第8話 遭遇


 清水の家にお邪魔する事になった。彼女は親の都合で、一人暮らしであり、マンションに住んでいる。


 それで、俺はまぁその……コイツの恋人として、彼氏として看病をするために家まで連れ帰ってきた。


「じゃあ、色々とドラッグストアで買い揃えてくるから。ちょっと待ってて」


 清水を家に残して、数十分。ドラッグストアで一色を揃えて、戻ってきた。ピンポーンとインターホンを鳴らす。少し経って、ヨロヨロの清水が出迎えてくれた。


「あっ……勘太郎。ちゃんと戻って来てくれたんだ」


「当たり前だ、俺たちはなんだから……。それよりも熱は、大丈夫か?」


「うん……だいじょぶ」


 清水がヨロけて転びそうになったので、すかさず彼女の腰を支える。こいつ……腰細っ!


「本当に大丈夫か? 薬と冷却シートは買ってきたから」


 清水をベッドの上まで運び、俺は薬を飲ませてあげた。一人っ子で、家族も留守だと、誰も看病してくれる人がいないからな……大変だよな。


 清水は中々に寝付けないらしく、彼女が眠りに着くまで色々話をする事になった。


「あっ、これ! 懐かしいな。礼奈のおじいちゃんの脚本」


 こいつの部屋の棚には、少し黄ばんだ紙の冊子が整頓して並んでいた。


「そうなの。おじいちゃんが死んだ後でもストーリーは残ってるから……全部私のお気に入り」


「少し読んでみてもいいか?」


「うん」


 冊子を開きながら、俺は台詞や情景を音読読みした。自分の台詞の読み方が下手すぎたが、彼女はすやすやと寝てしまった。


「というお話でした。寝ちゃったのか」


 ぐっすりだな。相当疲れが溜まっていたんだろうか。寝顔もそこら辺のアイドルとかと遜色ないかもなぁ……いやいや。何、変な事考えてるんだよ俺。よこしまな考えをしていると、よからぬことが起きる。


 何か晩ご飯でも作ってやるか。清水に頼んでおり、冷蔵庫とかは勝手に開けていい許可を取ってある。


「こいつん家の冷蔵庫。すごい量のコーヒーゼリーとプリンだな」


 中からコーヒーゼリーとプリンのカップがめちゃくちゃ出て来た。推定でも1kgほどはあるだろうか。そんなに、好物だったのか? 初めて知ったぞ。


「てゆーか、食材が無いじゃん。買ってくるか」

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 一番近くのスーパーまで再び買い出しに行く事にした。マンションを出て、数分。セーユーのデカい看板に導かれ、俺は入店した。


 何、作ろうかなー? やっぱり温かいスープ系がいいよなぁ。カレーは違うし、鍋か? 鍋なら、豆乳とかにするか。決まりだな。


 具材を買い揃え、最後に豆乳スープ鍋の素を取ろうとした時だった。


「これだこれ」「今日はこれかな」


「「あっ、ごめんなさい」」


 振り向きざま、まさかのダル着スウェット姿の千歳さんと遭遇した。動きが固まってしまい、鍋の素を地面に落としたのにも気づかなかった。


「ち、千歳……さん?」

「勘太郎くん?」


 千歳さんは、地面に落ちていた鍋の素を拾ってくれた。


「勘太郎くんも、お家ここら辺なの?」


「ありがとう。家は、違う駅なんだけど。あのその、友達の家で鍋パーティー? みたいな感じかな。ははは」


「えっ、鍋パーティー面白そう! 私もやりたい!」


「いやいやいやいや! 千歳さん女の子だし、あのほら。メンズトークって言うか、まあ今日はそいつの悩み事相談みたいな感じで、楽しい会じゃないよ」


「そうなの? 最近部活ばかりで忙しかったから、気晴らしに〜とでも思ったんだけど」


「そしたら、今度やろうよ、鍋パーティー! それより……その服装って、家ここら辺なの?」


 彼女は魔法少女がプリントされた、一際大きいサイズのスウェットの上下セットにサンダルだ。何て言うか、少しおっさん臭い気がする……。


「うっ、うん……ここら辺だから。服は特に気にしなくていいかなって感じで。アハハッ」


 けど彼女の笑った顔を見るだけで、そんなおっさん臭い服装など吹き飛ぶ。


「そうだ。せっかくだし、良かったら帰り道に少し話さない?」


 まじか……神展開すぎる。まさか、千歳さんと一緒に並んで歩けるなんて。清水は寝てるし、10分ぐらいなら大丈夫かな。


「分かった。でも鍋パの時間も押してるから、寄り道せずに、まっすぐ帰ろう」


「オッケー!」


 彼女は指でオッケーサインを作って来て、笑顔で答えた。あぁ。やっぱり、俺はまだ千歳さんの事が好きなんだ。彼女の仕草や言動を聞いたり、見たりするだけで、心が打たれる。

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 帰り道は、俺の最近の話や、千歳さんのバスケの話をした。何でも夏の大会は規模が大きいらしく、それに向けて地区予選突破のために、猛練習してるとか。


「でね。今日は中間テストの備えも兼ねて、部活は休みだったの。勉強は全然してないんだけどねっ。へへっ」


「文武両道って難しいよね。数学でよければ、時間ある時に教えるけど」


「本当に?! やったー! これからは、勘太郎先生って呼ぶね」


 そうこうしている内に、清水のマンションにたどり着いた。


「じゃあ、友達の家ここだから」


「そうなの? 私の家もここなの」


「そうだったんだ! へぇ〜〜」


 まさか、千歳さんと清水が同じマンションとは。恐れ入るな。俺は、エレベーターに乗り込み、5Fを押した。隣の千歳さんは「えっ」と驚いた表情になる。


「私も5Fに住んでるの」


「きっ、奇遇だね〜〜アハハ」


 何か、物凄い変な気分だ。心臓がバクバクしている。そんな、まさか、それはないだろう。


「それじゃ、俺こっちだから」

「うん。私はこっち」




  502と503。



 まさかの隣の部屋、千歳さん家でした。

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