一歩足りない時、俺の力でも繋がる何かになるのなら、その時まで死ぬわけにはいかない。


 そんな俺の決意をあざ笑うかのように、目の前の光景にフィオが絶句し、シルメリアが愚痴を吐いた。


「クソ情報売りやがったあのボケナスは骨まで焼き殺す」


 体育館ほどもあるボス部屋には、オークジェネラルが一体だけいるはずであった。


 だが、そこに敵の姿は3体。


 2体がオークジェネラルらしい大型で甲冑を身に着けた大型オーク。手には血の染み付いた大型のバトルアックスを手にしており、その中央が問題であった。


 「レッドオークジェネラル! 実在したなんて」


 フィオが漏らしたことで奴がレッドオークという、上位種であることが判明した。


 オークジェネラルより一回り大きい、もはや巨人のような存在であり、両手に大ナタを握っていた。


 「焦るな、やることは変わらない! 2体に妨害や足止めをして俺が数を減らす! いくぞ!」


 虚を突かれたフィオとシルメリアに喝を入れるため、俺は単身で斬り込みをかけた。


 お願いします阿修羅王! 俺に力を貸してください!


 左手からいつも以上に漲る気力が全身に行きわたる。


 まずは突出してきた左側のオークジェネラルに対し、俺は一撃離脱の戦術を取ることを決めた。


 というよりも、左手が、あの戦闘鬼神の力を漲らせる阿修羅王の左腕が助言をくれているような感覚。


 迷う時間はないし、拒絶できるほどの戦闘経験も技能も知識もない俺は全身で信頼し駆けるだけ。


 身長3m越えのオークの右足を駆け抜けながら、抜き打ちの一刀で奴の右膝下を両断した。


 追撃はしない、そんな余裕はっと思考がよぎったところに、あのレッドオークジェネラルの大ナタが連続で俺に叩き込まれた。


 二撃はかわしたが、三撃目の角度がえぐい!


 俺は本能的に気力を鬼凛丸にこれでもかと込めながら、レッドオークの大ナタを鬼凛丸で受け、弾いた。


 普通に考えれば、大ナタの一撃で刀などいともたやすくへし折れるだろう。


 だが鬼凛丸は、気力を込めた鬼凛丸は大ナタを受け、そして見事に弾き返すことに成功した。

 両腕がしびれるが、耐えられるレベル。


 だが弾くだけでは終わらず、勢い余ってあの巨大な大ナタの先端40cmほどをバターでも切り裂くかのように斬り飛ばしていた。


 「ブモオオオオオオ!」

 予想外の出来事に思わず怒気を含んだ咆哮を放つレッドオーク。


 一匹の足を潰したが、もう2体の猛攻は凄まじかった。

 床を砕いた破片が全身へ散弾のように襲い掛かり、俺の体力と怪我を増やしていく。


 その間、わずか数秒の出来事ではあったが、フィオのブラインドショットで目の前が暗闇になったオークジェネラルが斧を取り落とし「モガアアアアアアア!」と暴れ始めている。


 ようやくレッドオークジェネラルと1対1の場面が構築できたものの、シルメリアのアイシクルランスが肩を軽く傷つけた程度で終わってしまう


 5mを超える巨体で、あの反射神経はチートに等しい。


 「赤以外を頼む!」


 レッドオークジェネラルの猛攻には、背筋が寒くなるばかりだ。

 どれだけのスタミナがあるのか、呆れるほどに猛攻が止まない。


 反撃の隙すら掴めない。こりゃタイマンじゃ厳しすぎるだろ!


 フィオがブラインドショットを狙ってくれているも、どこに目が付いているのかと疑いたくなるほどにさっと避けていく。


 「ペネトレイトスペル! アイシクルランス! つらぬけえええええ!」


 貫通属性を強化したシルメリアのアイシクルランスが、膝下を失い呻きながらも戦意を失わないオークジェネラルの胸を貫き絶命させる。


 「マルチショット ディレイ フレイムシュート!」


 フィオが放ったのは、6本にも及ぶフレイムシュートであり、同時斉射ではなく僅かな遅延が掛けられている高度な技だった。


 1,2,3とフレイムシュートが体に突き刺さってオークジェネラルの肉を焼くも、甲冑のため貫通できた矢は少ない。それでも足を止めてくれるだけで、ありがたい。

 

 全身が燃え上がりのたうつオークジェネラルにレッドオークが近づくと、持っていた大ナタでその首を跳ね飛ばしてしまう。


 うるさいと言わんばかりの……暴挙。


 俺にとってはありがたいが、レッドオークジェネラルは口から生えた牙を光らせながら不敵な笑みを俺に見せた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る