両思いじゃなかったはずの彼女に、何故か愛されすぎて困ってます(訳:幸せです)

よるくらげ。

第1話 彼女の本当の気持ち 1

結翔ゆいとなんか好きなわけないじゃん」


 放課後。

 たまには早く帰ろうと思って教室を出たとき。そんな声が聞こえてきた。

 それは今付き合っている、俺の大好きな人である心陽こはるの声。


 ドキッとして、臓腑がえぐり取られたような不快感に襲われる。


「っ…………、」


 が、振り返るなんてことはせずに、俺はそのまま家に帰ったのだった。





◇ □ ◇ □ ◇




 俺は家に帰ってすぐにスマホの電源を付け、ベッドに寝転びながら何もせずにボーっとしていた。

 というか、ボーっとするしかなかったのだ。


 動画配信サイトを開いていても、彼女心陽の言葉が頭から離れない。


 いつもなら自由な時間を増やすために本気でやる課題も何もかも、やる気が出ないせいで全く手がつかない。


 ――――結翔ゆいとなんか好きなわけないじゃん。


 その言葉だけが、ただ永遠と頭の中でループする。


「……はぁ、」


 思わずため息を吐いて、視線は窓の外に向けた。

 いつの間にか日は落ちていて、頼りない街灯だけが淡々と地面を照らしている。


「まあ、そうなのかなとは思ってたけどな……」


 なんて呟いたととほぼ同時に、誰かからメッセージが届いたことを知らせる通知音が鳴った。

 それに反応して、俺は無意識のうちにスマホを確認する。

 送り主の名前が書かれた画面には心陽こはると表示されていた。


「うーん……」


 一瞬メッセージを確認するか迷ったが、俺は結局内容を見ることにした。

 相手が好きでないと言っていたとしても、自分が相手のことを好きだという気持ちが変わったわけではない。


 正直なところ、ちょっと嬉しいな、なんて思いながら文章を読む。


「あした、いっしょにがっこうに、いかない? ……か」


 そういえば一度も一緒に登校はしたことがないような。


 俺はそういういかにも青春という感じのことに、もちろん憧れはある。

 だが、今はあまり気分が良くないのだ。


 別に、誰を好きになろうが個人の自由。

 心陽こはるが俺以外の人を好きになる、もしくは俺のことを異性として好きになれない可能性なんて十分にあるものだった。


 それでも、やはり傷つくものは傷ついてしまう。


「…………、」


 少しの間模様のないまっさらな天井を見つめてから、俺はゆっくりと返信を書き始めた。


「一応、断っとくか……。無理させるのも良くないと思うし……」


 せっかく誘ってくれているというのに断るのは罪悪感があったが、彼女に無理をさせるのも嫌だった俺はすぐに返事を書く。


「あー……。やっぱ俺のこと好きじゃなかったかぁ……」


 返信を書き終えた俺は枕に顔を埋めるようにしてうつ伏せになり、あることを思い出す。

 それは確か二ヶ月前、俺が隣の席に座る美少女に告白をしたこと。


 単に容姿が好みだったからなんていう理由ではなく、何度も話しているうちに気付けば彼女に惹かれていたのだった。

 多分、喋っていて楽しかったから、とかそんな感じだと思う。


 それで、結果はまさかのOK。


 恐らく心陽こはるからすればお試しみたいなものだったのだろうけど、それだけですごく嬉しかった。


 自分が彼女と釣り合っていないことぐらいわかっている。

 だからいつかフラれる覚悟はしていたつもりだった。


 でも、本気で好きになった人に言われる言葉は案外刺さるものなのだ。


「はぁ……」


 俺はまた、ため息を吐いた。


「……寝よ」


 そう呟いて、モヤモヤする気持ちを忘れるために目を瞑ったとき。


 来客を告げるインターホンの音が家の中に鳴り響いた。

 タイミングが悪い。


「…………なんでこんなときに……」


 誰だろうと思いながら窓から顔を外に出して、俺は驚きで絶句する。

 胸が高鳴るような、いや、苦しくなるような、なんとも言えない複雑な気持ちになる。


 理由は単純。


 心陽こはるが家に来たからだった。

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