第5話 パンジーの店

 「だってあたし、極悪人よ?」


 「それはどういう……」


俺が発言の意図を効こうとしたところで、フリダヤが仮想マニュピレーターを展開。立ちはだかる様に手のひらを向け臨戦態勢に入った。


 「フリダヤ!!」


俺はフリダヤを制止した。本気の発言とも決まっていないのに、いきなり攻撃しだしたらことだ。


 「大丈夫よ、別に取って食ったりはしないわ。私はパンジー。貴方たちは?」


パンジー。源氏名か?いや、名乗られた以上はこちらも名乗り返さなければ…


 「は、はい、私はクサマキ、クサマキ・ケンジロウといいます。こっちのハート形はフリダヤ。故あってこんな姿になっています。パンジーさん先ほどは助けていただきありがとうござます。」


俺が自己紹介をするとフリダヤは空中に投影されているハート形を傾けてペコリとお辞儀した


 「人命保護の為とは言え、助けていただいた恩人に大変無礼な真似をしてしまいました。申し訳ありません」


 「いいのよ、困った時は助け合わないと。それよりそんなにかしこまらないで。背中がむずがゆくなっちゃう」


そういってパンジーはわざとらしく身震いをした。さっきの発言の真意はわからないがパンジーは本当に自分たちに危害を加えるつもりはないらしい。


 「あ、そうだ!アタシこれから御飯なんだけどあなた達もどう?」


何とパンジーが思いがけない提案をしてくれた。


 「え!いいんですか!」


これは天祐やっとまともな飯にありつける!


 「クサマキ様」


ハッピーな気持ちに水を差すようにフリダヤが割り込んできた。こういう時は大抵いいことじゃない。


 「な、なんだよ」


野菜をたくさん食えとか教育ママみたいなこと言うんじゃないだろうな


 「申し上げにくいのですが、クサマキ様の人工消化管は固形物を消化吸収する性能はありません」


 「はぁ!!じゃあ元に戻るまで液体物だけで過ごせってのか!!」


 「液体物の摂取も制限されます。この義体の人工消化管には唾液を嚥下し濾過する程度の性能しかないのです。少量の飲料水程度なら大丈夫ですが、糖質やアルコールを含む液体を摂取した場合、機器の破損の恐れが……」


 「マジかよ……」


この体には食の楽しみすらないのか……


 「それじゃあご飯はどうやって食べるの?」


 「生命維持装置に直結された栄養タンクから直接サイボーグ用流動食を摂取します」


 「そこは他のサイボーグと同じなのね」


ちょっと前にコンビニで見た奴か、体の左側についてる機械の腫瘍にゼリーのパックをセットしたあの時の……

ん?今フリダヤは聞き捨てならないことを言わなかったか?この体の左側についてるのがなんだって?


 「ちょっと待て、コレ生命維持装置なのか!?」


俺は唇で機械の腫瘍を指す。


 「はい」


フリダヤはそうあっけらかんと答える。


 「管がいっぱい飛び出しているようだが!?」


 「それらはクサマキ様の頭部につながっている人工血管や電力を得るための電源ケーブルです。切断は即生命に関わりますので注意してください」


何てことだ、俺は心臓をむき出しで戦ったり走り回ったりしていたというのか!


 「何ともはや……」


肩を落としたかったが、落とせるような構造の肩がない……


 「クサマキちゃん無理かもしれないけど、あんまり気を落とさないで。美味しいミネラルウォーター出してあげるから。あとサイバネフードも」


 「うう……有難うございます……」


そういってパンジーは厨房へ向かう。自分で調理するようだ。ほかに従業員はいないようだが一人で店を切り盛りしているのだろうか?


厨房ではパンジーが空中に指でジェスチャーしながら筒状の機械を操作している。確か似たような機械がコンビニにもあったはず、同じものだろうか?


 「なあ、あの機械何?コンビニにもあったよな?」


 「あれはオムニプリンターです。制約はありますが、容器に格納可能な物品なら何でも出力可能な3Dプリンターとお考えください」


 「食べ物も出せるの?」


 「可能です。高性能なものでは人体のパーツさえ出力できます」


 「何でも出せる魔法の箱って訳か」


ふと厨房で作業をしているパンジーの背中を見ていると、俺の脳裏にある疑問がわいてきた。


 「あの……パンジーさん?」


 「なあに?」


パンジーが背を向けたまま返事をした。


 「パンジーさんは何故サイボーグになろうとしないんですか?」


 「どういう意味?」


パンジーはまた背を向けたまま作業の手を止めず返事をした。


 「それは、今の時代はこれだけ技術が進んでいるのだから、化粧とか色々するより手っ取り早く女性の女性の義体になってしまえばよいのでは?」


その俺の一言にパンジーはぴたりと作業の手を止める。


そしてゆっくりとこちらに向き直りながら口を開いた。


 「あらあら…駄目じゃない、そんな、いけないこと言っちゃ」

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