第50話 押し付ける

 裏道にある家を借りることが出来た。途中で尾行を撒けるような立地なので誰かを連れ込むには最適だろう。


「あ、ホープさん。昨日はご馳走様でした」


 ココちゃんが使っている宿へ向かう途中でココちゃんに出会う。そこにはレオはいない。好都合だ。


「奢ったのはエリーだよ。それより買い物かい?」

「はい、引率していただいた時にポーションを全て使い切ってしまったので」

「そっか、なら少しくらい買ってあげるよ」

「そんな、流石にそこまでお世話になるわけにはいきません」

「あー、実は午前中に泡銭がかなり手に入ってさ、全部買ってあげてもいいんだけどそれも気が引けるだろうから、ココちゃんとレオくんに一つずつプレゼントするよ」

「泡銭ですか? その、じゃああまり遠慮するのも悪いのでお言葉に甘えさせてもらいますね」


 そして僕はココちゃんと一緒に道具屋へとやってきた。


「すみませんポーションを5つください」

「ポーション5つか、ほら全部で銅貨5枚だ」


 ポーションの値段はどの町でも同じだ。帝国は町によって値段が上下してたから安い町で買い込んだりしたなあ。


「僕はハイポーション7つで」

「ハイポーション7つは銀貨7枚だよ」


 ハイポーションも値段変わらないな。回復アイテムの値段が変わらないのは買うときにあまり考えなくていいから楽だね。


「はい2つプレゼントだよ」

「ハイポーションなんてもらえませんよ! そんな高価なものダメですよ!」

「平気平気、さっき言ったでしょ、泡銭が手に入ったって。もしもココちゃんに何かあったら僕が悲しいからさ。僕のためだと思って受け取って」

「うぅ、わ、分かりました。ココの事を心配してくれてありがとうございます。ありがたく受け取らせていただきますね」

「ありがとうココちゃん」


 少し顔を赤くしながらハイポーションを受け取るココちゃん。うん、経済を回せておまけに好感度もあがるなんてチンピラに感謝だな。


「他に何か買うものとかあるの?」

「いえ、他の道具はレオと一緒に買うつもりなんです。ポーションみたいな消耗品以外の道具は一緒に選ぼうって決めてるので」


 なるほど、その辺はちゃんとしてるんだな。大雑把だったり面倒くさがりな仲間がいると後で揉めることがあるからね。


「そっか、じゃあ宿まで送ってあげるよ。ほら荷物も貸して」

「え、そんなそこまでは」

「いいからいいから、ほら行くよ」

「あ、待ってください」


 僕は宿までココちゃんを送り届けて「ココちゃんとのデート楽しかったよ、またね」と言って宿を離れた。「もうからかわないでください!」と顔を赤くしたココちゃんを微笑ましく思い、抱いた時のことを考えながらダニエルたちが泊まっている宿へと向かう。


