第9話 幻想世界の案内人

 時は少し溯る。


「ここは…」


 木とレンガで出来た少し古めかしい家屋、カウンターがあり、商品が陳列されている。

 指輪、ピアス、ネックレス、宝石が並んでおり、剣、盾、鎧もあった。窓辺には来客用のテーブルとソファーもある。


「見覚えがあるのぉ」


 ぐるりと見渡した店内、多少の違いはあるが、爺はこの場所を知っていた。


「ここは幻想世界でのワシのホームかの」


「正解」


 少し懐かしそうに眺めている爺、その後ろから声が掛けられた。


「すでにサービスは終了している。そう聞いていたんだんじゃ…、もう幻想世界には行けないと」


「ここはゲーム世界じゃないら、でも限りなく幻想世界に近い世界だら」


 振り返った爺の前に、奴が居た。


 豚の様なコアラ、コアラの様な豚、全体的に色は黒く目は糸目、そのため目の位置が解り辛い、手足が短く背中には妖精の羽が生えている。


「ようこそ、私たちの幻想世界「死ねぇぇぇえええええええええ」ええええ!」


 猛獣の様に飛び掛かってくる爺を、間一髪で躱す案内人。


「ここで会ったが百年目じゃ。くっくっく、わざわざ自分のテリトリーに招き入れるとは」


「ま、待つら、話を聞くだら!」


「話?それはクエストか?あの嫌がらせの様な数々のクエストのことかああああああ!!!」


「NOooooo!地雷を踏んだ!?」


 鬼の形相で爺に追いかけ回される事数分、捕まってしまった案内人は椅子にされていた。


「そういえば、何故貴様だけここに居る?店番はワシの可愛い人形ドールがやっているはずだが」


「その可愛い人形なら、階段の上で震えているだら」


 そう言われ、店舗奥の階段へと視線を向けると、屈みこみ、そっとこちらの様子を伺う人形が居た。


「怯えているんじゃが?」


「当然だら」


 人形は階段の手すりにつかまり、ガクブルしていた。


「あそこまで表現豊かでは無い筈じゃがのぉ」


「それも含めて説明するだら、いい加減さっさと降りるら」







 来客用のソファーに腰かけると、人形がお茶とケーキを運んできた。


「ありがとの、ナデシコは相変わらず可愛いのぉ」


 カチャカチャと関節をならし、1m程しかない身体全体を使い、褒められたうれしさを表現して来る人形ナデシコ


「愛でる人物次第で気持ち悪さが違うら」


「な ん ぞ ?」


「なんでもないら…。それじゃあ説明を始めるだら」


「また説明回かのぉ、その前に子の話し方をもとに戻してくれんかの。後、貴様、いや違うのぉ、君も話し方は普通でいいんじゃぞ?」


「あらら~ばれてる?それじゃ、通常に戻すね。ちなみにどうして判ったの?」


「奴はもっと厭味ったらしい!」


「お、おう」


 爺の目に再び殺気が宿る。


「それで?」


「うん、順番に説明していくね」







 あの日、隕石落下事件があり、爺はそれに巻き込まれた。爺も少し自分で調べてみたが、詳細な情報は無かった。


「それはね、この国の政府が隠匿したからなんだよ」


 発見された隕石は研究機関に回された。が、突如その隕石が消失する事となる。


「この星の文明レベルだと、欠片すら手に入れられないけどね」


「そんなに頑丈なのか?」


「頑丈とは違うかな、加工する為に特殊な技術が必要なんだ。なにせアレは鉱石であるけど、生物でもあるから」


 ある次元で作られた特殊な存在。


 知的生命体のさらなる発展を求め作られたと言う。


 現存する知的生命に更なる力を与え進化を促す、記憶されたデータから未知の物質を作り出す。


 そんな存在は、試験的に原始的な惑星に用いらる事となるのだが…。





 わずか600年後、栄華を極めた惑星は崩壊へと向かう。





 人口は急激に増え、惑星では多くの開拓が進んだのだが、急激な発展により資源が枯渇してしまう。

 アレが、どれだけ供給が行っても足りなくなってしまったのだ。


「アレだど味気ないな、名前は無いのか?」


「う~ん、この星の言語だとαk61になるかな」


「ふむ、それなら61を取ってムイなんてどうだ」


「別になんだっていいけど」


 ムイは考えた、どうすべきかを。


「思考できるのか?」


「うん、でもね。この思考に問題があったんだ」


 制御できなくなった生命体。


 ムイを観測していた者達は、その行動に驚愕する。


 惑星にモンスターを生み出し、世界各地を破壊、生命体の数を減らす事で調整を計ったのだ。

 

「その惑星、崩壊するんじゃないか」


「そう思う?でも結果は違った。ムイの取った行動は正解でもあったんだ。

 突然現れたモンスター達は、ある程度生命体の数を減らすと突然消える。惑星の生命体たちも驚いただろうね。もっとも、数が増える度モンスターが現れる、何度も繰り返される現象は、かなりの脅威だっただろうね。

