第3話 恋人ごっこ、してみない?

「勘太郎。お前、また何かやらかしただろ。清水さんの視線がギラついてるぞ」


「お前に言われたくねーわ、変態!」


 だが、清水のギラついた視線は明らかだ。昼休みになったら、RINEを交換すると言う約束だが、何故そんなに怒っているんだ……。


 仕方ない。俺の方から、清水に近づこう。


「清水。RINE交換しよっか」

「……うん。ありがとう」


 意外とあっさりしてるな、怒ってなどなかったんだ。もしかすると、表情作るの下手なのか?


 思ってみると、女の子とRINEを交換するのって、初めてじゃないか?! やば、何か緊張して来た。相手は清水だけど、幼馴染みだけど!


 清水に視線をやると、何やら文字をすごい勢いで打っている。俺のトーク画面に、清水からチャットが送られてきた。



清水 礼奈: 良かったら、放課後にカフェでも行来ませんか?


「っ……どうかな。関くん」


 そんな顔されたら——断る訳には行かないよなぁ。


「もちろん。授業終わったら一緒に帰るか」


「——ホントにっ!? ありがとう!」


 清水は本当に嬉しそうだ。彼女と二人で出かけるなんて、いつぶりだろうか。何だか、ソワソワして来る……。


 RINE交換という任務を完了して、自分の席に戻ることにした。


「おい、勘太郎。ちょっと話がある」


「何だよ急に」


「いいから、ちょっと来い!」

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 高木に連れられて、屋上へと二人で来た。


「お前、これはビッグウェーブだ。津波だよ、津波」


「……はっ? 何の話?」


「全く。お前は図太いな。これだから、童貞は」


「童貞は余計だろっ!! 本題を話せよ、本題を」


「お前、魅力を上げる秘薬が欲しいってこの前言ってたな。塩レナと恋愛してみろよ」


「はっ? はあああああっ?!」


「いいか。よく聞け、恋愛すると男はカッコよくなるもんだ。愛しい彼女のために、洋服選んだり、髪型変えたり、筋肉つけたり、守ってあげたり、時には喧嘩したりして、人間としても成長させてくれる」


