第8話 孫と爺

「こんばんラリル~、週末土曜日19時、三姉妹チャンネルにようこそ。今日は土曜日、三女のルルが担当するよ~」


:こんばんは

:こんばんは^^

:ばんばん

:待ってた

:ばんわーw



 配信画面に映るアバターが手を振れば、コメントが返ってくる。

 登録者数3.3万人、この日のライブ配信には400人程の人が集まってた。


「今日はルル担当、みんなに癒しをお届けするよ」


:毎週きちんと配信出来て偉い

:毎週助かるw

:継続する努力

:ねーちゃん達のお願い聞けて偉いね

:お願い× わがまま〇

:勉強とか大丈夫?


 コメントを拾い返事をする。


「うん、お勉強は大丈夫。最近はこの配信が息抜きなの」


:うんうん

:俺たちの息抜きであり癒しでもある

:だねw

:長女=真面目 次女=天然

:我らが妹は癒しなんよw


「う~ん、皆から見てもお姉ちゃん達ってそんな印象なんだね。ルルと一緒だね」


 姉2人の動画は基本録画であり、編集され投稿されている。それでも視聴者たちの感想は的を得ていた。


「お姉ちゃん達も、もっとライブ配信増やせばいいと思うの」


:それなw

:せっかくのアバターが泣くわな


「ね~、ルルもそう思うの」


 うんうんと頷き返事をする。


:で、その姉たちは?

:長女は簡単

:ダンジョンだな

:ダンジョンだろ

:今日もレベル上げだろうね


「うん、ララねーちゃんは今日もダンジョン行ってたよ。今は帰って来てお風呂入ってるよ」


:ガタッ

:ガタ

:ガタガタ

:残り湯を言い値で買おう

:通報しましたw

:次女は塾だっけ?(逸らし


「うん、今年受験だから今日も塾だったけど、今ララねーちゃんと一緒にお風呂だよ」


:ガタガタッ

:ガタン

:ガタッ ガン ゴロゴロゴロ

:転んでるなw

:足の小指であれw

:動画はよw

:曇り止めの準備は万全か?w

:防水使用も準備も出来てるぞw

:通報s

:確保しました

:もう捕まったんかいw


「後でライブに顔出すって、良かったね」


:久しぶりにライブで三姉妹そろうのか

:いいねw

:たすかる~w





 三姉妹チャンネル、もうお気づきだろう。麗奈、舞奈、妃奈のチャンネルである。姉の麗奈が、ダンジョン動画を投稿したのが切っ掛けである。

 ダンジョン攻略の様子を動画で投稿する事で、自身のダンジョン探索を内での動きは大丈夫なのか、悪いなら何処が悪いのかアドバイスをもらいたい、そんな理由であった。


 にも関わらず、登録初期から三姉妹チャンネルである。


:どう考えても、最初から巻き込む前提やねw


 とは、誰かのコメントである。


 巻き込まれた舞奈、麗奈との剣術訓練風景をメインに動画投稿していた。が、休憩中の雑談が妹の事ばかり。


 視聴者からの強い希望と、姉2人土下座で三女は配信の手伝いをする事となる。


 配信開始20分程で、姉二人が登場した。

 自動アバター設定をしており、二人を認識した瞬間、配信画面にそれそれのアバターが登場した。


「こんばんララー」


「こんばんリリ~ん」


:こんばんは

:こんこん

:ばわーw

:風呂上り…スゥ~

:すぅ~…バタン

:幸福死かな?w

:死合わせだなw


「20分、私たちの妹を独占した気分はどう?」


 姉のララがにこやかに視聴者へと聞いて来る。


:最高ですw

:ありがとうございますw


「りりちゃん…」


「ララねーちゃん、いつでもブロックできるわ」


 目から光彩を失ったアバターから、そんな台詞が聞こえて来る。


:ごめんなさい

:ユルシテクダサイ

:相変わらずで草なんよw


「お姉ちゃんそんなこと言っちゃ…、ちょっと待って。着信来てる」


「え、このタイミング?」


「配信中だよ~無視しちゃえばいいんだよ」


:なん…だと

:男か?男の影か?

:小学生やぞw

:気にしすぎや


「え~っと、爺ちゃんからだ」


「ホント?お爺ちゃんなら後で通話変わって、それまで視聴者は私たちが相手をするから」


「おじじ生きてたんだ、良かったよ~」


 画面からルルの姿が消えると、視聴者の一部がリリの言葉を拾っていた。


:生きてたってなんぞ

:病気で入院とかかな?

:あまり踏み込むんじゃありません!

:ぁぃ

:プライバシーは大事、でどうしたの?w

:舌の根w


「あ、ごめんね。ララねーちゃん話しても平気?」


「平気もなにも大した話じゃないのよね~」


「搔い摘んで話すと、ララねーちゃんがおじじと電話で話す、ちょっと出掛ける、1月半消息不明、電話来た、今ここ」


「何回連絡しても電波が届かないって言われて心配してたのよ」


:ジジイ…

:充電切れてた…は今通話してるなw

:ボケたんじゃないかな~w

:徘徊老人になった?

:それは草も生えない

:アグレッシブじじいかもしれんぞw


「氾濫後に居なくなったから心配してたんだよね」


「そうそう」


 そんな会話をしていると、ルルが困り顔で戻って来た。


「話は終わったの?それならお姉ちゃんに変わって欲しいんだけど」


「ううん、終わってないの。でもルルじゃ良く解らない、何をいってるか解らない。そしたら爺ちゃんが、みんなに聞いて欲しいって」


「え、おじじやっぱりボケた?」


「爺ちゃんに配信の説明はしたの、コメントさんにも聞いて欲しいかも」


「「??」」


:?

:オレらも?

:じじいは一体何を言った

:はて?

:聞こうじゃないか

:戯言では?


「爺ちゃん、配信に乗せるけどいいかな?…うん、…うん、じゃ乗せるね」


『お、配信ちゅ、に邪魔して悪いな、ちょっと確認したい事が有って電話したんだが、よ、っと、ひ…ルルちゃんには難しかったみたいだ、なっと』


「もう、ルルは小学生なんだよ」


『だが、ま…リリより余程しっかりしてるぞ?』


「それは…、そうね」

 

 爺の言葉に頷くララ、リリは姉の言葉にダメージを受けた。


「ララねーちゃん…」


 リリの悲し気なアバターを見たコメント達は、すばやくフォローに入る。


:ちがいない

:間違いない

:ジジイが正しい

:あきらメロンw

:それリリちゃんの胸部装甲www


「…今のメロンと装甲、お前らブロックな」


『ハッハッハーっと、何年経ってもコメント欄は変わらんな』


「え、爺ちゃんこの配信見てるの?」


『当然、見る、わ、な、ホッと』


「ん?お爺ちゃん何かやってるの?」


『気にするなっ!(ドカーン!)ふう、で、俺からの質問な。お前達はランク5ダンジョンの攻略についてどう思っている?』


「どうって…、攻略出来るならして欲しいかな~とは思うよ」


 リリが即答でそう答えると、ララは少し考え込み、慎重に答えていく。


「うん、攻略は必要だとは思う。でも5年後を考えると、ね」


 コメント欄はララの意見に同意的で在った。


:5年後か

:んだね

:氾濫範囲がランク5とか

:正直今の人類が対抗でるきか不明やね

:5年あれば今より進歩しているのでは?

:LVもあがってるはず

:やってやれない事はない、と思う


『曖昧じゃな』


:言ってくれるな

:そうそう

:自分だけならいいけど

:周り全部を巻き込むって考えると

:考えちゃうよね~

:怖いな


 視聴者たちも真面目に答えていた。


 もし、ランク5がクリアできるのであれば、5年間の平穏が約束される。だが5年後に発生するリスクを考えると…。


「爺ちゃん、私ね、5年間でも平穏が欲しいよ。私、氾濫がない世界の記憶が無いよ。それってどんな世界?一時的でもいいの。平和な世界が見てみたい」


:るるちゃん…

:そっか、知らないのか~

:氾濫から数年、そんな世代もいるのか

:そうだな

:平和な世界、見たいよね


『ルルちゃん、良く聞きなさい。明日平和になったとしよう。

 だが5年目を迎え再び氾濫が身近になった時、人々は如何すると思う?』


「みんなで団結するんじゃないの?」


『残念だが、それは一部の人達のみだ。ほとんどの者はこう考える。あの時ランク5さえクリアしなければ、ランク4であれば対応できたのに、こんなはずじゃなかった、クリア前のほうがマシだった、とな。

 行き詰った人類はクリアした人物に責任を押し付ける。アメリカや中国の時と同じだな。お前の責任だ、責任をとって次のダンジョンをクリアしろ。

 その声は家族にも広がるぞ?お前の身内がダンジョンをクリアしたからだ、お前のが家族が悪い。お前達もダンジョンへ行け!

 人なんて身勝手な物だ、自分は安全な場所に居ながら声だけを上げる。そんな同調圧力が英雄を殺すんだ』


「難しくて良く解らないよ」


「「……」」


:……

:…

:言いたいことは理解できる

:過去の人類が物語ってるな

:んだんだ

:小学生にどうかと思うが

:一理ある

:ジジイが言うと言葉の重みが違うな

:だけどな~

:そうそう、クリアする力がない人に言われても

:それな


「良く解んない、良く解んないけど、私は信じてる。

 ララ姉ちゃんだって学生と冒険者で頑張ってる。リリ姉ちゃんも高校に入ったら冒険者になるって言ってる。

 でも氾濫は今日も世界のどこかで起こっているんだよ!これじゃみんな不幸になっちゃう、だから爺ちゃんお願い!平和をちょうだい!」


:るるちゃん…

:泣いた

:おう、じじいこれが俺達のルルちゃんだ

:そうだな

:おれも冒険者になるわ

:LV15のオレ明日からさらに励む

:月1の氾濫も…な

:あれも騙された


 無言の爺、ララとリリは妹の言葉を聞き、決意決める。


「そうね…、そうだね。ルル、リリねーちゃんに任せなさい。すごい冒険者になるからね」


「うん、私も頑張る。クリアしないのと出来ないは違う。今、人類はダンジョンがクリア出来ないでいる。クリアできるならクリアするはず。

 だって、みんな平和が欲しいから」


 ダンジョンの氾濫、それは


 一度氾濫したダンジョンは、同じ月に氾濫することは無い。そこだけ捉えれば、確かに月に一度である。


 だが、言い方を変えると、氾濫していないダンジョン、別のダンジョンであれば違うのだと。


 ここでも人類は踊らされてしまった。


 月に一度、世界の何処か1か所で氾濫が起こる。人々はそう思っていたのだ。





 孫達の言葉に爺は何を思うだろう。


 しばし無言を貫いていた爺。


『平和が欲しい、か。ならばくれてやろう。だがな、只ではやらんぞ、何を差し出す?』


:悪役かな?

:じじい…

:できもしないのに

:ロープレじゃね?w


「冒険者の私や、冒険者になろうとしているリリを気に掛けてくれたの?

 冒険者を続けていく上で、そんな問題に当たるのかもしれない。今の私達には、人の悪意について良く解らないけれど、心に留めておくね。

 ありがとうお爺ちゃん。

 私達、お爺ちゃんにそんな事出来るとは思ってないよ。でも、お願いだけはしちゃおうかな」


 三姉妹は微笑みながら顔を見合わせる。


「「「お爺ちゃんお願い♡」」」


:うらやまw

:ジジイがんばれ

:骨は拾、わないw

:今すぐくたばれw

:逝ってこい!


『よっしゃぁぁぁぁあああ!!爺ちゃんがんばるわw取り敢えずぶっ倒して明日には帰る!!』


 爺の言葉、不思議な単語がある事に気が付いたのは視聴者であった。


:ん?何する気d…え『骨』って?

:自分の骨じゃねーよなww

:目の前の骨

:モンスターかな?

:骨、骸骨、そんなモンスター聞いた事もないがw


「え?」


 コメント欄のやり取りに気が付いたララ。


「ちょっとお爺ちゃん!今何処に居るの!!??」


『いや~孫っていいな~、お爺ちゃんがんばっちゃうぞ♡んじゃ、そろそろ通話切るぞ』


「こらジジイ!今どこだって聞いてんのよ!」








『ランク5ダンジョン』








「え…ちょ、待って待(ぷつん)って……、あのじじい、通話切りやがった…」


 般若が居た。


 二人の妹はガクブルである。


:って、今なんつったあのジジイ

:ランク5ダンジョン

:確かにそう言ったな

:マジで?

:絶対うそw

:嘘おつw

:ただな…聞いて欲しい

:なんぞ?

:どうした?

:爺の通話中何かの風切り音がしていた、そして不自然な話し方、合間合間のハッとかフッフといった声

:それが?

:戦闘中だったのでは

:はあ!?

:は!?

:いやいやw

:無いでしょ、(ヾノ・∀・`)ナイナイ

:一ついいか?

:どした?

:一回だけドカーンって聞こえなかった?

:…

:……

:…したな

:聞こえた、確かに聞いた


「え、爺ちゃん何してるの?ねえお姉ちゃん、ルルに分かり易く教えて」


「「…」」


 姉二人は無言、そして。


「「今日のライブ配信はここまで~、まったね~」」


「おねーちゃーーーーん!」


 強制終了した。










※ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


 行き当たりばったり、自転車操業で日々書き込んでいるため、拙い文章になり、心苦しく思っております。

 読みやすい文章を目指し、努力していきます。(文章がくどいのは理解しているんですが…)



 今後も、よろしくお願い申し上げます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る