 でも、観測者たちはそれを良しとしなかったんだけどね」


「う~む、モンスター…か」


 観測者たちはムイの回収を決定する。


 回収されたムイは、その後数千年に渡り宇宙船倉庫の片隅で保管されていた。


 次元跳躍を繰り返す宇宙船中、ムイはその星の存在に気が付いた。


 自分の存在意義、それを生かせる星。


 宇宙船がもっともその星に接近した時、ムイは宇宙船から飛び出したのだ。


「その結果、俺が住んでいる土地に落下した、と」


「です、落下の衝撃は隕石の落下と変わらないからね。破壊の後は広範囲に広がったね」


「巻き込まれたのはオレだけだったけどな!」


「過疎化が幸いだったかな」


 ムイはしばらくの間情報収集に努めた。


 結果、依然自分が管理していた惑星より、かなり原始的な世界だと判断した。と、同時にとても野蛮な知的生命体が存在していると。


 この世界をどうすべきか、その結果がダンジョンの誕生であった。


「なるほど、モンスターの氾濫はか」


「でしょうね、氾濫発生から地球の人口は徐々に減っているからね」


「わざわざ猶予を持たせたのは何でだ?」


「影響の確認だと思うよ。我々の過ごした世界より、原始的過ぎて、どうすべきか判断するためじゃないかな。それは今も同じだと思う」


「状況を判断しつつ、展開を決めている、か」


でも悩む世界だからね」


「僕でも、とは?」


「似た存在、ある意味兄弟的な存在なんだ。僕はムイの上位互換、後期型なんだ。ムイは有を発展させる、有から新たな有を生み出す。

 僕たちは無から有を生み出す。何もない星にすら生命を誕生させることが出来る」


「神かな」


「この惑星の概念だと、そう言われてもおかしく無いかもね」


 ムイが起こした災いに観測者は慌てた。只の落下であれば無視できたが、原住民を巻き込んだからだ。


「でね。観測者の人工知能に干渉する事にしたんだ」


「え?」


「僕たちも出番がなくて暇だったんだw」


 そう観測者たちは、惑星への干渉を停止している。


 いくつかの星へとクリスタルを配布した観測者たち、現在は経過観測中である。


「そんなこんなで、すでに数千年が経過していてね。そこにこんな楽しs問題が発生したでしょ。僕たちはムイの行動を確認する事にしたんだ」


「今、楽しそうって」


「てへw実はそうなんだ。この星のデータと、君のパーソナルデータはあまりに乖離していた。

 当然だよね、なにせ空想のデータなんだから」


「中の人はいても、あくまで人が作り出した空想だからな~」


「そう、でも僕たちは、そんな世界を実現したら面白い。そう思ってしまったんだ」


 収集されたデータを確認中、クリスタル達もまたそのデータをいち早く解析していた。


 収集したこの惑星のデータと、爺のデータとの乖離、これからムイが起こすだろう出来事を予測した。


 予測結果が出た時、クリスタル達は好奇心に負けてしまう。

 

 爺の肉体再生には、本来1体のクリスタルで充分であったのだが、データを改竄し、3体のクリスタルが必要であると観測者たちに誤認させた。


「そこまでは良かったんだよね~そこまでは、問題は誰が行くかだったんだ~。何せそこには21体のクリスタルがいたんだから、もめたもめたw」


「ふむ、選ばれた3体、そのうちの1体が君がって事かな」


 爺がそう答えると、彼(?)はニヤニヤと意味深に笑う。


「うん、僕がそのうちの1体だよ。でもね、この惑星に来たのは3体じゃないんだ~」


「(。´・ω・)ん?」


「ダミー置いて全員で来ちゃった♡」


「っぶううう!!」


 口に含んだお茶を噴き出す爺に、悪戯が成功した顔をする。


 だが問題はその続きに在った。


「君の生きたもう一つの世界、それを実現するために僕達が何をしたと思う?」


「………」


「この星、地球を解析してぇ~、この星のぉ~、平行次元にぃ~、新しい星、創っちゃった♡」


「ぉぃ」


 爺は突っ込まずにいられなかった。


 そして見せられたのは、宙に浮かぶ3D世界地図。そこには幻想世界と同じ大陸が存在していた。


「いや、ここ迄するかね…」


「やるなら徹底的に、だよ。でも問題もあってさ」


「あまり聞きたくないが…」


 爺は嫌そうな顔をしながらも、話の続きを促す。


「海に対して、大陸が少ないんじゃなかな~、ちょっと寂しいかな~って。で、過去の地球に存在したって言われる大陸を参照しましたw」


 くるりと回されたホログラム、映し出された大陸の規模、形、場所。

 某動画サイトで、時折お勧め動画として現れ、興味本位で何気なく見ていたその大陸。


 それは。







「ムー大陸じゃねぇーか!!!」


 当然つっこんだ。



 

 


 

 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る