絶望の英雄、ハヒルとの出会いと別れ(雑)昔は可愛かったんですよ、いや、そうでもない

 転生ボーナス…だか知らんが、ひたすら魔導器を作りまくる。そんな毎日。


 魔導器とは魔力の込められた道具。

 俺が開発した訳では無い。

 元々、この世界に存在した技術だった。

 過去の転生者が自分の知識と経験を元に魔導器を作ったと思われる。

 何故なら俺程度でも分かるような、元の世界の技術だからだ。

 魔力という人それぞれの色を持つ夢の力、エネルギー、動力。

 それを過去に来た天才が、ありとあらゆる道具!武具を少しの魔力で誰にでも使える様に変えた。


 その技術は今の日本の100年近く前の技術で…現代人の自分からすると、余りに優しく効率の悪い物だった。

 俺しか使えないように工夫しつつ、現代では禁忌とされている武器を作りまくった。

 その武器は…世界的にも禁止されている物だ。

 

 例えば毒。ダンジョンに入る、自分自身には免疫のある毒ガスや痺れ薬を蒔き散らし魔物を殺しまくり。

 殺しまくっても残念ながら、この世界にレベルの概念は無かった。


 ただ、鍛えれば鍛えるほど分かりやすく強くなる。

 筋トレ始めても何ヶ月後とかそういう話じゃない。

 明らかに効果を発揮する、日々強くなっていた。

 そして金も貯まっていった。

 更に言えば何で毒とか殺傷兵器か禁止されてるか分かった。


「それになぁ…俺がしたいのは…別に虐殺じゃ…」


 転生して、記憶を取り戻して、気付いてしまった。

 俺は絶望したいんだ。ただピンチになるとかじゃなくて…そう、裏切り…裏切られたいんだよ。

 俺は昔、仕事中に見ていたラノベを思い出していた。

 奴隷…追放…裏切り…


「よぉし、まずは奴隷を買って、それに裏切られる…これで行こう」


 実力も十分ついた。魔導器も大量に作った。

 今の俺なら出来る筈だ、過去に失敗したような、美春の時の様な裏切りを…


 何か違う気がしたが目的を持つ事は大事な事だと自分自身に言い聞かせた。

 

 まずは奴隷市場で奴隷を探す。奴隷は悲壮感が強い方が良い。

 前の世界だったら自分に対して、コイツ人間のクズだな…で、終わる話だがここは異世界、命の軽い世界だ。


「おい、奴隷達を見せてもらおうか?金ならある」


 実力をつけるついでに魔物の討伐依頼を中心に過剰に殺し、途中で毒でも呼吸器系の毒だとそのまま身体が残るから、その肉やら素材やらは良く分からないから売りまくった。

 なんせ装備は自分で作れるから金が余る。

 今の俺はビックマネーを持つ上客だ。

 

 薄暗い中、色んな奴隷がいるが…ほう?これは… 


「お客さんはお目が高い、このダークエルフは捨て子で、まだ子供だから初物ですぜ?ウヒヒ」


 話に出たダークエルフを見る。まだ十歳前後、元の世界で言う所の小学生ぐらいか…それなりに色々知ってそうだが…凄いな…感情が全く感じられない…

 だが…逆に言えば染まりやすいという事だ。

 更に外見…今の時点で整っている…間違いなく美人になるだろうな。


「おい親父、この子一丁おくれ!」


「へい!お客さん、おめでとうござい!ゾロ目で半額、更に閉店セールでもう半額だぁ!」


 エルフ、この外見、年齢…平均価格より大分落ちてるが…おかしい…安過ぎる…それに理由がいつも閉店セールをしてる靴屋みたいだ。

 なにか理由があるのかも知れないが…まぁ良いか。


「こんちわ!今日から俺がお前の保護者だ、よろしくな!」


「…………ち…わ…」


「コイツ、喋れませんぜ!おっと、返品は…「しないよ、コイツで良い」


 初期化したパソコンみたいだ。しかし元理系としては血が騒ぐな。

 まっさら最高スペック(多分)に俺好みに染め上げる、最高だぜ!

 今思えば目的を持って無駄にテンションの高くなった自分を止めて冷静になるべきだった。


「まずはそうだな…言葉から教えてやろう。俺はイブキだ。お前の名前はそうだな…ハヒルだ!良い名前だろう?」


 何か色々捻ったら元の世界のアニメ化した人気小説のヒロイン…のバッタもんの名前してしまった。

 テンションだけでなんかやるとこういう事故って起きるよね。


「…ハヒ…ル………………イ…ブ…キ…イ…ブキ…ハ…ヒル…ヒル…」


「お客さん…盛り上がってる所悪いが奴隷契約は…」


「いや、お前と俺は一心同体!奴隷契約なんぞ必要無い!」


 契約しちゃうと俺を裏切れないからな、しっかり裏切って貰わないと。


 それにエルフといえば森の番人、弓を使い魔法を使う高貴で華奢なイメージ…さぞメスガキ感のある裏切りを期待したい…


 しかしハヒルは…エルフとドワーフのハーフ、外見がエルフ、思考と筋力はドワーフ…知力は筋力に全部持ってかれた、つまり脳筋だ。

 魔力はゼロ、知力は1、パワー100…これは酷い。その後、身長も俺と同じぐらいに…いや、俺よりも高くなるとは…耳も尖っているが横にではなく縦だ。

 コイツ、本当は魔族なんじゃないか?


