絶望の英雄はかく語りき〜③絶望寸止め行進曲、俺のリビドゥ゙が

「すまんが池端。もっと良いNTRエロ動画を頼む」


「マジか…本当に勘弁してくれ、俺はお前に脅迫されてるようにしか思えなくなってきたよ…」


 池端から最高の、美春とのNTR動画を貰う約束をした。半ば強制的に。

 今更な、船を降りようとしたってそうはいかんぞ?


 そして…それから俺はバイトを頑張った。

 休みの日は引っ越しのバイトも入れた。

 なぜ、突然バイトを複数始めるのか?

 金が必要だからか?否、そんな安い話ではない。

 

 俺はバイトして、美春へのクリスマスプレゼントを買うのだ。


――苦労すればする程――


――価値があればあるほど良い――


――最高のクリスマスプレゼント――


――そして沿えるのは最昂のNTR動画――


――クリスマスという最高の日に――


――夜会に来るという名の完璧なシチュエーション――


――そこで俺の全てを見られるのだ――


 考えるだけでヨダレが出そうだ。余りの事に気が触れそうだった。

 いや、まだ早い。そう、クリスマスまでの辛抱だ。


 後、数ヶ月…俺は美春に分からない様に、だけど何となく美春が不穏な空気に気付くように、ねっとりと計画を進めた。


 

 だが…巷でよく言われている【夢は叶う】


 そんなの嘘だ…俺は神なんていないと思った。


 ある日の夜会で美春は意を決したように口を開いた。


『ちょっと…話があるの…』


 美春!意を決してはいけない!今、何かを発するなら…それは俺にとって大体が都合の悪い事だからだ…


『ごめん、▲◯■…好きな人が出来たんだ…だから別れよう…』


 ハァッ!?今、11月ですがッ!?


 正直、言いたかった。俺の絶望のXデーまで待てと。

 だけどそんな事言える筈も無い。だって言ったらそれでおしまいだから…いや、美春が決断してしまった時点で終わりだったんだ。


 コイツ、逃げやがった。プレッシャーに耐えきれなくなりやがった。

 後一ヶ月の辛抱もできないのか、この馬鹿は!

 この三股虫野郎、お前よりクワガタ雌の方がよほど…よほど…とか、思っていて悲しくなってきた。


 どんなに美春に八つ当たりしても帰ってこない、俺の夢は潰えた。

 思えば人生でこんなに楽しみな事は無かった。


 俺は…何となく運動も勉強も出来たし、特に友人に困っちゃいないし、正直辛いことも無いけど楽しい事も無かった。


「ゔぁああああアアアァァァッッッッッッ!!!」


 そんな俺が泣いた…悲しくて、やりきれなくて泣き叫んだ。

 多分、美春は俺が泣いた姿を見たこと無い。

 俺自身も赤子の時に泣いて以来の…号泣だったと思う。


 好きな人が出来たなんて…そんな理由使われたら俺も立つ瀬ない…

 ここから俺が浮気女なんて騒げば「だから何?」ってなもんだよ。

 目的は断罪じゃない…そんなもんじゃねぇんだ…


『ごめんね、グス…私から…皆には言うから…』


 皆、皆か…夢が叶っていれば…俺の一世一代の舞台を美春は喧伝してくれたかも知れないな…そしたら池端と、旨い酒が飲めたかも知れないな…未成年たけど…そんな事を思いながら土下座の姿勢で泣き叫び続けた。


『ちくしょおおおおおおおおおおお!!!』


 


 それから…俺は引越屋のバイトをやめた。

 意味ないからだ。

 無意味に金だけ余った、何もまだ買ってないからだ。

 パァッと遊びで使おうかと思ったが…そんな気分じゃない…


 今から出会う女じゃない、幼馴染みだから叶う筈だった…そんな偶然と夢の打ち上げ花火…雨が降って…しけっちまった…


 喫茶店のバイトに行くと三春の姉の美琴さんが心配しているのか何か言ってくるが1ミリも入って来ない…

 バイト帰りに公園で更に詰められた。

 美琴さんは美春によく似ている、そのままお姉さんにした感じだ。

 ただ、お姉さんぶる、強引な所があった。

 

 何があったのか?私に何か出来る事は無い?…と。


『もういいんだ、もう、どうでも…俺の気持ちは…分からないよ…』


 だってさ、美琴さんセッティング出来ないだろう?俺の夢舞台をさ…


 俺が俯いていると美琴さんは昔好きだった人の話を話し始めた。いや、聞いてないし。

 何か好きだった人に告白されて有頂天でいたら嘘告だった、だから気持ちが分かるみたいな話をしているが、そんな話どうでも良い。


 もしも好きだった男が嘘告と気付いたけど、男のために身体で金を稼ぎ男の両親を調略完了し、さぁ結婚という所で今更嘘告という事実を聞かされた音声テープを流しながら自家発電してるところを見せようとする準備中なのに、相手の男から『好きな人が出来た』とか言われたってんなら分かる。


 所詮、口ばかりだ、だから世の中しんよ…ウグ!?

