第33話 スリングの威力
昼食も終わり、15階層のセーフティエリアへ向かっていると前方から戦闘音が聞こえてきた。
ここまでの道中いくつかのパーティを見かけることはあったが戦闘中なのは初めてだ。
「ここでの戦闘に慣れてるだろうから参考程度に見学に行かない?」
「そうだな、勉強させてもらおう」
僕たちはバレないように近付き戦闘を見学することにした。
「見た感じDランクパーティってところか。戦い方も定石通りだし安定してるね」
「そうだな、特にキツそうにしているわけでもない。レベルを順当に上げていけばCランクパーティになれるだけのポテンシャルはあるな」
魔物と戦闘をしていたのは15~16くらいの少年少女達。彼らは5人パーティで、確実に一体ずつ魔物を減らしていっている。
大きなケガもしていないところを見るに、ここまで油断せずしっかりと進んできたのだろう。
10分程すると戦闘が終わり、ケガやダメージを受けることはなかった。
彼らがこのダンジョンを潜る平均的なDランクパーティなのかは分からないが、思っていたよりちゃんとした冒険者がいるのだと確認できた。
見るものも見たので僕たちは黙ってここを通り抜けようとした時だった。
「そこのお二人、ちょっと待ってください」
「何かな?」
1人の少年が話しかけてきた。先程の戦いを見るにタンク職だったはずだ。
「おそらくオレたちの戦いを見ていたと思うんすが、【
「僕たちのこと知ってるんだね。基本に忠実でよかったと思うよ。油断もしてないようだったしその調子ならレベルさえ届けばCランクへの昇級テストも突破出来るんじゃないかな。エリーはどうだい?」
「そうだな、悪くなかった。理想としてはもう少しスキルと魔法を減らすべきだが、お前たちのレベルを考えるとまだ減らすべきではないだろう。後は後衛が確実に魔物へ攻撃を当てられるようにするだけだ」
僕たちの言葉に彼らは少し嬉しそうにしている。流石にBランク冒険者に褒められればそうなるよね。
「いまエリーが後衛が魔物へ攻撃を当てられるようにって言ったのは別に後衛の君たちだけに言ったわけじゃないよ。前衛の君がいかに後衛が攻撃を当てやすくするか、そこを意識して出来るようになればもっと戦闘が楽になる。そうすればエリーが言った理想のスキルや魔法の使用回数が減る事につながるよ」
「わ、分かりました。次から意識してみます」
「慣れないうちは気をつけてね。じゃあ僕たちは先に行かせてもらうよ」
『ありがとうございました』
意識が高いな。まさか全員から感謝されるとは思わなかった。
少しでも強くなってランクを上げたいんだろうな。そのためなら初めて会った相手にも話を聞くとはね。
もっと早く、ルーキーの時に出会っていれば腕の一つくらい切り落としてやったのに、運がいいな。
まあ今後もこの町にいれば出会うこともあるだろうから同じ冒険者として頑張って欲しいと思う。
僕とエリーは進みながら話す。
「さっきの子たちは前衛をもう1人増やした方がいいよね」
「そうだな、後衛が3人に対して前衛1人中衛1人ではバランスが悪い。ヒーラーが1人いたが彼女が倒れてしまえば最悪崩壊するだろうな」
ヒーラーはケガを回復出来るだけではない。神官系のジョブだったようなのでバフも少しだが使っていた。
だから彼女が倒れてしまえばパーティの戦闘力が下がり、さらにケガも癒えない。
バフが切れると言うのは思っているよりも死活問題なのだ。ハッキリ言ってデバフを受けた感覚に近い。
彼女を守りつつも他の後衛も守らなくてはならないというのはいくらタンク職とはいえ1人では難しいだろう。
「まあ僕たちが言っても仕方ないか。実際Cランクには今のままでも上がれるのは間違いないだろうしね」
その後もいくつか話していると15階層のセーフティエリアに辿り着いた。
「まだ少し早いから近くで魔物を狩ろうか。従魔に頼らずにさ」
「そうだな、少しくらいやらねば感覚が鈍りそうだ」
