第29話
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
今日も朝から呼び出しだ。
ちなみに魂兵の強化が終わっていない。
ギリギリ6時間経っていないのだ。
相変わらず最悪の扱いで、睡眠も十分にとれないな。
まぁ肉体強化でなんとかなっているが。
しかし、できれば魂兵の強化後、さらに別の魂兵を強化した後遺跡を出たい。
「あの、小麦とイモを生産したいので、少々お待ちいただけないでしょうか」
「そうか。わかった」
よし、これで最低限時間は稼げたぞ。
「それと、また数日の遠征になるのでしょうか?」
「あぁ、その予定だ。ただし、前回のように激しい戦闘にはならないだろう」
「わかりました。ありがとうございます」
なるほど。
また野営か。
これは小麦とイモを渡し、その間に『魔法兵(炎)』のレベルアップをしておくべきだな。
□□□
今回は俺も馬車に乗っている。
というのも、ヘンサッチがいないのだ。
「今回の遠征はヘンサッチ様、ボーダー様はいらっしゃらないのでしょうか?」
俺は他の兵士から離れているときに、エイハンに聞いてみる。
他の兵士に見つかれば、話しているだけでぶん殴られる可能性があるからだ。
「あぁ。朝言った通り、今回の遠征はそれほど激しい戦いにならない予定だ。
だからヘンサッチ様、ボーダー様のお手を煩わせることはない」
「承知しました」
なるほど。
強敵はいないから、下っ端だけでゲートを破壊してこいってことね。
「今は前回破壊したゲート周辺、シドル村へ向かっている。
前回の遠征でゲートが破壊され、周囲の魔物は激減しているだろう。
今回はそのシドル村を拠点にし、周囲のゲートを破壊するのだ」
そういうことか。
廃村を拠点にして周囲のゲートを破壊する作戦てことね。
まず、村に行くまでに結構な時間がかかるからな。
『魔法兵(炎)』のレベルアップは正解だな。
□□□
馬車を使っての移動、そして道中の魔物はほとんど出現しない。
ヘンサッチやボーダーがいないので、平和に移動ができた。
ただし、兵士たちの中には、俺が馬車で移動することをよく思わない者もいた。
「なんだって、こんな奴隷どもを馬車に乗せるんだ?」
「これからゲート破壊をするのに、体力を温存しておいた方が効率が良いかと思います」
エイハンが兵士に説明をしている。
その兵士、結構弱いやつだぞ。
「チッ……他の奴隷も、馬車に乗せるなんぞ気に入らんな……」
「他の奴隷についても同様でして、馬車に空きがありますし、弓矢や現地での薪のがありますのでできるだけ体力は残しておいた方が良いかと」
「そんなことは分かっておる!!
身分の低い者を馬車に乗せるなど本来あってはならないことだ!!
なぜだかわかるか!?」
「は、はい!!」
エイハンがクソ雑魚兵士に恫喝されている。
しかし、エイハンは完全に正論だな。
この後の効率を考えれば当たり前のことだ。
「自分自身の身分をよく理解し、勘違いしないようにするためです」
「その通りだ。お前、下民だろうが。これだから下民は困る。
分かっているのであれば誰かさっさと走らせろ。
体力の温存が目的であれば、見せしめに一人走らせれば良いであろう。
そうすれば、おかしな気の緩みは無くなる」
「し、しかし……」
「おい下民、口答えする気か?」
「い、いえ。めっそうもございません!!」
エイハンは俺を見てくる。
あぁ、俺に走れってことだ。
まぁこの奴隷たちの中では一番体力があるもんな。
てゆうか兵士含めて、この団体の中で一番体力があるだろう。
肉体強化レベルも上がっているしな。
「……………………」
俺は無言で立ち上がる。
「行け……」
「はい」
エイハンは申し訳なさそうに俺に命令をする。
まぁこいつには世話になってるからな。
走ってやるか。
□□□
「はぁ……はぁ……」
疲れたふりも楽じゃないな。
しかし、兵士たちが俺を走らせる理由は見せしめにある。
だから俺が楽々と走ってしまうと、他の奴隷が走らされるわけだ。
ということで、ヘンサッチがいなくても疲れているふりをしなければならない。
そろそろ俺の演技も板についてきたな。
今回の肉体強化で、さらに強くなった。
もはやエイハンでも俺を倒すことはできない。
ヘンサッチ、ボーダー不在の今、俺一人でこいつらを全滅させることが可能だ。
俺自身が強くなってしまえば、こいつらといるメリットは大幅に減る。
わざわざ兵士たちにゲート周辺の魔物を倒してもらう必要がなくなるからな。
エイハンと下民出身の兵士以外全員ぶち殺しても問題はない……
しかし、魔法対策ができていない現状では、リスクが大きいか。
この場を乗り気っても、ヘンサッチに出撃されればあとがない。
もう少し様子を見るか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます