旅立ちの日
東京都港区に政府の肝入りで建設された転移施設。
東京テレポートターミナル。
港湾倉庫数棟を買い上げて転移施設への突貫工事。それだけ政府や世界は焦っていたのだろう。
ケチで有名な財務省でさえ、その予算を率先して確保したという。
本来であれば月の位置と魔力の関係で、二か月に一回程度 実施される転移であったが、転移者は予定転移日に合わせてあちらで役に立ちそうな剣術や槍術、体術、サバイバル術、あちらの国家群と基礎知識などの講義や訓練を一カ月前から開始する。
達人となるためではなく、スキルレベル1を獲得するための準備なのだという。
なので転移の一時間前に集められた今回の転移者、21名はそれぞれにスキルやクラスについての情報を交換するなどしていた。
さらに特質すべき事項としては、適正者は圧倒的に日本人に限定されていたといううこと。世界的に調査が行われたが、各国での適正者はゼロ、もしくは一人いればましという状態であり、必然的に外圧によって転移ミッションは実行されていく。
「よう若いのに大変だな」
隣に腰を降ろしたのは、30代半ばで人のよさそうなおっさんだった。
「いえ」
「俺は相模圭介。クラスは槍使いで、スキルは槍術と体術だ。向こうであったらよろしくな」
「あ、どうも。風間レイジです」
相模は俺の左手を吊った三角巾と右目の眼帯が気になったらしい。
「あんちゃん、その怪我、訓練でか? まあ激しい訓練で負った怪我があっても、あっちで治癒の魔法だかかけてくれるから、ある程度の怪我ならいいって話らしいが、クラスとかはどんな感じだ?」
「ちょっとはりきりすぎました。クラスは、その外れぽくて、その」
相模は人の好い男らしく、バカにしたりそういった素振りは見せなかった。
「まあそう落ち込むな。外れって言っても、一部の連中がそう決めつけているだけで、生き方なんていくらでもあるさ、無理に戦うだけが魔王討伐の方法じゃないだろうしな」
後方支援ということを言っているのかもしれない。
「そうですね、がんばります」
「というかなぁ、転移場所は一か所でいい気がするんだが、なぜばらけさせるのかね」
「たしかに」
転移者はあちらで転移ゲートを管理している複数の国家に振り分けられるという。
この時点で外れやら当たりなどが存在するらしく、皆が望むのがサポート体制が熱く賢者ワグニールも所属するアルマナ帝国、次いでティルギア王国となっており、その他大小の国家が転移者を受け入れる。
最後に面会に来てくれた永森が、真由からの手紙を持ってきてくれた。
これはあちらには持っていけない。
待合室に来るまでに何度も何度も読み返した。
” お兄ちゃんへ 真由はお兄ちゃんを世界の誰よりも尊敬してます。
絶対に生きて帰ってきてね、また一緒に暮らそうね ”
十分だ。
思い残すことはない。恨んでくれて忘れてくれてよかったのに。
人殺しの兄を持つことになった恨み言を書いてくれてもよかったのに。
永森は目を赤くしながらこう言った。
「右目を失い、左手の自由も無くした君を異世界へ送り込んでしまうことを許してくれとは言わない。
ただ、私は全力であの真由ちゃんを守り育てると約束する。昨日、養子縁組手続きの申請を行ったよ。妻はもう真由ちゃんの服を買いにいったり、使うことのなかった子供部屋のインテリア選びにはりきっていてね、あんなうれしそうな妻の顔をってごめん、こちらの話ばかり」
「いえ、もっと教えてください。真由のことを。そして奥さんにも、心から感謝していますとお伝えください」
「ああ。分かった、わかったよ。だから、この世界に住む大人の一人として言わせてくれ、ごめん、どうか生き残ってくれ」
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