第32話 機嫌を取る従魔
1時間もすれば僕とエリーは5階層のセーフティエリアに辿り着いていた。
「一旦休憩して昼までに10階層にあるセーフティエリアに辿り着きたいね」
「そうだな、6階層からはゴブリン種以外にも出てくるが走りながら進んでも問題なかろう」
ダンジョンに入る前からルート選びは行っていて、結局最短ルートを進もうと言うことになっている。
ベンが斥候、ラシャドが前方の敵を殲滅、アデラインがトラップの警戒、そして僕たちはその後ろを走ってついていくだけなのでかなり楽だ。
前方以外から現れる魔物だけを倒せばいい。それもエリーのスキルで魔物の位置をある程度把握できるので不意打ちに遭うこともない。
正直僕はなんの役にも立ってないと思う。今のところ入口で出会ったルーキーと大差ない活躍だ。
「しかしあいつらが大人しく2階層でレベル上げをやっていると思うか?」
「どうだろうね。2階層についた時点でスタミナが切れてたし無茶をしなければいいけど」
「出来ることなら元気な姿でもう一度会いたいのだろ?」
「よく分かったね」
「分かるに決まっている。どう見てもあの少年は少女を大切にしていたからな。十分な理由だろう?」
正解だ。あとは戻ったときに少しだけ2人の仲に進展があれば尚良い。
「正直なところさ、エリーも僕の趣味に染まりつつあるんじゃない?」
「否定はしない。三年もの間、やり方はどうあれ寝取りモノばかり見てきたからな」
否定しないんだ。確かに僕のハメ撮りばかり見てたら仕方ないか。
「そろそろ行こうか」
休憩もそこそこに僕たちは走り出した。
現れる魔物は全て排除、追いかけてくる魔物も全て排除だ。
低層で手に入る素材は必要ないので素材や魔石を拾うことなどせずに突き進んだ。後でラッキーな低ランク冒険者が拾ってくれることだろう。
「ちょうど昼についたね」
「まあこんなものだろう。思っていたより広かったから良い方だな」
途中小休止を挟んだが、それ以外はずっと走り続けた。
ルーキーを2階層まで連れていなければもう少し早かったのは違いない。
ただエリーの言うとおり、思っていたよりこのダンジョンは広かった。
「昼食食べたらペースを落として夕方までに15階層のセーフティエリアまで行って今日はそこで休もう」
「Cランクパーティがどれだけいるか期待だな」
「いたら狩場争いになる可能性があるから僕としてはいない方がいいんだけど」
それに他パーティがいるとどうしても夜番をしなければならない。
僕たちがたまにやるように、冒険者同士で殺し合うこともあるからだ。
殺してギルドカードを奪えば金を手に入れることが簡単に出来るし、ダンジョンで集めた素材やアイテムを手に入れることも出来る。
冒険者を定期的に殺して稼ぐ冒険者は少なくないのだ。
「しかしアデラインとラシャドは強くなったね。出会った当時はまだ平均的なCランク冒険者と大差ない強さだったのに今ではBランク冒険者と戦ってもいい勝負ができるんじゃないかい?」
「アウ!」「ホッホッ!」
僕の言葉に2匹は嬉しそうに返事をする。ベンと同様に2匹とも僕に懐いてくれてるので結構可愛いと思ったりする。
そしてエリーは苦笑いだ。
「たまに<
「人徳の成せる技だね!」
「はぁ、でもそうだな、二匹はこの三年でかなり強くなった」
エリーは感慨深そうにしているが、また少しだけ不満そうにする。
「……お前たち、ホープには嬉しそうに返事をするくせに私には何もないのか?」
エリーの言葉に二匹は首を傾げる。
流石にエリーが可哀想だな。
「二匹とも、確かに僕と同じことを言ってるけど流石に少しくらい反応してあげた方がいいよ」
「アウ!」「ホッホッ!」
僕の言葉を理解したのか、二匹はエリーに擦り寄っていく。
まるでマーキングをしているかのようにエリーに顔や体を擦り付ける。
「分かった分かった、アデラインとラシャドはここ数年よく頑張ったな、えらいぞ」
「アウ!」「ホッホッ!」
うわ、見るだけで二匹がかなり気を使っているのが分かる。
飼い主を間違えたペットみたいだ。
「おっと、はは、ベンも強くなってるよ。殆どのBランク冒険者に勝てるくらいね。頑張ったね」
「ワフ!」
影からズボンの裾を引っ張られるとそこにはベンがいたので二匹同様に褒めてあげると嬉しそうに返事をしてくれた。
嫉妬かな? でもどちらかというと先にエリーの元へ行ったほうが良かったと思うぞ?
ほらエリーが眉を顰めてる。
エリーはテイマーとして腕が悪いだとか従魔に嫌われている、なんて事はない。むしろ他のテイマーより腕はいいし従魔に好かれている方だ。
これは経験談だけど、従魔は自分よりも圧倒的強者相手に懐きやすい。そして媚を売るというよりも認めてもらおうと張り切ったり努力を始めるのだ。
力で価値を示すという本能が魔物には備わっていると僕は思っている。
だからその辺の冒険者よりもテイムされた従魔の方が何倍も信用出来るし好感を持てる。
不思議なのはテイムされた従魔だけがこう言った行動をすると言うことだ。ダンジョン内外問わず、野生の魔物は知能が無いものは平気で襲ってくるし、勝てないと判断すると逃げていく。
まあ考えても仕方ない、そう言うモノだと認識するだけだ。
従魔三匹でエリーの機嫌を取る姿を見ながら僕は笑いながら昼食を食べるのだった。
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