 

 突然、美琴さんにキスされた。

 

『プハッ!もう良い!私にしなよ!好きな人が出来るまでで良いから!』


 強引な手口でキスをされ、何だか良く分からんうちに美琴さんと付き合う事になった。

 何やら美琴さんもある程度の事情を知っていて、美春とは冷戦状態になっているらしい…


 面倒な事は嫌だなぁ、もう何も考えたくねぇなとか思いながら結局付き合っていた。

 

 後、今だから思う事がある。ハヒルに美春が転生したと嘘をついたが、実は美琴さんの方がハヒルに少し似ていた。強引でちょっとストーカーチックな所が…


 

 少しハヒルの話をする。

 ハヒルがオイラーを倒して祝勝会があった日、俺は飲み物に毒を盛られていた。

 睡眠…身体の自由を奪う系の薬…気付いた俺は毒を無効化し飲んだ。

 後は寝た振りをして犯人をあぶり出そうと思ったのだが…


 酔いが回ったので少し横になると言って、宿に戻り横になった。

 さぁ来いよ、と待ち構えていると…俺でも出来ないレベルの気配の消し方で何者かが入ってきた。

 探知型の魔導器が無ければ知らない間に死んでたな…

 いや、気付いたとしても相当なレベルの暗殺者だ…やっぱりここで俺は死ぬかもなぁ…と思いっていたが…


 そこには祝勝会の主役だった筈のハヒルが横に立っていた。


 ハヒルは天衣兎萠を使わずとも既に俺のレベルを遥かに超えていた。いや、この世界、レベルなんて概念は無いが、俺が50だとしたら80といった所だ。


 俺は嬉しくなった…師匠超え…弟子の裏切り…調子乗ったハヒルが師の寝首をかく…俺は嬉しくなりついつい勃ってしまった。


 ハヒル…俺に絶望をくれるのか…


 そのハヒルが俺に四つん這いで覆いかぶさり止まった。

 止まったまま…何やってるのか?早く殺れ♥


 しかしハヒルの呟きか俺の絶望を無にした。


『イブキ…さま…お慕い…申して…おります…♥』


 違う、違うぞハヒル。そうじゃない。

 お前は方向性を間違えている、バンドだったら解散問題だ。

 俺の気持ちとは真逆の行動、勢いよく俺のズボンを降ろした。


『ほ、ほう♥これが数多の姫や売女を狂わした…これが今だけ私だけのものに…ほう♥』


 何がほう♥だ。違う、コイツヤバいよ。


「ううん…おい…やめろ…」


 俺は寝ぼけた振りをしてハヒルを牽制した…のが不味かった。

 薄目で見るとハヒルが凄まじい速度で股間から、また四つん這いに戻り俺の両手を片手で持って拘束した。


『起きて無い…イブキ様は…起きて無い…お慕い…起きてない』


「いや、起きて『お慕いキエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ♥♥♥』


 この後は言葉にするまい。

 ただ、俺は何て言うんだろう…パワーセ◯クスというのが嫌いだ。

 勿論抵抗は出来ない、英雄達が七人がかりで策を持たねば勝てないオイラーにステゴロのタイマンで勝つ女だ。いや、天衣兎萠を装衣すれば俺の作ったものなので幾らでも対策というか、発動状態で木とかに押し付ければ勝手に始めるので行動を制御出来るが、生身だとどうにもならん。


 ハヒルって、猪同士みたいのなんて言うか、猛獣の自分勝手なアレ?

