第44話 机に叩きつける
結局この日は依頼を受けて即引率というわけには行かなかった。
チェルシーちゃんだけなら問題はなかったのだけれど、他にも指導を願う冒険者が数名いるとの事で翌々日に行われる事になったからだ。
その間どうしようかと悩んだ結果、翌日はダンジョンへ向かわずに近くの草原や森の浅いエリアを見てまわった。
どんな地形で、どう言った植生で、どんな生物がいるのかを確認するためだ。
そして数が少なく弱い魔物がいればチェルシーちゃんに戦わせて経験値を少しでも稼がせた。
メイスの使いかたを覚えるならこういったやり方で十分だろう。
他にも森の歩き方なども教えたりと結構親切にしている。
当たり前だが森でも奉仕は忘れさせない。この辺りの魔物はかなり弱く、多少の攻撃をされてもダメージなどない。
さらに邪魔が入るとイヤなのは僕だけではなく、エリーもだ。だからチェルシーちゃんが奉仕中はアデラインとラシャドが警戒をさせられていた。
一日歩きまわりチェルシーちゃんは結構疲れていた。この日ばかりは食後は大人しく一人でヤリ部屋へ戻り翌日に備えて早くに眠りについていた。
「いつまで世話をするつもりだ?」
チェルシーちゃんが部屋へ戻った後にエリーが聞いてくる。
「仲間を見つけるまではいいんじゃないかなって」
「そうか、まあいいのではないか? プリーストならどこのパーティも欲しがるだろうしな」
ヒーラーはどのランク帯でも需要がある。たとえルーキーでも欲しがる高ランクパーティがいるくらいだ。
「まあ1〜2ヶ月ってところだろうね」
「分かった、では私も明日に備えて寝る事にする。おやすみ」
「おやすみ」
アデラインとラシャド、そしてチェルシーちゃんがいなくなった事で姿を見せていたベンにもおやすみと伝えて僕も自室へと戻りそのまま眠りについた。
翌朝、といってもまだ日も昇っていない時間に目覚め、トイレなどを済ませて朝食を作る。
何故かラシャドが調理しているところを横から大人しく見ており、足元にはベンがいる。
邪魔をするわけではないので構わないのだけど、珍しいな。
そう言えばラシャドは殆ど預けてたから一緒に生活をするなんてなかった。だからきっと気になったのだろう。
それとベンもだけど、少しくらいエサをもらえると思っていそうだ。
「ほら、エリーとアデラインには内緒だからね」
「ワフ!」「ホッホッ!」
仕方ないので二匹にベーコンを少しだけ上げる。
美味しそうに食べている姿はペットにしか見えないな。
「ラシャド、そろそろご飯が出来るからエリーとチェルシーちゃんを起こしてきてもらえるかい?」
「ホッホッ!」
僕の頼みにラシャドは任せろと言わんばかりに飛んでいった。鳥なのにちゃんとドアを開けることが出来るか不安だ。
そう思っていたが、ドアを
ラシャドが起こしに行ったタイミングでベンは影へ隠れた。チェルシーちゃんには姿を見られたくないからだ。
僕はベーコンエッグなどをお皿に乗せテーブルへ並べていく。たまごスープとパンも忘れない。
「おはようホープ」「アウ!」
「おはようエリー、それにアデラインも」
エリーは眠そうにアデラインと部屋から出てきた。
そして挨拶が終わったところでチェルシーちゃんも部屋から出てきた。
「ホープさんにエリーさんおはようございます」
「うん、おはようチェルシーちゃん」「ああおはよう」
チェルシーちゃんはそれほど眠そうにしていないので寝起きがいいのかもしれない。
三人で朝食を食べ終わると装備などの準備を済ませ冒険者ギルドへと向かう。
「おはようございます。【
「おはようございます」
「これでいいか」
「はい、ありがとうございます。一人をのぞいて既にルーキーたちは集まっております。ギルドの会議室の一室に待機させていますのでそちらへお願いします」
僕とエリーのギルドカードの確認、それとチェルシーちゃんを見ただけで判断すると会議室へと促された。
全員は揃ってないのか。一人という事はおそらくソロなんだろうな。
僕たちが会議室に入ると少年が四人、少女が一人いた。二組に分かれているので男三人のパーティと男女ペアのパーティなのだろう。そこにチェルシーちゃんとまだ来ていないルーキーを入れて計七人の引率か。
「おはよう、まだ一人来てないみたいだからもう少し待っていてくれ。待つ間に何か質問があれば答えてあげるよ」
「はい、じゃあ質問なんすけどなんでデバッファーなんかに引率してもらわないといけないんすか? それにテイマーも俺たちのパーティにいないしホントにちゃんと指導出来るんすか?」
僕の言葉に応えたのは男三人組の一人だ。仲間と思われる二人は横でニヤニヤしていて明らかに僕たちを舐めているな。
この町でもやはりデバッファーに対するルーキーの態度は変わらないようだな。
「僕たちに教わりたくなければこの部屋から出て行くといい。別に止めたりしないよ? ギルド側が君たちを引率する力が僕たちにあると判断したのだから少なくとも教えることは出来るんじゃないかな?」
「はいはい、分かりました分かりました」
「分かったか。なら私が今からさらに分からせてやる」
ルーキーの態度にムカついたのか、エリーが一言言うと少年の頭を掴みそのまま机に叩きつけた。叩きつけられた少年は鼻血を流しながら白目を剥いている。
「あまり舐めた口を聞くならこの程度ですまないから気をつけろ」
「エリーやり過ぎだよ。みんな引いてるから」
「舐めた奴にはこれくらいで丁度いい。お前たちも度が過ぎればこうなるから気をつけておけ」
エリーの言葉にルーキーたちは頷くだけだ。まあ脅しとしてはいいか。
「す、すみません遅れました!」
ルーキーたちの心が一つになっているところに最後の一人が慌てて入室してきた。
「ちょっとこい」
「は、はい!」
「遅刻は他の者に迷惑をかける。これが依頼主との待ち合わせだったらそれだけで問題になることもありえる。だから反省しろ!」
そう言ってエリーは近くに呼んだルーキーの頭を掴み机に叩きつけた。
「じゃあみんなも揃ったことだし、みんなで自己紹介と今回の引率内容を軽く教えるね」
エリーが全員を黙らせたのでスムーズに話が進み、早速みんなでダンジョンへと向かうことになったのだった。
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