第17話 白の君
王宮では三度、デビュッタントのためのパーティーを行うことになるんだけど、デビュッタントのパーティーは祝い事となるため、集まる人の数が通常よりも多かったりするってわけ。
他国からの要人を招いている場合もあるし、宗教関係の要人を招いている場合も多い。特に成人の祝いには神の祝福を与えるという意味もあって、宗教関係者が多く参加していたりするわけだ。
「取り巻きたちも、自分の親族のデビュッタントをお祝いしたりする関係で、常に姉の近くに侍っていたわけではないと思いますし、人の目が離れることも多いため、ちょっと休憩室を利用してからのランデブーは十分にあり得るかとも思いますよ?寝取られ小公子様?」
姉の相手は王侯貴族かもしれないし、宗教関係者かもしれない。聖宗会にとって聖女は男のために傅かせて良い存在であるし、姉に手を出したというのなら、聖宗会派の人間ではないかとも思うのだが・・
「次に寝取られ小公子と言ったら、金は没収する」
「なんで?本当のことなのに!酷くない?」
アレックスの側近であるブラームに訴えても、彼は無言で首を横に振った。
「それで?お前は誰が自分の姉の恋人だと見当をつけているんだ?」
「見当までは付けられてはいないんですけど、姉はですね、アレックス様よりも身分が高い人と懇意になったと言ってはしゃいでいたんですよ」
「それは侍女も言っていたな」
アホな姉は、公爵家嫡男の婚約者という立場だというのに、男に囲まれて浮かれていたってわけですわ。次女の私が八股しているあばずれだという噂が市井にまで流れているみたいなんだけど、貴族でその噂を信じている人が、さてどれほど居るのだろうかと疑問には思うわけ。
パーティーには一回しか出ていない私でも、八人もの男に囲まれている令嬢が酷く滑稽に見えるのは想像できるもの。妹が八股?それ、姉の間違いじゃないの?って、普通だったら思うものね。だけど、パーティーに行かない下々の者なんかはそんな事実を知らないから、
「お嬢様、俺と遊ばない?」
と言い出す使用人を発生させる機会にもなっちゃっていたってわけだよ。
「私よりも高位の男性と言っていたとしても、結局は、取り巻き八人の中の誰かなのだろうと思っていたのだが?」
アレックス様の言う通り、小公子よりも上のランクなんて早々いないのは間違いのない事実。
「男性と交際が進んではしゃいでいた。だけど、想定外の妊娠は喜ぶべきことではなかったみたいで、私にスープはかけるわ、熱いお茶はぶっかけるわで、毎日、イライラをぶつけられてこっちは困っていたんですけどね?」
「そのことについて伯爵夫人は注意は・・しないか」
「しないです」
姉妹格差が凄いことになっちゃっているのでね?母も父も、私を視界にすら入れようとしないですもんね。
「子供が出来た!いや、本当は出来てはいなかったんですけども、そのお相手に子供が出来たと言ったとして、さあ!結婚しようぜ!とはならなかったんだと思います。仮にも公爵家の嫡男の婚約者ですから、追い詰められていたとは思います」
「それで、毒を飲んで死んだ」
「と、見せかけるようにして殺された」
転がる小瓶からはパラマリンの毒が検出されたんだけど、姉の遺体に服毒症状はなく、重度のアレルギー症状が出ていたらしい。口から生卵を入れられたというのは、あり得ない話ではなくて、首から胸に広がるのもアレルギーによる紅斑であると報告書には記されていた。
なんでそんなことをしたのか謎に満ち溢れているんだけど、とりあえず、姉のお相手は誰なのかと考えてみるとだよ?
「姉はですね、お相手のことを白の君と呼んでいたみたいなんですよね?」
普段は無表情が多いアレックス様が、驚愕に目を見開いている。
後ろにいるブラームが、嘘でしょ?やめて!みたいな顔で私を見ている。
「姉はですね、お相手のことを白の君と呼んでいたみたいなんですけど」
もう一度、同じ言葉を繰り返すと、
「白の君だって?」
憎悪も顕にして目を吊り上げたアレックス様が、
「まさか、ガブリエル・ドメニコ・マストロヤンニが相手ってことじゃないだろうな?」
と、言い出した。
船で遠くからやってくる外国人を除いたら、ほぼほぼ、白色人種しかいない王国で、白の君だなんて呼ぶような人は、髪の毛が真っ白な人なんじゃないのかな?って思っちゃうものですよ。
ちなみに、今現在王国にやって来て『聖女の涙』を血眼になって探しているという枢機卿は、お年は確か二十八歳。肌の色は白蠟の如き白さをもち、髪の色は一切の邪な思いを持たないが故に純白だとされていて、緋色の瞳は全てを見通す神の眼差しと言われている。最年少の枢機卿ってことになるんだけども・・神が作りたもうたと言われるほど美しき容姿ゆえにレディたちから『白の君』とも呼ばれていたりするってわけですね。
「枢機卿は、止葉の月の王宮のパーティーに参加されておりますね」
「あのクソ野郎、自分は清廉潔白であると主張して、ニコニコニコニコ笑っていながら、その実、貴族令嬢たちを食いものにしていたというわけなのだな!さすが聖人様!さすが尊きおかた!子供が出来たなどとフレデリークが言い出したのなら、殺す一択にもなるだろう!」
「いや、決めつけは良くないですって。何をもって『白の君』と言っていたのかわからないんですからね?例えば、お尻のところに白斑が出ていたり、お腹とか背中に白斑が出ている人も『白の君』って呼んだりすることもあるわけでしょうし?」
皮膚の色が抜けて白くなることを白斑と呼ぶんだけど、体の色々なところに斑らに色が抜けている人が結構な数いるらしくって、娼館で働くお姉さんたちは、白斑がある人のことを『白の君』と呼んだりするんだよね。
「相変わらず下世話な話にも通じている」
アレックス様が呆れたように言うと、
「マルーシュカさんが作っている匂い袋は娼館でもよく売れていると言いますしね?その関係じゃないですか?」
と、フォローするようにブラームが言い出している。
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