第45話 基本を教える
ルーキーを連れてダンジョンに来たが誰もエリーに近づこうとしない。ただ言うことはちゃんと聞いているので良しとしておこう。
「今のはよかったよ、三人いるならゴブリンが二体までなら余裕をもって倒せるだろう? 今みたいに分断出来れば数的有利を作れる。二人で一体を倒せば次は三人で戦えるからね」
「分断するのが思ったより難しいっす。もう少し練習したいっす」
僕に無礼を働けばエリーが黙ってないと思ったのか、最初は僕のことを舐めていたルーキーたちも今では素直に言うことを聞いてくれる。
それに僕は別におかしな事は言っておらず、純粋に基本を教えているのだと理解してくれたのも大きいかもしれない。
「あの、二人での戦い方も教えてください」
ペアの子たちも積極的に質問をしてくるので思っていたよりも教えがいがある。いい傾向だ。
そしてチェルシーちゃんと遅刻してきた少年だが、二人には今回ペアを組ませることにした。やはりこのダンジョンをルーキーが一人で潜るには厳しいだろうと判断したからだ。必ず複数体を相手にしないといけない、それも狡猾なゴブリンを相手にするなら本人たちに多少の不満があってもこればかりは仕方ない事だ。
それに引率が終わった後もパーティを組んでくれれば家から追い出す理由にもなる。正直長く居座られても面倒だからね。
いい時間にもなったので休憩を取ることにする。ただし昼食も兼ねてだが。
「じゃあパーティ内で二組に分かれてくれ」
「なんで二組に分かれるんすか?」
「全員で食事をするよりも交代で食事をするメンバー、見張りをするメンバーで分かれた方が安全を確保しやすいからだよ。ダンジョンは5階層毎にセーフティエリアがあるけれど、いつもそこで休めるわけじゃないからね」
「安全を最優先しろ。冒険者にとって一番大切なのは生き残ることだ。死んでは何の意味もないからな」
「分かったっす。よし、じゃあ俺が先に見張をするから二人が先に休憩しろ」
僕やエリーの言葉にそれぞれのパーティが二組に分かれだす。
説明すれば素直に言うことを聞くってのは楽でいいな。
僕とエリーの場合は基本的にエリーの従魔三匹に見張を頼むのだけど、今回は引率というのもあって二人で分かれることにした。ついでに僕にはアデライン、エリーにはラシャドが一緒になることになった。
ちなみにルーキーたちは前半、全員が男で僕が一緒になった。チェルシーちゃんが一緒だと面倒だから助かった。
「この距離感を覚えるように。レオくん、なんでこの距離をとって見張をするかは分かるかい?」
僕たちは今、休憩している仲間たちから直線距離で約30mの場所にいる。分かりやすいように30mちょっとのロープも使ってだ。
今回は女の子とパーティを組んでいた少年に聞くことにした。
「この距離なら仲間を見ることが出来て、何かあった時にカバーも出来るからじゃないでしょうか?」
「なるほど、確かにそれも大切だね。ただここはダンジョンだ。ダンジョンだからこその理由があるんだよ」
「ダンジョンだからこそですか?」
「俺分かったっす! 魔物を仲間とはさみ撃ちにしやすいからっす!」
「残念ながら違うよ。じゃあフィンレーくんは何故だと思う?」
フィンレーくんはチェルシーちゃんとペアを組ませた遅刻してきた少年だ。
「ダンジョンだからこそ、そして魔物をはさみ撃ちにするわけではない。そして見張をする。となるともしかして囮にするためすか? オレはそんな事したくありませんす!」
「違う違う。仲間を囮にする奴なんてクズだ。そんな理由なわけがないだろう?」
「じゃあ何でなんす?」
「魔物のポップが関係してくるんだよ。基本的に魔物がポップするのは僕たち冒険者がいる場所から半径17.5m以上離れた場所なんだ。逆に言えば内側には魔物がポップすることはないんだよ。最長で仲間から直線距離で17.5mとこちらから17.5mを合わせて35m、この間には魔物がポップしない」
