地球 日本国東京③ 永森家~ゆらゆらさん
「真司さん、春香さん、カノアの散歩いってきまーす」
「いってらっしゃ~い」
永森家での生活も落ち着きを見せてきた。
最初は戸惑いと緊張、何するにも遠慮がちだった真由も、今年2歳になるラブラドールレトリバーのカノアとすぐに仲良くなり、毎日の散歩とケージの掃除、フンの始末など、積極的にこなしていた。
カノアはすぐに真由を友達、守るべき存在として認識したようでどこに行くのも一緒でついてまわり、学校から帰ってくるまで玄関で待つことも珍しくない。
無論、永森家で大事に育てられていたカノアだったが、夫妻が真由を大切に扱っていることを察したのだろう。
一緒にお昼寝をしている様子を見て、永森夫妻はかわいさに悶え苦しんでいたりする。
そんな真由だが、いつの間にかベッドにもぐりこんできたカノアを抱きしめながら寝ていた時のこと。
◆
不思議な夢を見た。
学校の登下校で通る道。
道路の先が、路面がゆらゆらと揺れている。
見たことのないゆらぎ、揺れを不思議に思っていると、そのゆらゆらが人の形となって静かに揺れている。
不思議と怖くはなかった。
「こんにちは ゆらゆらさん」
そのゆらゆらは、小さく頷いたようだった。
なぜか、とてもやさしい雰囲気が漂い、安心する。
「お兄ちゃんを助けてください。別の世界でがんばってるお兄ちゃんが心配です。真由は勉強も宿題も忘れ物もしないようがんばります」
そのゆらゆらとした手が、そっと真由の頭に触れたか触れないかのあたりで目が覚めた。
はっはっはっはとカノアが起きてくれた友達に甘えようと顔をこすりつけてくる。
「もうカノアったら、おはよう」
ぱっと飛び起きると真由はカノアと一緒にリビングに降りていく。
「あの ゆらゆらさんはいったい誰なんだろう」
つい先日まで一緒に朝ご飯を食べていた真司さんは、真由よりも早くお仕事に出かけていることが増えた。
「真司さん大丈夫かなぁ、お仕事しすぎで疲れていませんか?」
春香さんは私を後ろから優しくぎゅっとしてくれた。
「パパは大学時代はラグビーやってたから、体力はあるのよ。でもありがとう真由ちゃん、パパすっごく喜ぶと思うわ」
「はい——」
ここ一週間で真由たちの生活が少し変化していたように思う。
真司さんは警備会社と契約し、監視カメラを設置しフェンスも補強。
扉やガラス戸にも鍵を増設したりしている。
弁護士さんは恨まれることもあるんだと、真司さんは話していたから大変なお仕事なんだろなぁ。
テレビでは、転移訓練施設への爆弾テロが起こり負傷者数名出たというニュースがやっている。
「あれからすっごく治安が悪くなったわね、真由ちゃんも何か変なことがあったらすぐにお家に帰ってくるのよ? それかおばさんに連絡すればできるだけ早く迎えにいくからね」
「ありがとうございます春香さん。あの、あの、あのね、春香さん、真由にできるお手伝いがあればもっとやらせてください。迷惑かけてばかりで、真由にも何かさせてほしいんです」
つい、こぼしてしまった。
「そんな真由ちゃんは——いえ、そうねそれが負担になってしまっているのだとしたら、おばさんが変に気を使いすぎてしまったかもしれないわね」
すると春香さんはキッチンに立って私に手招きをした。
「時々でいいからお料理のお手伝いをしてもらおうかしら?」
「はい! お料理覚えたいです! お兄ちゃんが帰ってきたらおいしい料理作ってあげたい! それに、いつもがんばってる真司さんにあったかくておいしい料理を……」
おばさんは少し上を向いた後、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「ありがとう、ありがとう真由ちゃん。一緒においしい料理つくっちゃおうね!」
「うん!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます