ハヒルの迷惑〜(上)ギルド嬢と冒険者は関わってしまった

 ガリ国、冒険者ギルド潜入中の調査員より、レイランド諜報部へ報告…

 ギルド嬢のエイコのチラシの裏に書き殴られた文書からハヒルという存在の調査を開始、ギルド嬢へのコンタクトに成功した。


―――――――――――――――――――

 冒険者ギルドは、今日も忙しい。

 このギルドは城下にある故か、あらゆる場所からの依頼が入ります。

 近くの村々からの薬草拾いからゴブリン討伐、そして遠くの砦から高ランクの魔獣の調査依頼まで様々です。


 我々の国ではギルドが依頼の精査、冒険者や傭兵の管理をしており、彼らの人数によって呼び名が変わります。

 基本的な冒険者達のパーティーは10人以下で依頼を受けて頂きます。

 その中でも徒党を組んで、パーティーメンバーが同一の目的であったり新人の育成を行ったりと組織化しているのがクランといいます。

 ちなみに私も元傭兵、所属していたクランは、100人以上の大所帯でした。


 現在、私はこのガリ国の冒険者ギルドで受付や管理の仕事をしています…以前の冒険者ギルドは依頼者や一部の冒険者、そして国の運営する故か、ギルドで賄賂やら横行し、十分な報酬は払われず、一部の冒険者が使い捨ての様に扱われ腐っていました。

 しかしこの国ではトップのクランだったアーヌー・スホール、国と癒着して腐敗したギルドを立て直した今のギルドマスターがそのクランの出身という事です。


 今のギルマス率いるクランがグランドドラゴン討伐に成功し、謁見の際直訴して今の冒険者を大事にする体制があります。

 その様な背景があるので我々ギルド嬢も冒険者達の事を理解し、そして努力を怠りません。

 ちなみにその様な理念に惹かれ、私も傭兵から足を洗い今はギルドの受付をしています。


 本来、私は【無限双剣のエイコ】なんて言われ、前線で盾役と共に戦う役割だったので、受付嬢なんて柄に合わないと思っていましたが、これがなかなか合っていました。


「今日もスライムスレイヤーさん…来るかな?」


 そんな我々、冒険者ギルド。

 10人近いギルド嬢には推しの冒険者がいます。もちろん贔屓はしませんよ。

 ただ、私の場合は、自分の出身の村を救ってくれた礼がある、推しの冒険者にはちょっと甘いかもしれません。


 私が所属していた大型クラン【アーヌー・スホール】でドラゴンの討伐に出ている時にスライム大量発生から家族を救ってくれた方なんです。


 その時から私の推し活が始まり、態度はあからさまに…あ!スライムスレイヤーさんだ!


 そう!彼が一押し!スライムスレイヤーさん!こちらに真っ直ぐやってくる♥


 全身鎧で顔も見えないが、今日もスライム討伐の依頼を受けるのかしら?

