第34話 強さの秘密

「ホープ、一つ聞きたい事がある」


 夕食も終えてコーヒーを飲んでいるとエリーが真剣な表情で話しかけてくる。


「なんだい?」

「なぜホープはデバッファーでありながらそうも強いのだ」

「デバッファーはそもそも僕の中では強いジョブだと思ってるからジョブのおかげじゃないかな?」

「そうではなくてだな、すまない、言い方が少し遠回りだった。なぜ後衛のしかも支援職なのに前衛職と大差ない基礎能力があるんだ? いくらレベルが高くともオークの体にあんな大穴を開けられるとは思えない。言えないことなら言わなくてもいい」

「あー、なるほど。そうだね、いい機会だから教えておこうか」

「頼む」


「まず前提としてレベルが上がると身体能力が上がったりMPが増えるでしょ? でもこれは同じジョブだったとしても人によって上がり方が異なる。これはエリーも知ってるよね」

「ああ、レベルが上がれば上がるほど差異が現れるし誰もが知っていることだ」

「そう、誰もが知ってることだ。じゃあ能力がたくさん上がる人とそうでない人の差ってなんだと思う?」

「一般的には才能だと言われているな。実際私も才能の有無だと思っているが違うのか?」


「確かに才能も関係あるけど、これはそこまで重要ではないんだ。一番大切なのはどれだけ鍛えて努力したか、これに尽きる。これ以上に能力が上がる方法を僕は知らない」

「どれだけ鍛えて努力したか、か。私もそれなりに鍛えているつもりなんだがな。私とホープでは何が違う?」

「簡単さ、僕とエリーの違いはデバフがあるかないかだよ」

「デバフの有無がどう関係するんだ?」


「最近エリーにはデバフを常にかけてるけどどうだい?」

「ハッキリ言えばキツい。気を抜けば魔物にすぐにやられてしまいそうなほどにな」

「僕はジョブを授かってから余裕がある時は常に自身へデバフをかけてきたんだ。これは魔法のレベルを上げることが目的だったんだけど、気付いたら前衛職と変わらない力と体力、斥候職のスピード、後衛職の器用さとMPが手に入ってたんだ。そしてデバフにも色々あって、毒や麻痺などの状態異常系のものもかなり使ったりした。すると各耐性レベルも上がって今では殆どの状態異常は僕には効かなくなった」


 スキルや魔法のレベル上げは達成感があるので身体的にはキツかったが、それ以上に精神的には余裕を持てていた。


「僕はずっと自身にデバフをかけ続けているんだよ。常人ならまともな生活、ましてやダンジョンに潜るなんて到底出来ないほどのデバフをね」

「理屈は分かった。想像を絶するだろう負荷を自身へかけ続けた結果、今のホープを作り上げていると言うこともだ。一度でいい、今ホープにかかっているデバフと同じものを私にもかけてもらえないか?」

「いいけど、まともに動けなくなるから気をつけてね?」


 僕とエリーに使っているデバフの威力は全く違う。


 エリーに使っているものはDランク冒険者でも武器は使えるし、Cランクもあればなんとか戦闘と呼べる程度には動けるだろう。

 Bランクのエリーなら少し調子が悪い程度と言ったレベルだ。


 僕はエリーの頼みに応えて一気にいくつものデバフを使っていく。

 するとエリーの顔からは血の気が失せ大量の汗が浮かび出す。

 体はふらつき地に膝をつく。そして過呼吸ではないかと思ってしまうほどに呼吸は荒い。


 これ以上は意識を失いかねないので全てのデバフを解く。


「どうだった? 結構キツかったでしょ」

「……ハァ、ハァ……ぐ……キツい、なんてもので、済むものか。よくこれ、で、まともに動けるな」

「そこはもう慣れだね。後はデバフ耐性もあるからエリーほどはキツくないかな」

「なる、ほどな。しかしそうか、今は弱めだが、私にもデバフをかけてくれている、と言うことは、今後私もレベルが上がった時の上昇幅がいつもより増える、と思っていいのだな?」

「そうだね、少なくとも同じテイマーよりは増えると思うよ」


 そもそもエリーは優秀だったのでデバフでの能力強化は必要ないだろう。普段から鍛えて努力している事は知ってるからね。

 もっと強くなれる方法があれば気になるのは当然と言える。


 そして従魔の三匹が巻き込まれるのも当然のことだ。だから君たち、恨めしそうにこっちを見ないでくれ。

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