サイクロプス強襲

「ストーンウォール!」

 シルメリアの放った石壁の呪文がサイクロプスの往く手を遮る。


 階段状に突き出た石壁を、サイクロプスはどこで手に入れたのか分からない巨大なこん棒で砕いていく。


 轟音と飛び散る破片、その隙にフィオが放った光の矢がサイクロプスの頭部に命中するも、左手で防がれてしまう。


 それでもフィオは足止めの意味も兼ねて魔法矢を撃ち続けてくれている。


 とうとうサイクロプスはストーンウォールを砕き乗り越え、キャンプ地の目と鼻の先にまでやってきてしまう。


 「てめえら! さっさと足止めしやがれ!」


 慌てて起きた様子のジャノス商会の護衛冒険者 マンティスエッジのリーダーが怒鳴りつけてくるが、協力せずに足止めを要求か、やっぱりクズだな。


 ゴブリンなどなら迎撃できたかもしれないが、サイクロプスとなればほとんどの冒険者が枕を抱えて逃げていく混乱ぶり。


 依頼主である商人たちを護衛する冒険者わずかであり、その惨状を見て俺の腹が決まった。


  巨体が放つ威圧感がびしびしと肌を打ち付けてくるも、阿修羅王の左手から流れ込む戦いへの期待感がその恐怖を上書きしてくれていた。


 ふぅ、と息を吐くと剣を抜きつつサイクロプスへと肉薄する。

 天魔封神流の型を修練してきた成果が、踏み込みのフィードバッグにより自覚できている。

 

 まさかこれほど大きい相手とは思わなかったが、的がでかいと思えばいい!


 (天魔 三連撃!)

 

 全身の気の流れを足へ集中させ、一拍で三連撃を叩きこむ 天魔封神流 剣技の一つ。

 

 奴のすね脹脛ふくらはぎから大量の血飛沫が舞う。

 

 『バモオオオオオオオオオオオオ!』


 耳をつんざくほどの叫びを発したサイクロプスは、持っていた棍棒を怒りのままに叩きつけてきた。

 それは狙いも何もなく、ただ痛みに対するリアクションであるかのように吠え、叩きつけ、薙ぎ払う。


 「くっ!」

 その木片の一部が頭部を掠め、小さな破片が全身を襲う。

 痛い、痛いが動けないほどではない。


 「ソニックブレード!」


 シルメリアの呪文が発動する。暴れまわって理性を失っているサイクロプスの胸部へ真空の刃が直撃した。


『ギャモオオオオオオオオオオオオオ!』


 灰褐色の肌から吹き出すのは、意外にも赤い血。大量に吹き出すそれが大地を染めていく。

 

 せめて動きが鈍ってくれないかと思ったが、奴にとっては少なくとも重傷ではなかった。

 

 「せめて火が使えればいいのに! 木々や枯草だらけのこの場所じゃ」


 そう、フィオやシルメリアの攻撃が風や光、土に限定されているのは、火災を引き起こす可能性が高いから。


 フィオも光の矢で傷口を正確に狙ってくれるので、俺が一旦距離を取る時間を稼いでくれている。


 「ストーンランス!」

 

 シルメリアはかなり高度な呪文を連発してくれているが、サイクロプスの脚は止まらない。


 なんという生命力だろうか。既に胸の傷など塞がりかけている。


 ストーンランスが太ももに刺さって僅かだが、膝をついたサイクロプス。

 フィオが放つ魔法矢がこれに追い打ちをかけ時間を稼いでくれていた。


 これが好機と判断した俺は、再び気を練り上げ奴の懐へもぐりこむ。


 「練気一閃!」

 

 片膝立ちになったサイクロプスの足首、その裏へ気功斬を放った。

 

 手に伝わる確実な手応え。


 アキレス腱であろう部分を確実に断ち切った感触であったが、苦し紛れに振り回した棍棒がかすってしまい俺は吹き飛ばされてしまった。


 かすっただけでこの威力か。 


 「ごはっ!」


 全身に猛烈な痛み、というより衝撃が襲う。


 1秒が長く感じ、意識が失われていく。

 

 こんなところで、俺は。

 真由……


 

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