 スライム相手に重鎧という敢えて不利な装備で挑む彼にドキドキが隠しきれません♥

 ちなみに一度顔を見たがなかなかの童顔で…ゴクリ…


「なぁ、今日もスライムの討伐はあるかい?」


「はい!4件あります!他にも薬草集め等もありますよ!」


「そうか、とりあえずスライム案件4つ…頼む」


 今日も力のない人達の為に、重い鎧を付けてスライム相手に頑張るスラスレ(略称)さん、惚れ惚れします♥


「はい!いつもありがとうございます!皆のやらないスライム討伐、スライムスレイヤーさんのおかげで村人から感謝の【ドォン】


「おいっ!スライムスライサーはいるかっ!」


 私のテンションが一気に落ちました。

 何が来たか、声で分かります。

 それと同時に外側から見えない全職員に伝わる【要警戒】ボタンを押します。


 ハヒルが来ました、あのクズ野郎が…


「私はスライムスレイヤーだが…」


「何でも良い!スライムをスライスするのをやめろ!イブキ様曰くスライスするのはチーズだけで十分だ!何で私の邪魔をする!?」


 このハヒルという馬鹿、そう、馬鹿だ。

 元々、同じクラン、私の先輩でアーヌーのナンバー3だったイブキさんの奴隷という事だが、どうやらイブキさんは匙を投げて逃げた。


 同じクランに所属していた時もイブキさんの魔導器や魔装にはお世話になったが、あの人も様子もおかしい人だった。

 伝説級の装備や武器を作るのに、何故か装備の胸部分だけ開いたり大事な部分が外れて見えたりする謎のギミック。

 武器も使えば使うほど男性器の形になったり目茶苦茶だった。

 ただ、やたら高性能で死物狂いで戦っている最中に恥じらいもクソも無い。

 当時はどうでも良かったが今考えると…


「オイ、ギルドの嬢。貴様の差し金か?冒険者時代に意味不明なアピールしてイブキ様の寵愛を受けようと必死の嬢。お前はギルマスとやってろ」

 

「帰れ…って下さい…」


 コイツ、こっちは管理して色々やってんのに、雑魚から二つ名付きの魔物まで意味不明な理由で意味不明なタイミングで討伐をする。

 正確に…というかほぼ報告をしないので討伐隊を組んだら死体とか、最も酷い惨状になっている事が多々ある。

 他にも意味無く薬草を配る、護衛対象の依頼人に話しかけて誤解を生み、出発してそのままはぐれてしまう等も日常茶飯事。


 今もスライムを討伐しろと依頼人が言っているのに、スライスしようがスレイヤーしようがどっちでも良い事でガタガタ。

 ギルドがザワつく…2日から3日に1回はやってきてこの調子です。

 スラスレさんの前ではしたない事はしたくないのに…


「しかしまぁ、スライスしないと魔石が取れないぞ?」


 スラスレさん、話しかけては駄目!馬鹿が伝染る!


「魔石取ると溶けるだろうが、そしたら合体出来ない、だからやめろ」


「合体?ハヒルはスライムなのか?」


 また意味不明な絡み始めた。

 こういった迷惑行為を取り締まるのもギルドの仕事…


「ハヒルさん、スライムスレイヤーさんは依頼をこなしただけです、我々が依頼したんですよ?とっとと森に帰れ…て下さい」


「森?あぁ…ギルドの嬢、貴様もなりふり構わなくなってきたな、この白豚。イブキ様から聞いたな、何とかのジョ―、という話…アレは、つまりお前の事という事に辿り着いた(笑)」


 何がおかしいのか、この馬鹿は。スラスレさんの前で、豚呼ばわりしやがって…


「ギルドの嬢…この白豚め。貴様の陰謀は最早時間の問題だ、早く大量の豚に乗って国から逃走しろ、豚。そして東へ西へ、彷徨う間にお前も豚になるだろう、あ、今もか」


 カシャンシャンシャンシャン…


「ん?何の音だろう?ハヒル、また何かやってるのか?」


「いや、スライス君、私は何もやってないが?お前の股間に隠しているスライムプレイ、もしくはギルドの嬢の屁の音だろう」


 私はギルドの受付の机の下で怒りをぶつけるべく双剣を回転させていました。

 リングのような持ち手を回転させ、無数の刃を高速回転させ敵を切る。

 冒険者時代の武器ですね、コイツゥ…スラスレさんの前で…何度、豚と言った?このクソ野郎…


「なに言ってん?帰れ、分からん?はよ帰れや…散れって言ってるのわからん?」


 ハヒルの前では冷静にならなければならない。

 このクソはイブキか、敵か、もしくはそれ以外でしか判断出来ない。

 ギルド内ではハヒルに手を出すなで通達が来ている。

 何故なら少し前に、引退してなおSランクの冒険者である、ガリ国で最強の一角であるギルマスを2発で沈めた。

 その前はクラン総出で倒したグランドドラゴンと同格のスカイドラゴンをソロで竹槍で落として討伐している。


 要は誰よりも強い。後なんか知らんけど私には異様に絡む。

 私はクラン時代、お前のクソ主を誘惑したんじゃない、イブキウンコが変態だからあんな格好になっていただけだが?

