第31話 無謀なルーキー
ダンジョンから町に帰るとそのまま冒険者ギルドへ立ち寄る。ゴブリンに殺されたルーキーたちの遺品を渡すためだ。
「すみません、魔物に殺されたと思われる遺体を見つけたので遺品をいくつか持って帰ってきました。何処に預ければいいでしょうか?」
「遺品ですか。それでしたらあちらのカウンターになります」
そう言って受付嬢は僕たちから向かって左、それも隅にあるカウンターへ誘導する。
「遺品の中にギルドカードがあれば先に提出してもらっても構いませんか?」
僕はアイテムバッグから10枚のギルドカードを取り出す。
「なるほど彼らでしたか」
「彼らに何かあるので?」
「いえ、以前から無謀に近いダンジョン探索をしているパーティだったので。何度かギルドからも危険だからやめた方がいいと注意はしてきたのですが、10人で一緒にいるから問題ないの一点張りで。こちらとしても無理に引き止めることは出来ませんので」
「なるほど、ルーキーによくあるパターンだったと」
「はい。すみません話が逸れましたね。こちらに遺品をお願いします」
「話を聞いたのは僕なので気にされないでください。では出しますね」
よかった、変に疑われてなさそうだ。普段から素行もあまり良くなかったんだろうな。
いくら10人2パーティだとしても、レベルや連携、魔物に対しての理解度がなければ平気で死ぬのがダンジョンだという事を分かってなかったのだろう。
ダンジョンには罠がある事も珍しくないので引っかかってしまえばルーキーでなくとも一瞬で死ぬことはザラだ。
「ありがとうございます。ちなみにどちらに遺体があったのでしょうか?」
「5階層のセーフティエリアから6階層への最短ルートの途中です」
「そうでしたか、遺品回収ありがとうございました。こちらが彼らのギルドへ預けていたお金になりますがいかがなさいますか?」
案の定と言うべきか、雀の涙程度しかお金がない。
「遺族の方たちに渡してあげてください。それが叶わなければギルドに寄付します」
「かしこまりました、ではそうさせていただきます」
まあこれなら最低限の善行と言えるだろう。ギルドからの心象も悪いものにはならないだろうしね。
「エリー、何日か中層で練習するかい?」
「練習? ああなるほど、分かったお願いする」
練習、正確にはバフへ慣れる事だ。今までエリーにはバフを使うことなんてなかったので今後格上と相対したとき、先日のように盛大に転ばれても困るからね。
今日はもう遅いので明日一日を使ってダンジョンで寝泊まりする道具を揃えて明後日から潜る事にした。
そしてダンジョンに潜る当日、僕たちは冒険者ギルドで依頼を受けることにした。
「やっぱりどの町のギルドも依頼が貼り出される早朝は人が多いね」
「感心している場合か、さっさと適当な依頼を受けるぞ」
正直どれも変わらない依頼だ。納品する量が違う程度。ただし納品量が多い方が高く買取ってくれたりする。
ダンジョン内の魔物は基本的に倒すと確率でアイテムを落とすから運が悪いと中々欲しい素材が手に入らなかったりするから大量納品の依頼は好まれない。
結局中層にいるという魔物の素材納品をいくつか同時に受けることにした。納期も同じものだ。
さて早速ダンジョンに入ろうと言うところで呼び止められる。
「あ、あの! よければ途中まで同行させていただけませんか?」
話しかけてきたのはルーキーと思わしき少年。後ろには気の弱そうな少女が1人。
「2人かい?」
「はい、できればで構いません、お願いできないでしょうか」
「それは2人による。ジョブとレベル、覚えているスキルと魔法の全てを答えることが出来るかい? そこで問題なしだと判断出来たら連れていってあげてもいい」
「お前たち、ついでにどこまで潜りたいのかも教えろ」
僕とエリーの質問に2人は素直に答える。たまにジョブを偽る者がいて、スキルと魔法を聞くとボロを出すことがあるのだが、2人は間違えることもなく答えてみせた。
「レベルを聞く限りだと2階層までなら許可してやる。それより潜りたいなら他をあたれ」
「それが妥当だね。それ以上潜ると2人じゃ帰還できる可能性がかなり減る。どうする?」
「どうしても7階層までは無理でしょうか? どうかお願いします」
「わ、わたしからもお願いします」
「何故7階層なんだい? ルーキー、しかもまだ2人ともレベルは5だ。はっきり言って無謀だよ。仮に2人にジョブが3つあったとしても無理だ」
2人は黙ってしまった。
「言えないならなおさら無理だ。悪いけど僕たちもそろそろ潜りたい。本当に7階層まで行きたいなら一年間無茶をせず確実にレベル上げをするべきだ」
「ホープの言うとおりだ。ルーキーはもう少し自分の命を大切にしろ。最も冒険者を殺した魔物はゴブリンと言われているのにお前たちはゴブリンを舐めすぎている。もしも前衛のお前が無理をしてゴブリンにやられたら後衛の彼女が襲われることになる。お前は男だからただ殺されるだけで済むが、女はそうではない。犯され嬲られゴブリンの子を産まされ、使い物にならなくなれば殺されるんだぞ? それを正しく理解しているんだろうな?」
2人は顔を青くしつつもやはりだんまりだ。
「話にならんな。自殺したいなら勝手にしろ。お前たちが思ってるほどここのダンジョンはルーキーに甘くないぞ」
「そういうことだから、2階層までどうする? そこで大人しく我慢できるなら連れていってあげるよ」
「……分かりました、そこまでで構いませんのでお願いします」
苦虫を噛み潰したかのような顔だ。おそらく今までいくつかのパーティに頼んだことがあるのだろうが断られたのだろう。
どのパーティもルーキーの足手纏いなんか連れるメリットなんてないからね。そのせいで死ぬことにでもなったら死んでも死にきれない。
「2階層まで走るからちゃんとついてくるんだよ?」
「え、走る?」
「ついて来れなければそこまでだ。私たちが道を開くから死ぬ気で追いかけてこい」
僕たちは2人の返事など聞かずに走り出した。
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