第30話

あれから3日間、シドル村を中心にゲートを破壊している。

村は廃墟ではあるが、何もないよりはだいぶいい。

俺や奴隷たちはテントに入ることができない。

だから、雨風がしのげる壁、天井があるだけで随分とマシだ。


「おい、あんた」

「ん?」

奴隷だ。

彼らはこれまで私語を禁止されていた。

しかし今、兵士たちはテントで寝ている。

これまでと違い、壁があるので会話が聞かれることはないだろう。

だから話しかけてきたのだろうか。


「あんたの動き、只者じゃなかった。ブルガーやホッセイの兵士だったのか?」

「いや……」

そうか。

兵士たちには俺の肉体強化がバレないように動いていたが、奴隷たちにまでは気が回っていなかった。

俺がそれなりに強いことがバレてしまった。


「俺はホッセイの兵士だった」

「そうですか」

乾いた風が吹く。

壁があるとはいえ、廃墟だ。

完全に雨風を防げるわけではない。


「なんで兵士のあなたが奴隷なんて?」

「ハ……お前何も知らないのか? どっから来たんだよ」


「まぁ……遠いところですよ。この国とその周辺についての知識なんてほとんどありません」

「そうか。戦争してんのは知ってるか?」


「はい。四カ国で戦争中とか」

「そうだ。規模こそ小さいが、各地で常に小競り合いは起きてる。

 その小競り合いで捕虜にされたってわけだ」


「なるほど」

そういうことか。

てことは、他の奴隷も他国の兵士なんだろうか。

「そんなことより、アンタ相当強いだろ」


やっぱりバレてるな。

「まぁ……それなりには……」

「アンタなら、あいつらを殺してここから脱出できるんじゃないか?」

奴隷は親指で兵士たちのテントのほうを指差す。


「………………」

可能だ。

俺もそれは考えていた。

しかし、危険だ。

この場を乗り切ってもヘンサッチたちを倒すことはできない。

「どうなんだ?」


「いや、厳しいですね。

 この場は乗り切れたとしても、隊長格は倒せません」

「別に奴ら全員倒す必要はないだろう。

 ここの兵士を殺して逃げればいいだけだ」


「逃げ切れるんですか?」

俺はこのあたりの地理に詳しくない。

仮に逃げても、奴らに見つかる可能性だってある。

「あぁ、ここからなら逃げ切れるな」

彼は即答する。

今俺たちがいる国が『メージス』、彼の出身である国が『ホッセイ』だ。

どのくらい離れているのかわからないが、彼はメージスの地理にも詳しいということになる。


「それに、ホッセイならアンタを手厚く迎え入れるぞ。

 アンタの力は凄いもんだ。

 なんせあのゲートを破壊しちまうんだ」

「………………」

いや、遺跡を離れるわけにはいかないな。

魂が使えなくなる。


「わかった。俺の実力を見せよう」

彼はそういうと立ち上がり、木の棒を拾って構える。


ヒュンッ!!


!!


素振りだ。

ただの素振り……


しかし、恐ろしく速い。

今の俺でも倒せるか怪しいぞ。

彼が武器を持てばエイハンよりも強いのではないだろうか。



「どうだ?」

「…………………」

提案自体は良い。

なんとか仲間に引き込めないだろうか。


「もう少し待ってください。いずれ奴隷を解放します」

「それまで待てと?」


「はい……」

「まぁ、そりゃ信用できねぇわな」

ん?

信用していないと受け取られてしまったようだ。


「まぁいい……俺はいずれここを抜け出す。

 そんときは、アンタの力になりたいし、アンタにも助けて欲しい」

「はい……」


「そう構えんなよ。俺はスイセン、スイセンだ」

「ニッコマです」


「よろしくな」

スイセンは力強く笑う。

こんな表情は兵士の前では見せないだろう。

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