 

 騙された気分の俺は人間の小ささを発揮し、ハヒルに嘘ばっかり教えた。

 元の世界の知識を教え込もうとしたら、思ったより頭が悪く謎の理解ばかりしていた。

 それでも思いつく限りの嘘を教えた。


 例えば俺は転生者で、元の世界は銃火器と機械が生き物化した世紀末なハードボイルドな世界からやってきたと嘘をついた。

 戦車という乗り物に乗って生き物化した機械と戦う毎日…という嘘を食い入るように聞いていた。


 俺が適当な事を言う、もしくは嘘をつく→ハヒルの理解力が無い為、更に謎の理解。

 それを繰り返し、謎の世界観を持つ脳筋でメンタルがダークなエルフ、まさにダークエルフが生まれた。


 例えば…天衣兎萠…元はただ生命を守る石、致命傷を一回身代わりになってくれる石だった。

 それを魔法防御…まぁ、ちょっと火や冷気に強いエナメルっぽい布を逆バニースーツとバニースーツを混ぜたらエロいかなと思ってその様にデザインしたコスチュームを付属させた。

 後、ついでに着てるとムラムラする機能を付けた。


 つまり少し命を守ってくれる石の付いた、ただのエロい服だ。

 天衣兎萠と叫ぶと変身出来るようにし、石をペンダントにして首から下げさせた。

 魔力を込めると変身するのだ、痴女に…


 しかし何がどうなったか知らんがムラムラと知力を犠牲に身体能力が飛躍的に向上する(魔力はゼロなので上昇無し)コスチュームになった。

 結構貴重な石らしいからおかしな事になったのか?


 更にムラムラを我慢する為、常に力を入れる。

 変身するなと言っても勝手に変身し、コスチュームを使った凄まじい筋トレを常日頃やってる事になる。


 言葉を覚えると、いよいよおかしくなってきた。

 特に転生前に見た大河ドラマの説明をしていて出てきた『お慕い申しております』というドラマのワンシーンをいたく気に入ったようだ。

 この世界でも使われているがハヒルは…


「ハヒル、駄目っていったらやめるんだよ?」


「イブキ様、お慕い、申しております♥」


 会話がおかしい、一方通行…良く考えれば子育て素人の俺が出来る訳ねーだろ。

 後、ムラムラするのが気に入ったのか、

 そんな事を2〜3年やってたら凄まじい密度の筋肉が出来上がり、天衣兎萠のペンダントの石が胸にめりこんでいた。


 それを『一心同体になりましたね?』とか笑いながら言う…もう訳が分からん。


 そしてハヒルを連れながら4〜5年は冒険者をやってみたが…コレがまた酷い。

 例えばゴブリン、よくいる魔物だが…ハヒルにはゴブリン程度の攻撃は効かない、しかし攻撃方法を知らない。

 一度、目を離した隙に遭遇していたようだが…


『ギギギ!ギャアアアアア!!』


「ん〜?ん〜?ん〜?」


 ミチミチミチミチミチミチイィ


 俺が気付いた時にはハヒルがゴブリンを握り殺していた。

 ゴブリンからすれば、何も効かない化け物が何を確認するようにゆっくりと圧殺してくる。

 顔と胴体を最後に残し、ゆっくりと四肢を潰されるゴブリンの顔は、まるで『早く殺してくれ!』と言っているようだった。

 


「ハヒル、それはゴブリンではない、緑の少年兵だ…そんな酷い事をしてはいけない」


『イブキ様♥ お慕い♥ 申しております♥』


 いや、話し聞けよ…


 旅の途中、寝起きに天衣兎萠を使用し眼の下にクマが出来たハヒルが、ゴブリンの頭を砕く握力で俺のタマキンを掴んだ状態で言った。


『イブキ…樣♥…お慕いが溜まりました。お慕いが…お慕いを掌握しました♥…』


 俺は何かに狂ったモンスターと一緒の旅は正直限界だった。

 それに15〜6歳なんてこの世界では独り立ちの歳だ。

 もしかしたら、独りにしたら世界の広さに気付くかも知れないと適当に放逐する事にした。

 

「私はお姫様の教育係の仕事が来た。お前は俺の仕事が終わるまでに、何処かにいると言われているJソン少佐を倒してみよ、出来なければ破門だ」


「あのイブキ様ですら、倒せるかどうかという…Jソン少佐を!?…な、何かヒントだけでもいただけませんか?」


「奴は超超高度、雲の上を飛んでいるb2マン◯レイの口の中から狙撃してくる、十字のペンダントにキスしてから撃ってくるからキラリと光る。発生条件はそうだな、ゴブリンメイジとロードが揃った時、気をつけろ…ロードがロードを作る…後は俺が戦った時の話を思い出せ」


 嘘と適当を混ぜた、元の世界の格好良いと思うモノを混ぜた。

 ちなみにゴブリンメイジとロードが揃う事は無いと言われている。

 縄張り意識の強いゴブリンは群れのリーダー格を2人揃わせないからだ…と、酒場の酔っぱらいから聞いた。


 まぁとにかく、コレで2度と会う事は無いだろう。

 いや、ワンチャン…誰かが真実を伝え俺を殺しにくる可能性がある。

 慕っていると言っていた弟子が真実に気付き、男と俺を殺しに来る…良いね…俺は心の中で微笑んだ。

 

『必ず…必ずJソン少佐を倒し貴方様の前でお慕い申し上げます…』


 謎の決意をしていたが、その願いは叶わない。

 何故ならそんな魔物いないからだ。

 しかしコイツは…俺の望まぬ方に…まさに本当の意味で裏切り続ける奴だった。

 


 まぁどうせすぐ気付いて『アイツどうしょもねぇ野郎だ』なんて言いながら自分の道を行くだろう…天衣兎萠もあげたし奴隷の身から死なない程度に鍛えた。

 やる事はやったと満足しながら、ギルドの紹介で来た仕事、お姫様の教育係という依頼を受けた。

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