冒険者登録
皆と向かったのはネグランという小規模の町であった。
冒険者ギルドの支部があることから、彼らにとって何かしらの稼ぎになるような狩場や依頼が多いところなのだと思う。
フィオと同行していた冒険者たちは、たまたまパトロール任務で一緒になった人たちらしくちょっと顔見知り程度の間柄だった。
街の中でも大きめな建物は、木材とレンガを組み合わせた建築で北欧的というかファンタジー感にあふれている。
魔法を使っていると思われる照明や、併設酒場のキッチンなどに魔法道具らしいものの存在が見て取れる。
フィオは何やら上の人間と言い合いをしていたものの、ぷんすか顔で座っていた俺の元へと戻ってきた。
「まったくもう、レイジが死骸蜘蛛を倒したって言ったのにまったく信じてくれないんだもん」
「別にいいよ。犠牲者出ずにフィオが助かったんだからそれでいい」
「あ、あのそのそれはね、すごくうれしいんだけど。報奨金が出るはずなの、邪妖種に関しては特に。君は冒険者登録してないからギルドカードでの真偽チェックもできないって、まあ言い分も分かるんだけどさ」
「わざわざごめんな」
「何言ってんの、いいってヴぁ! んでギルドの人が君にね冒険者登録してほしいって。ギルド側からの要請だから、今なら登録料は免除してくれるって」
冒険者登録。
永森さんが言っていたのを思い出す。もしあちらで戦力外にされてしまったら、冒険者登録をして非戦闘任務をこなすことで生活できるんじゃないかと。
俺自身もそういう方向できっと話が流れると思っていたから、登録するつもりではあった。
ここでそうだと、気付いた。
ギルド関係者なら、転移者に関する情報を知っているかもしれない。なら媚びを売るわけではないけど、ある程度の信頼関係を構築することが重要であると。
「分かった。登録してみるよ、初めてなんで一緒についてきてくれると、そのうれしいんだが」
「もち、ろん!」
フィオの満面の笑顔を見ていると、あの苛烈だった日々が嘘のような穏やかさが胸に染みこんでくる。
新規冒険者登録を担当するのは眼鏡をかけた知的なお姉さん風、人族の女性だった。
フィオと一緒に書いた書類を提出すると、冒険者登録の際に必要となるクラスと魔力判定の装置に手を乗せるように指示された。
「この水晶玉に右手を乗せてください、こちらが合図するまで動かさないでくださいね」
「はい」
不思議な金属版に水晶玉が埋め込まれているような装置。日本で測定した際の装置とは根本的な原理が異なるように見える。
時間にして10秒ほどであろうか。「はい、もういいですよ」
水晶玉が明滅を繰り返し、それが治まるとジジジという音が聴こえ、カシャンと何かが出てきた。
「はい、これが冒険者カードになります。身分証になりますので……あら? クラス判定が不明? 魔力測定不能…… 」
やはりな。想定内といったところか。これでフィオが幻滅して掌返しとかだったら結構へこむ。
「すごいじゃんレイジ! たまにあるんだよ判定不能なレアクラスの人って!」
「いやこれは期待外れってことなんだと思うぞ」
「違うって、邪妖種倒しちゃう人なんだからレアクラスで確定だよ」
「えっと、おそらくフィオさんの言う通りかもしれません、これでも冒険者活動ができますが、大きい街に行ったときには改めてもっと精度の高い機器での検査をおすすめします」
「ありがとう、そうしてみます」
冒険者に関しての情報は、日本で報道されていたのとほぼ同じだった。
S~Fランク。貢献によって昇進。
あとは罰則について、細かく説明を受けたが他人の依頼を横取りしたり、冒険者同士で殺しあったりすることはご法度。
無論、我が身を守るための戦闘は例外とはなる。
「じゃあ帰ろうレイジ、今日は私が夕飯おごっちゃるよ」
えへんと胸を張るフィオの明るい笑顔に、この先の不安が少し和らいだ気がする。
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