 確かにそれは一理あるが……。


「でも俺が好きなのは……」


 屋上の柵にヘタリ込みながら、高木の言葉を遮った。清水は確かに可愛いし、モテる。男子から圧倒的な人気を誇る、アイドルのような存在だ。


 それでも俺は……フラれても尚、千歳さんの笑顔が頭の隅から離れない。


「だからだ。恋愛したら、もっとカッコよくならなきゃって思って……自分磨きに拍車がかかるって事。まだ諦めてないんだろ、千歳さんのこと」


「バレてたのかよ」


「何年一緒に居ると思ってるんだよ。授業中とかも、視線が千歳さんの方に向いている事、気付いてないとでも思ったのか?」


「うぅ……さすがです。リョージ様」


「ともかくだ。お前は、まだまだ垢抜けれるチャンスがある」


 確かに……今の俺は、千歳さんには釣り合わない。ならば、自分を磨き続ける。彼女をリード出来るよう、恋愛経験を得て、もう一度告白する。


「そうだな。幼馴染みだし、昔みたいに一緒に登下校したり、放課後遊んだりするだけだよな。俺、清水に聞いてみるよ」


「それでこそ漢だ。さっさと、俺のレベルまで上がってこい——童貞」


「だから、童貞は余計なんだよっ!」


 こうして、高木に諭され——放課後は清水と一緒に帰ることになった。

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〜カフェ・エベレスト〜



 最近出来た韓国風のカフェで、俺らみたいな高校生を中心に物凄い人気だ。


「清水は何が飲みたい? 俺、注文して来るよ」


「……桜カフェラテ」


「分かった。行って来る」


「待った。私も一緒に並びたい」


 二人で一緒に並ぶことになった。


 人混みが多いので、俺は清水の、清水は俺の制服の袖を掴んでいる。高木に昼間から、あんな事を言われた後だ。さすがに手を繋ぐのは抵抗があった。


 とうとう自分らの番になって、注文をする。


「えーアイスコーヒー1つと、桜カフェラテで」


「かしこまりました。アイスコーヒーと、桜カフェラテですね」


 すると清水は横から割り込んできて、猛烈にトッピングをオーダーした。


「……あの、桜カフェラテは、バニラシロップ多めで、アイス少なめ、ホイップクリームを少なめの代わりに、キャラメルソースをお願いします。それから、桜チップを……満遍なく」


 清水は「ふぅ」と安心したように、オーダーを完了させる。すごい拘りだ。意外と、こう言うところでは早口なんだな。


「かしこまりましたー。それでは、合計で1000円になります。カウンター横にて、お待ち下さい」


 席が混みすぎているので、テイクアウトにして近所の公園で飲むことにした。

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 俺と清水はベンチに腰掛けるが、少しだけ間を空けた。清水は可愛げに、桜カフェラテを飲んでいる。どうやら、彼女の大好物らしい。


 まぁ、幼馴染みだし。極端に隣に座ってたら、何かあれだよな。


「カップルっぽいよな……」


「……カップルっぽい?」


「違う、違う。こっちの話。あはは」


 思わず、口に出ていた。しかしあれだな、どうやって話を切り出そう。擬似恋人にならないか? 友達以上、恋人未満って言うのやってみない? 恋愛、俺とどう? 


 あーーーダメだ。全っ然、話の展開が見えてこない。俺の頭はポンコツすぎて、女子との1対1で何を喋ればいいのか分からん! でも、こんな感じで、清水と公園に来たこと前もあったっけな。



「「……そう言えば」」



 あっ……。やべ、二人同時の振り向きざま。俺の脳内テストステロンが120%言っている。このままの首の軌道だと、確実にキスだ。


***


「——関くん。鉛筆ありがとう」


***


 それを感じ取るや否や、頭の片隅にあった千歳さんの笑顔が掘り返される。


 わずか1秒にも満たないこの環境下。自分の右手人差し指を、ギリギリ唇と唇の間に挟む事に成功した。彼女の柔らかな唇が俺の指に伝わる。


 二人とも、瞬時に顔を離した。


「……はっ。ごめん、清水。こんなつもりじゃ」


「——私の方こそ、その……前にもこうやって、遊んだなって思って。振り向いたら、かん、勘太郎の顔が」


「おっ、おう。俺も記憶を振り返ってたんだ。お互い様だな。昔よく、公園で二人で遊んだなーって」


「うん……小学校のとき、近くの公園で遊んだよね。楽しかった、私」


 それから、清水とは昔話で盛り上がった。


 幼稚園の時の演劇会とか、小学校の時の昆虫採集とか、夏休みの自由研究とか、星座を家族ぐるみで観に行ったり、運動会。


 最後に、卒業式直後の転校の事とか。


「ハハハッ。ホントーいろいろ合ったよなぁ。清水は、中学が地方の方だったよな。中学ではモテただろ」


「……中学はそんなにいい思い出、無いかな」


 清水の雰囲気がガラッと変わった。何か中学でトラウマになることでもあったんだろうか。これ以上、中学の話はしないほうが良いな。


「そっか……そしたらさ、高校で思い出作って行けば良いじゃん」


「えっ?」


「中学での嫌な思い出を忘れさせるぐらい、高校では良い思い出を作って行こうって話だよ。まだまだ、これからだろ。高校生活」


「……うん。私、友達たくさん作って、一緒に勉強して、沢山遊んで、高校生活楽しみたい——かな」


 そう言った清水の表情は、全くの別人だった。俺の幼馴染みがこんなに可愛い訳がないのだが、何と言うか——とても綺麗だ。


「ひとつ提案があるんだけど」


「なに?」


「恋人ごっこ、してみないか?」

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