僕たちはセーフティエリアから出て魔物を探す。エリーが索敵して見つけるとゴブリンライダーというゴブリンがただウルフに乗っただけにしか見えない魔物が5体とオークが2体いた。
「スキルと魔法は無しでやろうか」
「分かった」
「じゃあ解くよ」
そういって僕は2人に付与していたデバフを解除した。
スキルと魔法が無しということは素の力だけでという事だ。ならばそこにはデバフの解除も含まれる。
ずっとデバフがかかっていた状態だったので、そこから解放されてしまえば殆どバフがかかったも同然のパフォーマンスが出来あがる。
ゴブリンライダーはあまり脅威とは言えない。動きは素早いがゴブリンを乗せていることで普通のウルフよりも俊敏性が落ちており、近寄ってこなければこちらに攻撃をすることもできないのだ。
正直ゴブリンとウルフに別々で襲って来られるほうがこっちとしていやになるんだけどね。
エリーがオークに向かって行ったので僕はその間にゴブリンライダーの相手をする。
いつもはショートソードを使うのだけど、今日は練習を兼ねて先日手に入れたスリングを使う事にした。
ここに来るまでに結構な数の石を拾って来たので多少外したとしても問題なく殲滅できるだろう。
「久しぶりに使うけど結構当たるなぁ」
走り回るゴブリンライダー3体に連続で当たった。デバフを解いたので普段より力が入ったせいか、たまたま当たったウルフの頭が一撃で吹き飛んだ。
それに怯んだ魔物たちは動きを止めてしまい、いい的だった。
「うーん、数が減ると当て難いな。普通に投げてみるか」
ウルフの体目掛けて石を投げつけるがそう上手くいかない。だが右前脚に当たり、骨が折れ体勢が崩れたのでもう一度石を投げつける。今度こそウルフの体に当たり、吹き飛んでいく。
「こんなもんか。そうだ、鉛があったから使ってみよう」
鉛を取り出しスリングにセット、そしてそのままウルフへと放つ。
鉛はウルフの正面から頭に当たり弾けさせ、さらに突き進み貫通していった。ウルフの頭から尻まで穴があいてしまっていた。
「これは流石に……。人がいる方向に放ったらシャレじゃ済まないな」
難点はもう一つある。
「ダンジョンの壁にめり込んじゃったか。これじゃ回収は無理そうだ」
弾である鉛が思ったより深くめり込んだせいで折角の弾が減ってしまった。
やはり弾は拾った石を使う方がよさそうだ。弾を買うのは経済的に難ありだな。
その後もスリングでゴブリンライダー達へ放ち全滅させる。
エリーはどうだろうかと思って見てみると、一つ一つ確認するように体を動かしてオークと戦っていた。
まだデバフとの差異に慣れないのだろう。
「エリー、オーク一体もらってもいい?」
「構わん、好きにしろ」
エリーの許可をもらったので僕は実験を兼ねてもう一度スリングで鉛を放ってみた。
「……ホープ、今のは何だ?」
今回バフもデバフも使ってはいない。だけど思いきり放ったせいだろうか、オークの体の中心に当たった瞬間凄まじい衝撃音がしたかと思うと、そのままオークは崩れ落ちた。
直径30cm、いや40cmはあろう大穴を開けて。
そして突き抜けた鉛は先程ウルフを貫通した時よりもさらに壁の深くまで突き刺さっていた。壁の穴周辺もかなりのヒビが広がっている。
その様子にエリーだけでなく、その相手であるオークまで固まってしまっていた。
「スリングで鉛を思い切り放ったらこんな感じに……」
「そ、そうか。出来ることなら今後絶対私に当たらないように頼む。絶対だぞ?」
「流石に分かってるよ。今後は使いどころを考えないといけないなあ」
エリーとオークはゆっくりと現実に戻り戦闘を再開するが、エリーが一瞬で斬り倒した。
「なんだか精神的に疲れたから戻ろうか」
「そうだな、ちょっとあれは衝撃的過ぎた」
僕たちはなんとも言えない表情をしながらセーフティエリアへ戻るのだった。
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