第7話 熱
ある日のお昼休み。
「清水、どうした?」
ベンチの横に座っていた清水は、ボーッと遠くを眺めている。その頬はリンゴのように赤くなっていた。俺は清水の額に手を当てた。
「かん、たろう。何してんの」
「ひどい熱だな……今まで隠してたのか?」
清水はどうやら、風邪を引いていたらしい。しかも、放置していたからこんなにもキョトンとしていて、反応が薄い。
「わたし、平気だから」
そう言ったあと、清水は苦しそうに咳き込んだ。
「全然平気じゃないだろ。一旦、保健室行くぞ」
清水の手を引いて保健室に向かおうとしたが、時間がかかりそうなので、彼女をおぶる事にした。我慢してくれよな——清水。こんな状況なんだ、一々周りの目を気にしていられない。
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保健室に着いたのはいいが、先生が居無かった。一旦、清水を椅子に座らせて、俺は戸棚から体温計を取った。
「ほら、熱測れる?」
「……うん」
彼女はワイシャツのボタンを急に外し始めた。隙間から、ブラジャーが見えてしまう。
「おっ、おお! あの、俺こっち向いとくから。自分で測れるだろ」
「落としちゃった」
清水は俺から体温計を取ろうとしたが、地面に落としてしまったらしい。体温計が回転しながら、俺の足元まで転がってくる。
「何やってるんだよ。そういう所は、熱になってもドジなのか……礼奈は」
仕方がないので、地面に落ちたのを拾って渡そうとしたら——清水もそれを拾おうとして、お互いにぶつかった。俺は彼女の下敷きになる。
「——ごっごめん!」
「……ドジじゃないもん」
「……そうだな」
このアングルはヤバイ。清水のキョトンとした顔と……シャツの第二ボタンまで開いてて、その——目のやり場に困る。
「これ、今度は落とすなよ」
「うん」
漸く体温を測れる事になった。体温計で測ると、39度だ。とんでもない高熱。
「午後の授業は休んだ方がいいな」
「……わかった」
その後は、保健室の先生がやってきて清水はベッドで寝る事になった。彼女はベッドに居る姿を見られるのが恥ずかしいのか、毛布を引き上げ、恥ずかしそうに顔を隠した。
ただし、先生はどうしても離れなきゃいけない用事があり学校を出て行った。
「……かん。たろうは授業出るの」
「うーん、どうしようかな」
「……行くの?」
彼女が心細そうにつぶやいたので、清水のその顔が鮮明に頭に焼き付いてしまった。午後の授業は正直言って、出ないと相当まずい。
清水が「……やっぱり、今の忘れて」と顔をますます赤くして言った。
「行かない」
「えっ?」
これは幼馴染みだからじゃない。恋人ごっこの彼氏として、俺は彼女の看病を優先する事に決めた。
これ以上、体調がさらに悪化して家に帰れなくなったら、俺が連れて行かなきゃ。中学の時は、妹が体調を崩して倒れたとき、看病のために休んだっけな。
俺も休む事にするか……と心に決めて、先生には「風邪なので、休みまーす」と迫真の演技を見せた。
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保健室に戻ってきて、清水の看病をする事になった。
「とりあえず、これ。飲めそう?」
「……うん」
清水は軽く身体を起こして、ペットボトルに口をつけ飲み始めた。息が上気していて、「はぁはぁ」と肩を上下させている。もう少し早めに休んでたら、こんな事にならなかったのにな。
「……ありがとう。少し心細かった」
「と、当然だろ! 俺たちはその、恋人……なんだし」
「へへ。でもこれで、勘太郎はずる休みになっちゃったね」
清水が笑顔で言ってきた。
その瞬間、俺の胸の鼓動が速くなって、心臓がバクバク言ってる。幼馴染みなのに、ただの恋人ごっこのはずなのに。一体、俺の心臓はどうなってるんだ?
「まぁまぁ、ゆっくり寝てなって。すぐに体調は良くなるから」
こうでもして、清水を寝かしつけないと……本当にどうにかなってしまいそうだ。
「……わかった」
数分経った後に、清水はスースーと寝始めた。俺は彼女の額に冷却シートを貼って、様子を観察する事になった。
結局、放課後になったが清水の体調はそれほど回復せず、仕方がないので、家まで送っていく事になる。
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