 

「何?チベタン?イブキ様曰く、チベタン・マスチフという犬が異世界にはいるらしい。お前は犬以下、いや、ノーマル豚以下、秘密の白い豚、ギルドの嬢、鳴くんだ、嬢。ほら、打つべし!打つべし!ブヒィ?」


 ハヒルクソの拳が私の鼻先数ミリで止まる。

 スラスレさんの前でこんな顔になりたくないが怒りが…コイツだけは刺し違えても殺す…

 

「エイコさん、鼻血が…それに顔…」


 スラスレさん、見ないで…コイツ殺せない…


「そこまでだ!オイ!エイコを下げろ!エイコに対応させるなって言ってんだろ!?」


 奥からギルマスが出てきた、遅いんじゃこのクソハゲ!ギルド嬢のシイコとチョメってんだろうがハゲ!

 

「遅いんじゃこの浮気アホのクソハゲ!シイコとチョメってんじゃねぇ!」


 心の声がそのまま出た。


「おまッ!?何言ってんだ!?」


「はぁ!?私とはチョメって無いし!?チョメってたのはビーコだし!?」


「はぁ!?シイコふざけんな!?5年前の話を蒸し返すなや!」


 ちなみにギルマスは5年程前に10年ほど付き合った同じクランの目茶苦茶嫉妬深いメンバーと結婚した。

 ちなみに結婚したのはビーコでは無い。


「ぐおお、ハヒルゥ…お前が来るといつも…こうだ…何も言わず帰れよ…イブキにクラン名の件も含めてお前を必ず殺すと言っておけ…」


「やぁ!イブキ様曰く、股間の水槽の中に本体のあるギルマスこと変態蛸野郎。元気か?良いからマンタレイの情報よこせ、隠すからこうなる、浮気も、性癖もな。イブキ様を殺すというのはつまり死にたいと仰ってらっしゃる?」


 そしていつもの…ギルマスの事勿れ主義が発動する。そういう所が従業員を大事にしない職場と…


「悪かったハヒル、悪かったよ、何でも無い…まぁ皆、落ち着けよ、な?ハヒルもとりあえず外に「やかましい、暗がりに連れ込んで豚にした事を私にやるつもりだな?」


「しないしない!本当だ、豚にした事…じゃないエイコにはそんな事してな「クソハゲェ!今スラスレさんの前で豚って言ったなキサマぁっ!ぶっ殺す!」


「よせ!エイコも落ち着けよ!何で毎回こんな事に…」


 私は客…とも思えないハヒルはとにかく上司のこれはあり得ない、このハゲ殺すと思いながら机の下から双剣を出し構えた…


「す、すいませーん、私達ヨヨ村から来たんで…」


「ウルセェッ!黙ってろ!キサマもぶっ殺すぞ!?あ、間違えた!はーい♥冒険者ギルドへようこそー!私はギルドの嬢…じゃねぇ、ギルド嬢のエイコでぇす♥」


 こんな事やってたらいつか私の気が狂いそう…こんな日常が…ハヒル馬鹿がマンタレイはエルフの国に降りているという謎の発言をするまで続いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


僕はサブロ、ガリ国の西の辺境で冒険者をやっている。って言っても荷物持ちだ。

 幼馴染み2人の女の子は戦士と魔道士、2人共才能があり、ゴブリンやスライム程度ならソロで討伐もしている。


 それにひきかえ僕は元々ヒョロく、だけど冒険者に憧れたので、アイテム鑑定士の資格を取り冒険者の真似事をしている。

 

 そして今、僕ら3人のパーティーはガリ国の城下の冒険者ギルドに辿り着いた。


「さぁ!ガリ国のギルドに着いたよ!それにしてもサブロさぁ、私の荷物落とさないでよぉ?」


「分かってるよ、いちいち言わなくても…」


 メンバーの1人、戦士のパルフェが不満を口にする。

 

「だって、回復薬落ちてるじゃん…サブロ君、頼むよ?荷物ぐらいちゃんと持ってね?」


 もう一人のメンバー、魔道士のショコラも口を尖らせながら不満を口にする。

 僕は荷物持ち…まぁアイテム使いという扱いだがメンバー間で言えば、お荷物だ。

 自覚があるとはいえ、改めて言われると心に来るものがある。


「これから私達、ヴァルキリーズが日の目を見る大事な時なんだから頼むよ?ホントにもう…」


 ヴァルキリー…戦乙女という時点で僕が外されているがまぁ良いや…ここが街のギルド…ドラゴンやオーガ、強いモンスターを倒すクランがいるというガリ国の冒険者ギルドかぁ…


 憧れの地…城下のギルド…村と違って沢山の強そうな冒険者や傭兵がいる。

 雰囲気で分かる、村で一番と言われたパルフェとショコラが子供に見える様な…本当に強い人達が…え?


「クソハゲッ!ぶっ殺す!アーヌースホールなんてクソ喰らえだ!ハヒルを殺す許可を出せや!出さないならハゲ殺す!」


「違う違う!悪いのはイブキとハヒルだ!俺は悪くない!後、アーヌースホールの名前は大きな声で言うな!異世界ではケ…何でも無い…」


 凄い屈強な男と人とギルド嬢?がお互い刃物を構え睨みあっている…これが…都会のギルド日常なのか…

 しかし、今聞こえたアーヌー・スホール、略してアーヌーと言われるクラン…

 僕ら田舎の村でも名前を聞く超有名クラン…クランマスターのデルタさん、サブマスターのヴァルナさんとイブキさん…3人で立ち上げ、ドラゴンを殺し魔王軍との最前線で活躍、攻略出来ないダンジョンは無いと言われた伝説のクランだ。


「何か騒いでて良くわからないけど…ちょっと受付に行って依頼見てくるね、今日一件はこなさないと野宿になっちゃうし…」


「野宿は嫌だー!何とか良い依頼掴んで来るからサブロはしっかり準備しとけよ!?」


 ショコラは僕には酷いが魔道士という役柄か、学術も学んでいるのでこういう依頼交渉も得意で世間顔も良い。

 パルフェも村のギルドでは人気の冒険者…ギルドとのやり取りは日常の事だ…つまり僕はますます立つ瀬がない。


「分かったよ、行ってらっしゃい。僕は準備でもしてるよ…」 


 溜息をつきながらアイテムバックの整理をしていると騒ぎの渦中にいる人と目があった。

 ヘンテコな格好…ウサギの耳のような物を付けたおかしな人…だけどエルフかな?肌の色は小麦の様な色で…彫刻のような美しい外見がこちらに向かってくる。

 近くになると分かる…エルフ…にしては身長が高く…ゴツい…身体のラインが分かるピタッとしたスーツ…凄い密度の筋肉…怖い…


「お前、どこから来た?そこのアイテム弄ってるお前…何処から来た?」


「あ、はい!西のヨヨ村からパーティーメンバーと一緒に…」


「ヨヨ?ヨヨ…ヨヨヨ?…イブキ様が言ってたな…ヨヨ…裏切りの代名詞…ヨヨ…」


 裏切りの代名詞?僕の村は、そんなたいそれたものでは…


「お前、もしかしてJソンか?Jソンの義体じゃないか?私の目を見て言ってみろ」


「違います…Jソン?義体?何ですか?」


「そうか、しらを切るか…じゃあ…ガム知ってるか?ガム…」


「ガムってあの、ダンジョンに落ちている異世界の遺品の事ですか?…」


 この世界には別の世界からたまにやってくる謎の物体がある。

 それらは異世界の遺産と呼ばれ、貴族の間で高価な価格で取引されている…その中でガムと呼ばれる物があるとアイテム図鑑で見た事がある。


「ほう?ガムを知っている…もしかしたらお前はJソンを倒す手掛かりか、もしくは自覚していないJソンかも知れないな、今後何かになるかも知れん…私はハヒルだ。よし、行くぞ」


「はい?いや、ちょっと待って下さい!!」


 無理矢理手を引っ張り連れて行こうとする!?城下の冒険者はみんなこんな感じなのか!?

 するとショコラとパルフェが依頼書を持って帰ってきた。


「え?何やってんのサブロ!?すいません!連れが迷惑かけました!ちょっとサブロ…何いきなりナンパしてんの?」


「違うよ!ナンパじゃない!」


「だって私達がいない間に勝手に2人で出ようとしたでしょ?そういうのはどうかと思うけど?」


 くぅ、話なんて聞きやしない…


「チンチクリンとチンチンチンの2人、細かい事は気にするな。お前等のパーティーに入ってやる。このイブキ様に鍛えられし暗殺術、とくとご覧になると良い」


「「「はい?」」」


 3人の声が揃った、だっていきなり意味わかんない事言うから。

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