「それなら35mまで離れた方がいいんじゃないすか? そっちのほうが安全な場所が多いことになるっすよ?」
「いや、ホープさんの言うとおり5mくらいは余裕を持ったほうがいいんじゃないかとボクは思う」
「なんでだ?」
「もしもこちらが気付かなかったり素早い魔物が近くまで来たとき戦闘になるかもしれない。そのとき仲間がすぐに反応できずこちらへ来ることが遅れてしまうことがあるはずだ。そのときボクたちがそれに気付かずに前へ出てしまうと仲間との間に魔物がポップするエリアが出来てしまう。もしも離れたタイミングで魔物がポップしてしまえば見張側ははさみ撃ちされることになる。しかも仲間とは17.5m以上離れた位置にポップされると仲間のカバーが間に合わない可能性がある。だから安全を優先するならギリギリまで離れるのではなくて余裕を持った方がいいはずだ」
「な、なるほど? 確かにそう言われるとそうかもしれないな」
「レオくんの言うとおりだね。後はどうしても距離感を間違える事はあるんだ。錯覚しやすい場所もダンジョンには多いから多少余裕を持って覚えておいた方がいい。これを応用すればダンジョン内での採集もやりやすくなるよ」
「なるほどっすねー、魔物のポップなんて考えたことなかったっす」
「ボクもあまり考えたことなかったです。ポップする距離なんてギルドで教わらなかったので」
「オレもす。距離なんて教えてもらわないと絶対分からなかったと思うす」
「ただこれはあくまでも基本的にはって話で、条件を満たしたり、後は極々たまにポップする事がある。絶対ではないから油断は禁物だよ」
「条件ってなんなんすか?」
「簡単さ、同じ階層に魔物がポップ出来ないように冒険者を沢山配置すればいい。ポップ出来る場所が少なかったり無くなってしまうと魔物はどこからでも現れるようになるんだ」
「なるほどっすね。でもそれって中々なさそうっす。だって条件が分かってるならわざわざ危険な事をしようなんて思わないっすもんね」
「いや、過去にはいろんなダンジョンで行われてて、毎回結構な被害を出してるんだよ」
「何考えてるんすかね、俺なら絶対やらないっすね」
「それがいいよ。だから死にたくなければ誘われても断ることだね」
「了解っす」
「ボクも死にたくないので断ろうと思います」
「オレも絶対断るす」
今回の子たちは素直だな。今後また引率することがあれば初めに力でねじ伏せるのもいいかもしれないね。
「お、ロープが引かれてる。ってことは交代っすね」
「ロープで距離を把握して交代を知らせるのにも役立つし、魔物が現れればこちらから仲間へ知らせることも出来るから便利ですね。次からは持ち込もうと思います」
「確かに距離は分かりやすいけどオレはソロだから必要なさそうだなあ」
「何だよ、せっかくチェルシーだっけ? あの子と一緒に組んでるんだから今後も一緒に組めばいいじゃねえか。それか俺たちとパーティ組んでもいいぜ?」
おおいいぞ、もっと勧めるんだ。
「確かにそれもありなのか。そうだな、ソロだと大変そうだしチェルシーに組まないか相談してみようと思う。もしもダメだったらダニエルのパーティに入れてくれ」
「いいぜ、何だったら二人ともパーティに入れてもいいくらいだぜ」
なるほど、男三人のパーティなら二人が入る余裕はある。ついでに誰かと恋仲になってくれれば定期的にチェルシーちゃんを抱いてもいいかもしれない。
心は別の男にあるけど身体は僕に堕ちているなんてとてもいい。最近そういうやり方をしてなかったしいいかもしれないな。
見張と休憩の交代をして僕たちは食事をとることにした。
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