 …みたいな感じでハヒルはする。

 俺のメンタルはオークとか何かに襲われた少女みたいなメンタルになる。


 美琴さんもそんな感じだったな、年上だからリードしてくれたんだろうけど、俺からすれば絶望的な気分の俺を目茶苦茶にする感じだった。


 話を戻すと言うか、結論だけ言うと大学に行った俺は数年で美琴さんと別れた。

 美琴さんは言った。


『私じゃ▲◯■を支える事は出来なかったみたい…ごめんなさい』


 いや、アンタ、俺を目茶苦茶にして美春と揉めただけじゃないんかい…とは言わない。

 俺にも原因があるからな、大学を少し離れた所にして一人暮らし、地元の企業に就職していた美琴さんとは遠距離恋愛になったからだ。

 そしてゾンビのような俺はろくに連絡を取らない、会っても感情がないウンコ野郎だからだ。


 俺はあの夢のクリスマスを目指した日に、積み上げた城が砂上の楼閣にされた日に、最早死んでいたんだ。


 俺は大学を卒業してまともになろうと思った。

 親にも悪い。親はお隣さんと良好な関係だった筈なのに俺のせいでグチャグチャになった。

 外から見れば…そして美春の親から見れば自分の娘達が俺に迷惑をかけたと思っているんだろう。


 大学の時に池端から聞いた話だが、池端が俺の言う事を聞かず美春を開放したという。

 どうやら美春はバスケ部のイケメン、吉田と浮気してる事を俺にバラされたくないから言いなりになっていたらしい。

 池端は自分からは誰にも言わないし関わりたくないから、浮気していた事は勝手に自分でケジメをつけろ、俺はもう関わらないと言ったそうだ。


 あのくそやろう…


 最近まで知らなかった…池端と連絡が取れなくなった…というか俺がフラレた衝撃で連絡を取るのを忘れていただけだが、俺がフラレた事を知らない池端がそんな暴挙に出ていたのは知らなかった。

 だからもし当日まで行ってもNTRビデオレターは用意出来なかったという事だ。


 クソっ!池端の卑怯、ここに極まった。


 そして何を思ったか、美春はバスケ部のイケメン!吉田に三股状態だった事を正直に言ったそうだ。馬鹿なのか?

 すると吉田はドン引き…もう自分とは関わらないで欲しいと美春はフラレた。

 そして噂が広まりバスケ部どころか学校にいられなくなり引きこもりになったそうだ。

 その時期に俺に謝罪をしようとしたらしいが、残念ながらパワーセ◯クスの得意な姉、美琴さんに阻まれたいたようだ。そして家庭内で冷戦の末、崩壊。


 この辺りの顛末は俺の親から聞いた。

 親が美春の両親と引っ越し前に会った時、最後に何があったか教えてくれたらしい。

 おじさんとおばさんは良くも悪くも良識があったのか、娘2人の言い分がクソ過ぎたらしく謝って許される事ではないが俺に謝っていたと伝えて欲しいと。

 今となっては、俺は2人は何も悪くないと思うけどな。


 しかしある日、美春の家の前を通った時、売地の看板を見た時に思う事があった。

 俺は人の住まなくなった家の、昔はもう一つの自宅のようだった美春の家を見る。

 色は感じず、ただのボロい戸建ての家。

 二階の元俺の部屋と美春の部屋を見る。


 毎日、お互いの家に行き来して…夜会か…


 何かふと、美春も大概だけど俺も悪かったなって思った。




 そして就職をして、半年頃か。

 俺は会社帰り、飲み会の帰りにホームから押し出される様に線路に落ちて、電車の轢かれて死んだ。

 

 


 死ぬ時に思った。

 まぁ、死んで当然だわな。人は目的が無くては生きていけない。

 俺の性癖、夢、例えば物語の中だけで楽しんでいれば良かったのに…

 アダムとイブ、ヘビとリンゴの話…

 俺は…リンゴの味を知ってしまった…だからもう、この世界で生きるにもう遅いって事だ。


 後悔と諦めと、そして納得のいく死だった。



 そして転生した。異世界に。

 俺は田舎貴族の次男坊に生まれ変わっていた。

 自分が転生してきた人間という事は、物心つく時に気付いた。

 何故なら前世の記憶がずっと頭から離れなかった。

 大学で磨き、大学院で結果を出した工学の知識と、この世界における魔導、魔術の技術を融合させた魔導器を開発した。

 そして一度死んでる上に、この世界では人の生命が軽い。

 それもあって死にものぐるいで鍛えた…転生者のボーナスなのか、神の啓示なんて貰ってないのにやたら強くなった。

 しかし、同時にこの世界でも俺はゾンビだった。

 家は継がず、冒険者になり死に場所を探していた所に…ハヒルに出会ったのだ。


 この時から、俺の運命の歯車は回り始めていた…

  

※次回から勇者編に入ります。

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