 ココちゃんたちだけにハイポーションを渡すと警戒されたり他の子たちに不満が溜まるだろうからね。


 お互い近い宿に泊まっていたようなのですぐに渡すことができた。彼らもお酒でダウンしていたがハイポーションを受け取ると一気に元気になっていた。


 そして僕は今馬房へとやってきた。フィンレーが寝泊まりしている場所だ。

 屋根と藁があるだけの場所、そして臭い。よくこんなところで寝泊まりできるな。


「フィンレーくん、これプレゼントだよ」

「え、こんな高価なものいいんす?」

「いいよ、他の子たちにも上げてきたところだからね」

「そうすか、なら有り難くもらうす」


「実はフィンレーくんには相談があってね、よかったら聞いてくれるかい?」

「相談すか、オレでいいならなんでも聞きます」

「ありがとう、相談ってのはチェルシーちゃんのことなんだ。君は今回チェルシーちゃんとペアを組んでみてどう思った?」


「そうすね、回復がすげえ助かって今後もパーティを組めたらいいなって思ったす」

「確かにパーティに一人ヒーラーがいると全然違うからね。じゃあさ、一人の女の子としてはどうだい?」

「一人の女の子としてすか? 可愛い子だなって思うす。少し小動物的な感じとか見ると絶対魔物を後ろに通さないぞって思うすね」


「なるほどね。実は今、僕とエリーが借りてる家にチェルシーちゃんも寝泊まりしてるんだけど、やっぱりいつまでもお世話をするのは違うだろう? でもプリースト一人で冒険者をやっていくのは難しい。だから君さえよければパーティを組んであげて欲しいなって思ってきたんだよ。この事はチェルシーちゃんにはまだ言ってないから余計なお世話だって思われるかもしれないんだけどね」


「きっと余計なお世話なんて思わないすよ。良ければ今からでもチェルシーに会いに行ってもいいすか?」

「構わないよ、じゃあ行こうか」


 よし、あとは彼が馬房を出るまでチェルシーちゃんを世話するだけでいいな。


「ただいま、二人とも二日酔いは治ったかい?」

「なんとかな」

「私も治りました」

「ん? 馬房じゃないか、何か用か?」

「お、お邪魔します! 今日はチェルシーとパーティを組んで欲しいと思ってきたす!」

「え、私とですか?」


「チェルシー、よかったらオレとパーティを組んでくれないか? 今回オレは仲間の大切さを知った。一人じゃ限界があると分かった。それはチェルシーもだと思う。だからパーティを組んでほしい」

「確かに私も一人には限界があるとは思いました。けど……」


 フィンレーの言葉に納得しつつ、しかし僕を見ながら言葉を詰まらせるチェルシーちゃん。


「チェルシーちゃん、厳しいことを言うかもしれないが僕たちはいつまでも君をお世話するわけにはいかない。いつかは此処を出て行ってもらうよ。今のところ僕は長くてもあと1ヶ月以内にはここから出て行ってもらうつもりだ。この前も言ったけど、僕たちが潜る場所に君を連れて行くことはしないよ」


 少し前に幼馴染であり仲間だった子に裏切られたチェルシーちゃんには酷な話ではあるが、今後冒険者を続けていくならどうしても仲間は必要だ。


「おいホープ、1ヶ月でそいつは馬房から卒業できるのか? いやまあ別々の宿に泊まるパーティもいるが、流石に仲間が馬房で寝泊まりしてるというのはキツいだろ」

「パーティを組んでもらえるならもう馬房での寝泊まりをやめて宿をとります!」

「だそうだぞチェルシー。お前の人生だ、だから私は何も言わん。だがソロでやっていけるほど冒険者は甘くないぞ」


「そう、ですよね。分かりました。フィンレー君と組みます。よろしくお願いします」

「ほんとか!? ありがとうチェルシー、これからよろしくな!」


 よし、やっと安心して追いだせるな。


「とりあえずチェルシーちゃんはもう少しここで生活しながらフィンレーくんと依頼をこなしていくといい」


 つい先日まで借金生活でお金がないから住む場所くらいは貸してあげよう。1カ月もあれば最低限生活していくためのお金もたまるだろうからね。


「ありがとうございます。ではそうさせてもらいます」

「よし、じゃあパーティ結成おめでとうってことでフィンレーくんも晩ご飯を食べていくといい」

「やった、いただきます!」


 朝にラシャドと一緒に結構な量の肉を買ったから今日はステーキだ。

 フィンレーありがとうと心の中で思いながら彼が馬房に帰っていくのを見送る。今日で馬房生活をやめるそうだから最後に馬房を満喫するんだよ。


 ソファに座ると横にチェルシーちゃんが座ってきた。その目は寂しそうにこちらへ向けられている。


「そんな目をしないで」

「でも――」


 僕は最近誰も抱けてなかったので面倒な問答はいらない。とりあえず何度か唇を奪い舌を絡ませる。


「余計なお世話だったって分かってる。辛いことも言った。でも僕は謝らないよ。だから僕の今の気持ちだけ受け取ってほしい」

「あっ」


 僕はそのままソファへ押し倒した。

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