第15話 火付け役

「これホント?」


「ああ、それが俺達の検証結果だ」


「う~ん、にわかには信じられないんですけど」


 懐疑的な眼差しを兄に向ける少女。


「かもしれんな、だが次の配信のネタにはなるだろう?」


「かもしれないけどさぁ~、相手が…ね」


「協力はするさ」


「それならいいんだけど」


 映し出された動画と、書き込まれた書類、それぞれに目を通しながら少女は兄に聞く。


「ところでなんでお兄ちゃんは白の魔術師なの?」


「……成り手が居なかったんだ」


「え、カノンさんとジュリさんは何になったのよ」


「彼女達はアマゾネスだった、今は戦斧と大剣を振り回している、それだけだ…」


 遠くを見つめ、黄昏る兄。


「……そうなんだ。それでここに赤の魔術師について乗ってない理由って?」


「アマ…戦士が2人になってしまった、他はシーフとモンク、黒白だな」


「そうすると、お兄ちゃん的には私に赤になって欲しいのね」


「なってくれると助かる。が、強制はしない」


「う~ん、ねぇお兄ちゃん。赤の魔導士ってソロ向けかな?」




 後日、少女は赤の魔術師となった。






 配信時の視聴者数5万人、あっという間に拡散された情報は日本中を駆け巡る。切り抜き動画でさえ翌々日2000万再生を超えた。


 200万だった登録者も気が付けば250万である。


 そんな動画を見た各国の上位冒険者は語る。


「職業だって?今更じゃないか、君達はオレにもう一度LV1になれと言うのかい?」


 最前線で戦っていた者達の殆どが非協力的で在った。


 それも当然だろう。


 なにせ彼らの殆どが30歳を超え、40代なのだ。今更職業を持ち出されても全盛期はとうに過ぎている。


「言えることは一つだよ、これからは次の世代がやるしかないだろうな。幸い次の氾濫までに4年以上あるんだ、若者たちには頑張って欲しいものだよ」


 この出来事が起こした旋風は、ベテラン勢の引退を引き起こす事となる。


 引退ラッシュに苛立ちを見せたのは大国と大企業であった。


 使い勝手の良いベテラン勢が居なくなり、職業を得る事で強くなった冒険者達を、どう扱うべきか頭を悩ませることとなる。








〇●〇●〇●〇●〇







「今日も配信やってくよ~!こんにちは~みんなのアイドル青野マリンだよ~!」


:まってたw

:こんにちは

:こんにちは

:こんちわ

:こんにちは~って今日も配信なの?


 浮遊カメラに向かい笑顔で手を振るマリン。


「うん、今日も配信するよ!」


:このところ毎日でしょ

:学校は平気なの?


「平気だよ、私冒険者コースに進学してるから手続きすれば安泰だよ」


:それでもこのところ毎日でしょ

:そうそう

:体は平気なの?


「心配してくれてありがとう、でもマリンはだから。みんなに色々な情報を配信で伝えたいんだ~」


 両手で握り拳を作り、笑顔で答えるマリン。


:さすが俺たちのマリンちゃん

:すごいねw

:今日もがんばって!


「うん!がんばるよ!それでね、今日はを使って行こうと思うの」


:あ~赤のLV15で生えた

:それなw

:黒だと10だっけ?

:6属性もってないとダメなんだよな~w

:ドロップが…ドロップが

:お前はがんばれw


「そうなんだよね、黒だとLV10で発生するんだけど、赤はLV15だったんだ~。でね、攻撃系かと思えばやっぱりバフとデバフだったんだよね~、もう少し攻撃力が欲しいんだけどな~」


:戦士より弱いのは仕方ない

:モンクも破壊力はあるw

:装甲が紙じゃねーかw


「そうだね、魔術師ってつくだけあって物理的な攻撃力はイマイチなんだ。じゃあ黒って考えるだろうけど、マリンは剣でも戦いたいし、魔法もつかいたいの」


 腰に携えた剣をスラリと抜き、眼前に構える。その剣は一般的にはレイピアと呼ばれており、切るより突くが主流の武器である。


「盾を装備してもいいんだけど、動きが阻害されるちゃうの。魔法の詠唱って、発生までに少し時間が掛かるし、集中すると動きが止まっちゃうのよね、慣れてくれば違ってくるんだろうけど、今のマリンには厳しいかも」


:デバフ系は3秒なのにバフは6秒だっけ?

:戦闘前にバフを掛けないと隙がでかい

:PTの事前準備でMP消し飛ぶ

:そこはLV上げしかないのか

:PT全体へは無理なんだっけ?

:今のところ範囲魔法は白の防御魔法だけ

:赤も防御は配れるけど

:単体なのがな~


「うん、赤って基本単体のみなんだ~だからMPが増えるまでこうしてソロでがんばってるんだけど」


:MPが増えるまで

:それまでにコミュ障をww

:あ~納得w

:そう考えると天職なのかw


「うっさい!対面じゃなきゃこうして話せるんだからね!そのうち何とかなるんだからね!きっと何とかなるんだから!」


:希望的観測

:がんばれw






「ふう~これでなんとかLV16ね」


:おめでとう

:おめw

:おめでとうw

:おつおめw


「ありがとう!あ、MP回復でしばらく瞑想するからコメント見れないよ」


:りょw

:は~い

:了解でーすw


 マリンはその場で片膝をつき指を組むと目を閉じる。それは枯渇したMPの回復手段である。


:しっかし職業ってすごいなw

:んだな

:ランク2後半でもソロで普通に戦えてるな

:それだけ恩恵があるってことだろw

:俺も職業とろうかな…

:取れるLVなら取った方がいいのでは?

:LV1に戻るのがな~w

:たしかにw

:度胸がないなw

:ん?

:どした?

:アレなんだ

:おや?

:土煙かな?

:こっちに向かってきてないか

:まずくね?

:あの土煙の量…トレインか!

:まずい!マリンちゃん!

:気が付いてマリンちゃん!!逃げて!!


 近づいて来る音に目を開けるマリン。


 そこにはこちらに近づいて来るPTとモンスターが3体。


「トレイン…」


 フィールドエリアで最も警戒すべき出来事。


 それは人型モンスターが起こす災い。


 倒しきれないと判断したPTが逃げる際、他の人型モンスターと接触してしまう事が在る。

 特に見通しが悪い場所、岩場の影などで見えなかったモンスターと出くわしてしまうのだ。


 勝てなかった相手から逃げているのだ、当然新たなモンスターを相手どれるはずが無い。


 それが3体になっている。


 PTメンバーの半分でも、職業を持っていれば何とかなる数だが、持っていないとしたら…。


 武器を振り回し、威嚇しながら追い続けるモンスター達。砂煙が目印になる理由であった。


 マリンに気が付いたPT、誰かが指示を出したのか横へと逸れようとしていた。


「あ、ケガ人が!」


 その人物を支えるように逃げるそのメンバーたち。


 PTの背後に迫るモンスターの足は速くはない、が、決して遅い訳では無い。このままでは追い付かれてしまう。


 マリンは駆け出していた。


:ダメだマリンちゃん!

:逃げるんだよ

:せっかく向こうが離れてくれてようとしているんだ!

:いくら職業もちでも3体は危険だよ

:逃げて

:お願いだ!逃げてくれ

:あきらめてくれえええええええ!


「ダメ、ダメだよ…死んだらダメ」


 彼らの逃げる先、マリンはに先回りするように走り込む。


「お願いこっちに来て!」


 願う様にマリンは叫ぶ。


「こっちよ!」


 気が付いたPTメンバーは首を振る。


「そのままじゃ死んじゃう!!」


 そのステータスを生かし、一気に間合いを詰めるマリン。


「この距離なら!!!!」


:何を!?

:ダメだ!

:逃げるんだ


回復ヒールI!」


 立ち止まり、集中する、魔力がケガ人へと向かう。


:いけない!

:それはダメだ!


 逃げていたPTメンバー達、マリンの取った行動が信じられなくて立ち止まってしまう。そして叫んだ、力の限り叫んだ。


「逃げろおおおおおおお!逃げてくれええええええ!」


 ケガ人の回復。


 モンスターにとって、もっとも倒しやすい相手。


 そんな獲物を回復した。


 追って来たモンスター達の標的が切り替わる。


「これで向こうは安全、かな」


 モンスター達は、強烈な殺気を放ちマリンを見つめると走り出す。


 そう、マリンに向かって。


「じゃ、逃げるよー!」


:何してんだよ!

:ヘイトが完全にこっちだ!

:逃げろ逃げろ!!!

:走ってえええええええええええええ

:全力疾走だ!


 全力で逃げだす。


「ハァハァ、これってどれくらい逃げたらいいのおおおおおおおお!?」


:しらん!

:とにかく走れ!

:何てことを…

:逃げる事だけに集中して!!

:何であんな事を!


「だって、だってだって!身体が動いちゃったの!勝手に動いちゃったの!」


:勝手に動いたなら仕方ない

:ダンジョンは自己責任だ放置でよかったんだ…

:非情だけど自分の命が大事


「そうだけど!そうなんだけどおおおおおおお!!」


 逃げ続けながら叫ぶマリン。


「もう!覚悟決めて戦っちゃう!?」


:MPないやろ

:無理w

:バフ切れ取るやろが

:デバフの時間もないお~


「でも、まだ、追って、来る!」


:なんてしつこいんだ!

:んだんだ


「あの岩場で撒くわ!」


 逃げる先に見えた岩場に駆け込むマリン。


「…あ」


:え?

:行き止まり!?

:まずいぞ

:別の場所へ!早く!


 慌てて方向転換するマリンだが、入口にはすでにモンスターが迫っていた。


「これは無理かな…間に合わないや…」


:マリンちゃん!

:何とかならないのか?

:誰か助けに行けよ!

:間に合わない

:お願いだ!誰かああああ!


「ふふ、大丈夫だよ。マリンは強いんだから!」


 悲壮感を隠し、覚悟を決めレイピアを構える。


「絶対負けない!」








「その意気は買うが無茶は関心せんぞ」







「…え?」


 マリンの頭上から突然声がした。


 ダン!ダン!ダァァアン!!


 鳴り響いた3発の銃声。


 正面から向かって来ていたモンスター達は塵と消えた。


「これで良いじゃろ、ではな」


「…え?」


:え?

:は?

:なに?

:え?

:え?

:ええええええええ!????


 一瞬で塵となったモンスター、突然の出来事に呆然と佇むマリン。


「え?え?何?今何が起こったの?」


 だが返事は返ってこない。


「え?もういない?いないの?ねえどうなったのか教えて…ちょっと!返事くらいしてよ!?」


:え?

:マジで?

:すでにいない?

:救世主どこ?w

:消えたwwwww


「ちょっとおおおおお!!ほんとに居ないの!?ちょっとぉぉお!?美少女助けてお放置ってなによぉぉおお!お礼くらい言わせないさいよぉぉぉおおおお!!」


 地団駄を踏み叫ぶマリン、そんな彼女にコメントはと言えば。


:美少女(納得)

:確かにw

:美少女(コミュ障)w

:納得wwwww

:さっきまでの悲壮感は?w

:キリキリしてたお腹が今は別の意味で痛いw

:オナカイタイ(主に腹筋)ww

:腹筋崩壊wwww

:マリンちゃんマリンちゃんw


「何よ!」


:ヒロインになれなかったね?wwwwwww

:残念ヒロインwwwwwww

:ね~w

:ヒーローに会えない系ヒロインww

:ねえねえ今どんな気持ち?w

:気分はどう?wwwwwwww




「ぅるっさいわね!!」








 当然追撃するw。



 


 






 




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人類?孫の為なら戦うが! しだゆき @nbtmms

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