第4話 ルールを決める


 いやいや、何言ってるんだ俺? すごい変なタイミングで言葉を切り出してしまった。嫌われたかな……。


「……ねえ。それってどういうごっこなの?」


「うーんと、そうだな。こう言うのとか——」


 俺は清水の頭を撫で撫でした。小学生の時は、彼女が泣いたときにこんな風に慰めていたっけな。これで伝わってくれれば良いんだが。


「——ッ// かん、勘太郎は……ずるいよ」


「こんな感じかな……付き合わないけど、恋人みたいな事をするっていうごっこ」


「分かった。私も人と上手く接して行きたいから、恋人ごっこやりたい」


 何だか、スムーズに話が進んでいる。来た、来てるぞーーーー! 俺は遂に恋愛というパラダイスに足を踏み入れるのだ!


「ありがとう。本当に、俺……清水がクラスの人たちと仲良く出来るように、陰から支えるから! 約束!」


「うん——約束」


 こうして清水との恋人ごっこが幕を開けた。


 俺たちはそれから、二人だけの時——呼び方を変えて、ルールを幾つか作った。


 ルールその1:


 二人の時は、苗字じゃなくて名前で呼ぶ。


 ルールその2:

 

 学校ではあくまでも、恋人未満の幼馴染みという関係。正式には付き合ってないと言う。

 


 ルールその3:


 他に付き合う人が出来たら、この関係は終わりにすること。


 ルールその4:

 

 唇同士のキスはしない。恋人のフリだとしても、キスはならない。正式に付き合ってないのだから、欲求を我慢する事。キスをしたら、恋人ごっこは解消する。




「こんな所だよな。今日はもう遅いし、そろそろ帰ろうか清水……じゃなくて、礼奈れなちゃん」


「……うん、分かった。あくまでも幼馴染みだから、勘太郎。あっ、桜カフェラテ、溶けて来ちゃった」


 清水が溶けた桜カフェラテを飲むんだが、「まず〜い」の一点張りだ。氷が溶けて来たから、味が変わったんだろうか。


「そんなに不味いなら、俺が飲んであげようか?」


「ふぇっ!? いや、いいよ! 美味しくないし——第一、その……かっ、関節」


「まあまあ。俺も桜カフェラテ気になってたし」


 清水から、桜カフェラテのカップをもらって、一口飲んでみた。十分美味しいけどな。ちょっと、甘いかな。女の子向けの味って、こう言う商品を言うのだろうか。


「……関節キスだよ」


 清水が再び、顔を真っ赤にしている。


「……確かに、それを全然考えてなかった//」

 

 こっちまで恥ずかしくなって来て、頬が熱くなる。関節キス……はセーフだよな。ギリギリセーフってやつだよな。


「そしたら、私も勘太郎の……コーヒー貰おうかな」


「えっ? いや、俺もう殆ど飲み干したし。後は溶けかけの氷しか——」


「いいよ。それで十分」


「はいっ?」


 清水はストローそのままに、氷水を飲み干した。


「美味しかった。勘太郎……また、明日ね」


「また——明日」


 清水は公園を後にして、小走りでその場から消えてしまった。何だろう……何か、マジで恋人じゃん。これが、恋愛ってやつなのか? 


「最後のアイツの姿、結構可愛かったな……」


 俺も公園を後にして、その場から立ち去った。

___________________________________




 家に帰っても、さっきまでの興奮が治らなくて、清水の事を考えてしまっている。恋人って、マジですごいな。こう言うものなのか? 


「恋人バンザーイ!!」


「キモいんですけど。おにい。何ニヤついてるの」


「あぁ、いやこれは違うんだ。違くないけど……たまたま良いことが重なってな。それで、俺は今幸せを噛み締めてる所だ」


「ふぅーん。数日前は、あんなに惨めで、絶望の顔をしてたのに? 魅力が無いとか、ぶつぶつ言ってたじゃん」


「それはそれ……あまり、ぶり返さないでもらえると嬉しいんだけどな、妹」


「まあ良いけど。お兄がもしや、女の子絡みでこうなってるなんて事、万が一にも無いからね」


 くぅぅぅ。妹よ、今にみてろ。


 俺は絶対に千歳さんからのトゥルーラブを掴み取るんだからな。俺の妹は15歳で中学3年生。名前は、関 綾奈あやな。俺の事を小馬鹿にしてくる、可愛げの無い妹だ。


「あやちゃーん。お風呂沸いたわよー。先に入る?」


「入るー! お兄が入った後とか考えらんなーい!」


 この調子だ。


 俺は、綾奈に不潔扱いされている。まぁ、そんな事はどうでもいいのだ。今日のオレは、気分が上がったまま、ベッドに入っても眠りにつけなかった。



……やっぱり先ほどの余韻が抜けない。そんな時だった。清水から、RINEのメッセージがあった。



清水 礼奈:


 さっきはありがとう。これからは、勘太郎って呼ぶのでいんだよね?


関 勘太郎:


 こちらこそ! もちろん。俺たちもう、なんだから。俺も礼奈って呼ぶね。これから、よろしく——礼奈。




 女の子とのRINEって、こんなに楽しいのか。はぁ……恋愛って楽しいな。

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