第四話 あるエルフの談話〜転生者がいた世界はろくでもない所、ハヒルはろくでもない。私、セイルはその様な認識です。

 七英雄の1人、イブキ様。

 そしてその従者、ハヒル。

 私の気持ち、それは2人共頭がおかしい。


「じゃあさ、…うーーん…もし…美春の生まれ変わりが…ハヒルだったとしたら?」


「嘘だ…嘘だぁっ!私が!?裏切りの転生者!?」


「…相変わらずヒグチは馬鹿だな、思いつきで喋るから後で揉めるんだ」


 まず、2人を救った私達をいないものとして話をしている2人…そしてツッコむ私の主。


 私は七英雄の1人…シャール様の従者、セイル。


 ―――エルフの魔弓女帝 シャール―――


 その姿はまるで幼女の様であるが、エルフとして数百年は生きて檻、尚且つ転生者だ…知識、そして蓄積された魔力において化け物と言っても過言ではない。

 それでも七英雄の1人、大賢者グリセリンの知識には叶わないそうだが…

 主は今は、国を出奔し夢を追う一人のエルフ。

 夢は…黄泉百合ランドという女だけの花園を作る事…この人も馬鹿である。

 

 シャール様と私はハイエルフという、純血のエルフの女だ。

 ただし、シャール様はハイエルフでありながら転生者でもある。


「シャール様…今の嘘ですよね。イブキ様が明らかに思いついた顔してましたけど…」


「良く分かったね?その通り、ヒグチはすぐ嘘をつくから…」


「ヒグチ?」


「あぁ、こっちだとイブキか。とにかくそんな訳無い。転生者から見れば同じ転生者はすぐわかる。ハヒルちゃんは間違いなく転生者ではないよ」


 王宮から救出してやった私達の存在を無視した2人は勝手に盛り上がっている。


「だから今回は引っ込んでろと言ってるのが分からんか?ハヒルこと美春よ!お前は罪を犯したのだ!面倒くせえから説明してないけど!静かにどっかで曇らせろ、顔を!そしたら考えてやる、何かを」


「わ!わた!わた!私がその美春であれば!もう二度と離さない!イブキ様と一心同体になってみせましょうぞ!だから拘束を解くべきです!えーっと、いぶき!幼馴染みのミハルを開放してぇ!イブハルになるのが罰ですぞ!?」


 何言ってんだコイツ…既にミハルとやらになりきっている…


 この馬鹿、ハヒルとは討伐遠征の時に知り合った。

 一言で言えば狂ってる…知性・言動・行動、そして強さも…




『私はハヒル!イブキ様の一の従者にして唯一無二の従者、奴隷の身から立身出世を果たしたのも全てイブキ様のおかげ、イブキ様に手を出すという事は私もセットだと思え。とにかく私はイブキ様以外に興味は無い、この中にイブキ様に興味があるやつがいたら私に言いなさい、ぶっ殺してやるから』


 従者同士の顔合わせの際にいきなりそんな事を言った。

 この遠征は少数精鋭で魔王に挑むという事で英雄レベルの戦士と、サポート兼パイプ役として、従者1人か2人という編成だった。

 正直全員が『コイツ駄目だ』と思った筈。

 

 後に七英雄と言われているのは5人の転生者と、その内の一人…英雄達がこぞって勇者と称えた、勇者シズクの従者2人。

 その7人で七英雄と言われている。

 その事をハヒルは知らない。


 ハヒルの奇行…例えばシズク様の従者2人が、遠征で我々のように後続の各国の兵隊のサポートではなく、転生者達と一緒に直接戦いに赴く事が決まった時だ。

 従者の間で取決めが話し合われた。


「ハヒルに言うのはよそう、アイツはどんな汚い手を使ってでも選ばれようとするから。下手するとシズク様の従者を殺すぞ…」


「イブキ様からも言われている。『話し合いで決まったとかハヒルに絶対言うな、神の啓示とか?にしとけ』とな。とりあえず黙っとけば良くないか?」


 こうしてハヒルは何も知らないまま英雄達とシズク様の従者2人が先行して進む事が決まったが… 

 その日の夜、なんの脈絡も無くウロウロしてるハヒルに言われた。


「おい、シエル。私は今夜、イブキ様から寵愛を頂くことにした。出歯亀するなよ♥」


 大変だな…イブキ様も…と思ったら次の日の朝…



『キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!♥イブキャアアアアアアア♥♥♥』


 奇声が聞こえ、すごい勢いで森が目茶苦茶になっていく。

 森の住人エルフとしても看過できない事態に現場に行くと…大樹に腰を打ちつけては圧し折るという行為を繰り返すハヒルがいた。

 目が完全に逝っていた。戦いの最中にこんなバーサーカーがメンバーにいたら大変だ。


 ちなみにこのポンコツ、ハヒルもエルフ…まぁダークエルフというハーフなのだが

多分ドワーフとのハーフだ。体系がエルフのままドワーフの筋肉を持つ脳筋。


 他にも一緒に魔王軍の城に斥候に行った時かな。

 戦力調査に行った筈だった。

 英雄達が他の城に戦いに行っている間に情報を得るのだ。

 シャール様の従者は私と兄のカイルだったが、私は弓師、兄は魔銃師だったので暗殺者のハヒルと戦力調査に出かけた。


 門番が2人、その場で浮くように高所で監視している魔族が1人、3人が見張っていた。

 そのポジションて短時間で入れ替わり警備をしている。

 眠る様に倒し、誘導して中に侵入しなければならない。

 兄が言った。


「門番はとにかく、高所にいる魔族は我々では失敗してしまうかも知れん。暗殺術に長けているハヒルに任せて良いか?」


「あぁ、この暗殺術をイブキ様から直接手ほどきを受けた私を信じろ…」


 何か嫌な予感がしたが私は麻酔効果のある細い矢を、兄は麻酔効果のあるサイレンサーのついた魔銃を構えた。

 

「よし、3つ数えたら…やるぞ」


 兄の言葉に頷いた後、気付いた…ハヒルが握りこぶし大の石を持っていた。

 嫌な予感がしたが、まさかな…という思いが勝ってしまった。

 全てを分かっている今ならすぐ止めるが当時は知らんかった…


「3、2、1『ブンッッッボッッッビチャアンッ』


 空中で魔族の上半身が吹き飛び下半身だけが落下、麻酔効果とか関係なく下半身だけになって落ちてきた同族に門番が絶句した。

 

「おい、お前…」


 横を見るとハヒルはいなかった…


「天衣兎萠!このイブキ様の居ない城で、私の暗殺術が躍動する!」


 馬鹿は変な格好になって、真っ直ぐ門番の所に走っていった。

 そして…「貴様!何者ギャッ!?」


 パンッ!グチャッ!


 走る勢いで門番2人を殴りつけて殺した…


「うわぁぁ!?敵ダァ!?ヒィィィギャッ!?」


 パンッパンッパンッパンッ


 集まる魔族達…ハヒルに殴りつけられた魔族は破裂するかのように上半身が吹き飛んでいた。


 集まって来る魔族を次々に走って殴りつけ破裂させる、見えた奴を走って殴り付け破裂させるを繰り返すハヒルという暗殺者…いや、暗じゃない。

 ただの殺者ころしもの

 城は蜂の巣をつついたかのように大騒ぎだ。


 兄は魔銃を落としていた。そりゃそうだろう…このままでは魔族の城一つ相手に、3人で挑まなければならない。

 ハヒル100人殺しを越えた辺りで正気に戻った兄は、麻酔弾と睡眠弾をありったけ用意した。


「手伝ってくれ、敵の波が収まる手前で全力で行動不能にする」


 私も麻酔矢を射ちまくる、ちょっとタイミング早いけどまぁ良いだろう。


「イブキ様ああああ!!盛り上がって参りましたぞ!いてっ!?何だよ?」


「強化している!気にするな!」


 普通に嘘をつく兄…



 その後、失神したハヒルを回収して逃げたが、結果的に英雄達に攻め込まれたと勘違いした魔王軍が、幹部の中でも名の通っている【力のオイラー】呼んでしまった…とうすんだよ…


「む、コレは参謀のオイ・コニシの策略じゃないか?まぁ策士、策に溺れたようだな(笑)」


 何がおかしいんだ、殺すぞ…


 結局、従者と貴族のボンボンしかいないポンコツ騎士団300だけでオイラーと対峙する事になった。


 思い出しただけでもイライラする…


「我ら聖王騎士団の実力、見せてくれよう!」


 役立たずの騎士団が何をほざくか


「ここでオイラーを倒せばイブキ様に寵愛を貰えるのではないか?」


 会議の時に余計な発言が目立つ馬鹿。

 しかし、それは現実のものとなる。


 オイラーとオイ・コニシ…魔王四天王とは別枠扱いされているが、要は魔族の中で権力が無いだけで、四天王を越えるとも言われる力を持つ化物。


 オイラーは【死なずのオイラー】としても有名で、とにかく身体が頑丈で様々な呪いを身体に宿している為、魔法や状態異常も効かない。

 そして、その力を10倍の戦果に変える参謀…オイラーが魔王以外で唯一心を許すオイ・コニシの策略。

 

