銀狐族の少女

 三日目の夜。

 数台の行商人たちがキャンプ地にやってきて、それぞれに情報交換していく。

 バルノさんがそれとなく転移者についての情報を探ってくれたが、まるで反応がないらしい。


 俺とフィオは護衛冒険者数名と情報交換をしようとしたが、皆不愛想で話に乗ってくれそうにないためいつも通りの稽古時間にしてみた。


 天魔封神流の型を一通り流し、さらに気功術についても練度をあげていく。


 馬車の中でも常に気を全身で還流させ、練り上げて収束することを実践していた成果が積み上がっていくのはうれしい。


 「やっぱりレイジからは魔力は感じられないね。でもその 【き】 って力がレイジにとっての魔力なんだと思う」


 フィオが走っている相手に魔法矢を当てる訓練と、飛び道具を避け相手に肉薄する俺の練習を5セットほどこなす。


 フィオとの訓練は楽しい。

 彼女は全力で喜び、全力で悔しがる。


 でもすぐにけろっとしてニコニコしてくれるから、一緒にいてとても安心できる相手だ。

 こうして一緒についてきてくれるのは、どうしてだろうと考えこんだりもしたが今は一緒にいられることをただうれしいと思うことにする。


 「面白い訓練をしていますね」


 気配は感じていたが、声をかけてくるとは思わなかった。

 白いローブに杖、背はフィオよりやや低いくらいの女性、いや少女の声。


 フィオが元気で溌剌としたかわいらしい声質なのに対し、その声の質は透明感が溢れるようなそよ風にも似た心地よさを感じさせる響きだった。


 目深にフードをかぶっているその少女の問いに、フィオが答えた。

 「ボクが魔導弓士マジックアーチャーで彼は剣士タイプだからね、こういう訓練する互いに弱点がカバーできるようになるかなって」


 「とても良い訓練でした。見ていて勉強になります。しかし彼は……どうして魔力を感じないのですか? なのにあなたの魔法矢を弾いていましたね、魔力のない身でどうやって?」


 その少女はレイジの元までやってくると上目遣いに覗き込んできた。

 色白な肌に、サファイアブルーの瞳、大きくてかわいい。


 フィオと同等な美少女がそこにいた。

 「もしかしてその使っている木剣に魔力が……いえそれはないみたいですね」

 「レイジはね、ちょっと変わった魔力? 【き】 っていうのを使うんだ」


 あら、フィオさん。そういうことはあまり手の内を明かさないほうが。


 「き? 初めて耳にする言葉ですね。あの木ではなく、き なのですねよね?」

「そうなるかな」


 その少女はフードを外すと、ぴくぴくっとかわいい狐耳が飛び出した。


 「あなたは銀狐族? すっごい綺麗な髪と耳~」

 フィオが満面の笑みで近づくと、少女は少し頬を赤らめながら「どうも」と呟いた。


 「では私とも少し訓練をしてみませんか? 訓練用の魔法弾にしますから、これを弾いてみてください」


 数秒悩んだ。

 魔法矢と魔法弾の違いはあるのか、本物の魔導師ぽいから今ここで経験を積めるのは大きいと判断する。

 「こちらこそお願いしたい」


 こくりと頷いたその少女は距離を取る前にそっと口にした。

 「私はシルメリア。銀狐族の魔導師です、よろしくお願いしますレイジさん」


 「よ、よろしく」


 距離は20mほど。実戦を想定した距離。

 

 俺は旅の途中で削り磨きながら仕上げていた木刀を構える。


 全身に気を循環させ、体内の反応速度を上げていく。

 筋力を強化し、木刀へと気を流し込んでいく。


 「いきます。エナジーボルト!」

 

 青白い魔法光弾が数発、俺めがけて放たれた。

 その光弾は、杖の周辺に5つほど生じ、その後連弾となって俺に襲い掛かった。

 

 フィオの魔法矢も相当な速度だったが、こっちはさらにえぐい。


 全弾 自動追尾機能がついているのだ。

 避けることが困難と判断した俺は、あえて前へ踏み込んだ。

 

 一発目を右袈裟で弾くも、手応えは軽くて助かった。


 続いてほぼ同時にくる二発目、三発目を左に薙ぎ払って相殺。


 その後の4、5発目は、シルメリアの実力の高さを裏付けるものだった。

 直線上にならんだ4,5発目。

 剣で弾くにしても、続く5発目を被弾してしまうリスクが高い。

 

 なので俺が取った方法は、四発目を叩き落とし、着弾寸前に右の手の平で光弾を弾くことに成功する。


 手の平に気を収束させて非常時の防御として使うことは、天魔封神流の型にも組み込まれていたことが幸いした。


 「ちょっと! 今のいったい何ですか!? あれが魔力であったとしても非常識な対応なのに、あれって」


 シルメリアは混乱しているようだった。

 

 俺に駆け寄ってきて、右手を掴んで手の平をぐりぐりと触って怪我がないか確認しているようだ。


 「大丈夫みたい……レイジ、あなたっておもしろいわね」

 「思った以上に評価されたようだ」


 フィオはシルメリアの魔法操作技術にえらく感心してしまっている。

 「すごいよシルちゃん! 魔法矢は連射ができないからああいうの憧れるなぁ」


「フィオさんだったわね? 魔法矢でも連射、たぶんできると思うわ」

「え? うそっ!?」


 「魔導弓士の動きと魔力の流れを見せてもらったけど、連射っていうか同時斉射でタイミングずらせば連射になるんじゃないかしら?」


 「どうじ せいしゃ?」

 

 フィオとシルメリアは何か意気投合したらしく、お互いに盛りあがっている。


 しばし話が弾んだあと、フィオがある提案してきた。

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