第3話 青年の想い

 何年、何年これを続けたのだろうか。

 毎晩、満月の日も、雨の日も、月の無い夜だって貴女に向けてふみを書き続けた。


 そろそろ限界だ。

 会いたい、会いたい、会いたい。

 いつまで僕を待たせるんだい?

 ずっと、ずっと待っているのに。貴女のことを待っているのに。


 貴女への想いを毎晩、文に綴って手紙にしてきた。もう数十年書き続けているのに、まだ貴女は返事をくれない。

 あぁ、そうか。僕が手紙の宛先を間違っているのか。


 貴女はどこにいる?

 どこにいるんだい?

 あの美しい月が照らすどこかにはいるのか?


 探しに行くよ。どこへでも。この地が続く限り。



 探しても見つからない。貴女はいったいどこにいるんだい?


 貴女がどこかに行ってしまったのか?

 それとも、僕が別の場所へ来てしまったのだろうか。


 分からない、分からない、分からない。

  ここはどこだ。この美しい世界はどこなんだ。あの、毎日のようにどこかで炎が燃え上がる戦場は、毎晩のように鳴り響く空襲警報は? どこへ行ってしまったんだ。


 数十年間、たった1人の時を過ごしてきた。

 寂しい、悲しい、苦しい。この感情が〖あの頃〗よりも大きくなって胸にぽっかり穴が空いたようだ。

 この穴を埋めてくれるのは、貴女しかいないのに。貴女は、まだ来てくれない。


「早く、早く来て。待っているから」

 そっと呟き、今晩もまた手紙を書くために金縁の万年筆を手に取る。




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