 賢者グリセリン曰く、オイ・コニシを越える策を用いねば英雄達でも勝機は薄いと言われている敵だ…


 力自慢の英雄・マイクと同じく力に定評のあるマイク従者・ヌワンが言った。


「ありゃ止めるの無理だ。とりあえず全速力で英雄達に向かって貰うように、要請を出した。1日持てば間に合うらしい」


 1日か…その話を聞いた時、従者達の顔がハヒル以外曇っていた。


 そして現実は残酷で…

 30分も経たない内にボンボン騎士団300人は即敗走、拠点に逃げ帰った。

 拠点まで直ぐなんだから皆殺しにされるだろうがそんなの分かってない。

 一人の従者が騒いだ…

 

「無理無理無理無理!こんなの無理!!10人弱でこんなの無理イイイイ!!!!」


 魔王軍2000、その内精兵300…先頭にオイラーとオイ・コニシ…詰んだ。


 ちなみに後衛である私やハヒル…前衛のサポートの筈なのにハヒルは何故か突っ込んでいってオイラーに戦鎚で吹っ飛ばされてた。


 その時、全員の心が一つになった。


――ボンボン騎士団とハヒルのせいにして、主の元に逃げよう――


 そしてアイコンタクトを交わし、さぁ逃げようとした時にそれは起こった…


『ギエエエエエエエエエエエエエエエエエ!♥』


 吹っ飛んでいた筈のハヒルが起き上がって奇声を上げながらオイラーに向かって突っ込んだ。

 私の目の錯覚でなければ…ハヒルは身の丈3メートル程、ほぼオイラーに近い身長になっており筋骨隆々、変な服がムッチムチになっていた。

 そのハヒルが目でギリギリ追える速度でオイラーの元に走る…


 そしてオイラーの戦鎚を避け、左手でオイラーの首の後ろ側、首根っこを掴み、顔面に右手の拳と肘、そして頭突きを繰り返した。


 グシャッ!グシャッ!グシャッ!グシャッ!


 オイラーも負けじとハヒルの首根っこを掴み、同じ様に応戦する。

 力のオイラーにパワー勝負をする馬鹿。

 流石、オイラー…徐々にハヒルを押し始めたが…


 ポワワワワ〜〜〜〜ん♥


 ハヒルの背中の後ろに羽の様にピンクのハートみたいな輪っかが出た…と思ったらハヒルがまるで無かったかのように傷が再生し、先程の2倍以上の速度で殴り始めた。

 

「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ♥」


 ポワワワワ〜〜〜ン♥


 お互いが凄まじい破壊力と超再生力で至近距離で殴り合う。

 衝撃が強すぎて誰も近寄れない…


 しかしそんな事(ポワワワワん♥)を5回程繰り返した所で、いよいよ再生が追いつかなくなり動きが鈍るオイラー、そして加速していくハヒル…


 最早、オイラーが抵抗らしい抵抗が無くなって来た所で…オイラーの口が動いた…


「ゴれ、バゲモノ…ゴニジ…ニゲロ…オマエニアエデ…ヨガ『ギエエエエエエエエエエエエエエエエエ♥♥♥』


 ブチャアッ!ビチャア!


肉片になるまでありとあらゆる暴力を振るうハヒル。

 そして、何か良い事を言おうとしていたオイラーの首をもぎ取った。

  

「うわあぁ!オイラーぁ!俺とお前はどこまでも盟友であり親友!どこまでもつき『ギエエエエエエエエエエエエエエエエエ♥』


 パンッ!


 そしてオイラーの前で泣きながら別れを告げている途中のオイ・コニシの上半身が薙ぎ払う様な蹴りで吹っ飛んだ。

 同時に精兵が20〜30人死んだ。

 

「オイラーざまの、がだきだぁ!や『ギエエエエエエエエエエエエエエエエエ♥♥♥』


 オイラーの仇を討とうとする忠義のある精兵達が…今度は裏拳で2〜30人の上半身が弾け飛んだ。

 そして精兵が消えた頃、魔王軍は潰走した…


『イブキャアアアアアアア♥♥♥ドョコオオオオオオオオ♥♥♥』


 逃げる敵、命乞いをする敵、全てがハヒルという化物の標的だった。

 魔族は散り散りに逃げるが、少しでも立ち止まれば上半身が破裂した。

 まるで多く殺せばイブキ様に会えるとでも言わんばかりに殺戮を繰り返す…

 コレは駄目だ、恐怖と殺戮が魔王軍の旗印なら、コイツの方がよっぽど魔王軍だ。


 誰が地面を指さして言った…


「ㇵ、ハヒル!イブキ様はこの大地だ!イブキ様が会いに来たぞ!ほら!ほら!」 


 大賢者グリセリンの従者…智謀と魔道のアルグリア。

 最早、智謀も地に落ちたかと思ったがハヒルは地面に向かって腰を打ち始めた…


 ドンッ!ドンッ!ドンッッ!ドンッ!ドンッ!


「イブキャアアアアアアア♥オオキシュギテハイラニャァァァァ♥♥」


 止まったは良いが…どうすれば良いんだ?


 そんな様子を呆然と見ていると、英雄達がやってきた。


 私は即座に責任者兼監督者に言った。


「イブキ様!ハヒルが!何とかして下さい!貴方の従者の!ハヒル!アレを何とかして!」


 お前責任者だろと言わんばかりに責めた。

 

「ぐおお…アイツ…一瞬も心休まる暇がないな…天衣兎萠!コキュートスだ!」


 地面に腰を打ち付けているハヒルが巨大な棺桶に収まった。

 

「これからハヒルのエネルギーがここにいる皆に注がれる…パートナーがいるものは極力一緒に、居ない奴は人から距離を取れ…来るぞ!」


 そこからは阿鼻叫喚…コキュートスとやらは対象のエネルギーがその場にいるメンバーに振り分けられる…主に体力であったり魔力であったり。

 しかし…ハヒルから分けられたのは性欲だった…


 結果、全員が凄いムラムラした。


 何が嫌だって、私は全員から距離を取った先にシャール様がいた。

 この人は冗談で良く私のツルペタの胸にある乳輪を捻り上げるのだが、案の定やりやがった。


「ヒャアあああん♥♥♥!?って!?やめろ貴様ッ!」


 自国の王並に偉いシャール様の手を弾いて貴様呼ばわりしてしまった。勢いで頭も叩いた。


 これがクセになり事あるごとにシャール様を貴様呼ばわりしてしまい、ついついエルフの国の王の間でも『やめろ貴様』と言って頭を叩いたら罰されそうになったのは別の話。

 

 とにかく…そんなギリギリの戦いが終わり結局何だったのかと統括か行われたが…結果だけで言えばハヒルがオイラーを倒したとしか報告しようがない。

 それを吟遊詩人がまるで英雄譚の様に歌い上げる。

 ハヒル本人は言った。


「何かよく覚えて無いが夢でイブキ様と…キャ♥これ以上私に言わすなよ?♥」


 殺そうかと思った。まぁそんな感じの馬鹿。

 それがハヒルだ。


「おい、お前ら。話を聞け。まずハヒル、お前は美春とやらじゃない。ヒグチ…じゃなくてイブキ。すぐ嘘をつくな…そんなんじゃシズクに顔向け出来んだろ?分かってるのか?『勇者・シズクの為に』我々の合言葉だ」


「私は…美春ではない!?イブキ様、謀りましたか!?」


「シャール…いや、ケンジ。ヒグチって転生前の名前で呼ぶな。別に転生前は知り合いでもないのに…しかし勇者シズクの為に…か。それを言われるとな。」


 私達の国は兄が次期王となり、シャール様はフラフラと他の英雄達に会いに行くことがある。

 私は兄と違いシャール様のお目付け役、兼従者だ。


 そして、英雄達が会うと大概、その言葉を出す。 


―――勇者・シズクの為に―――


「シズクになんて言った?本当の絶望で絶頂するって言ったのは、イブキだろう?それが何だアレは…殆どヤラセじゃねーか?ハヒルにも関しては無理矢理にも程があるわ」


「シズクの名前を出されるとな…」


 何か着地した感じになっているがハヒルが話に。置いていかれている…まあ、いつもの事だ。

 それより気になる事が…


「普通に話の途中でやめてますが結局何だったんですか?それと勇者シズクの事もいつも思わせぶりに使ってますけど何なんですか?」


 すると…シャール様とイブキ様が、二人揃ってこちらを見てきた。


「俺達にそれを聞くのか!?」


 だって、お前等しか知らんだろうが…


 

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