第30話 譲った結果

 昼食を食べている間視線をかなり集めた。

 このダンジョンでは見かけない新参者だから仕方ないだろう。それにエリーは美人だから特に男の冒険者からの視線が多かった。


「美人も大変だね」

「もう慣れたさ。ホープこそ視線を集めているだろ」

「エリーほどじゃないさ。それに今日は変に話しかけられないから楽なもんだよ」


 場合によってはしつこく絡んでくる命知らずは少なくない。


「思ったより早くここまでこれたし6階層までのルートを確認したら今日は帰ろうか」

「そうだな、それくらいなら今日中に町へ戻ることも可能だから問題ない」


 軽い確認をして早速僕たちはセーフティエリアを出発する。

 すると少しだけ後ろを2パーティが付いてくる。


 体力温存か僕たちを襲うか、どの道気分のいいものではないな。


「エリー、魔物はもう討伐しなくていいよ。あとは後ろに流す感じで」

「分かった。まったく性格が悪いやつだ」

「なに、ルーキーたちの経験値を奪っては悪いから譲るだけさ」


 エリーはアデラインとラシャドに命令して牧羊犬の真似事をさせる。

 少し離れたところに隠れていたゴブリンは二匹に追われ僕たちの元へと走ってくるが、襲ってくる事はない。


「<恐怖フィアー>」


 <恐怖フィアー>は術者とそのパーティメンバーに対して恐怖を覚える。そしてレベル差があればあるほど怯え逃げ出そうとする。

 前には僕とエリー、後ろからはアデラインとラシャド。

 こうなると僕たちを相手にすることは出来ず、戻ることも出来ない。

 そこで僕とエリーが道を開けてやると喜んで通り抜けていくわけだ。


 そして僕たちから離れ冷静になったゴブリンたちは目の前にいるルーキーたちを襲い出す。

 まさか僕たちの横を通り抜けたゴブリンたちが襲ってくるとは思っていなかったのか、ルーキーたちは慌てふためいている。

 後ろから勝手についてくるなら戦闘に巻き込まれる可能性くらい考えておかないとダメだろうに。

 余裕をかまして武器は手に持ってない、仲間内で適当に話していたから魔物の接近に気付けない。

 故に2パーティ計10人もいるのにゴブリン8体相手に一瞬で3人が戦闘不能だ。救いはまだ死んでないという事か。

 全員が何かしらのキズを負っている。


「どうする? 助けるのか? それとも進むか?」

「進もうか、どうせもうすぐ6階層だからそこまで確認して戻ってきた時に無事だったら助ければいいんじゃない?」

「分かった、ではそうしよう」


 ここはダンジョンだ。そして相手は狡猾なゴブリン。なら油断する方が悪い。


「ま、待ってくれ! 助けてくれ!」


 恥知らずなルーキーが助けてくれと懇願してくる。まあルーキーは多少恥をかいた方がいいだろう。


「戻ってきた時に無事だったら助けてあげるよ」

「そんな! 頼むから助けてくれ! 助けてください!」


 知ったことではない。たまに助けを求めてきたくせに助けると必要なかっただの素材などは渡さないだのいきなり態度を変えるバカがいるのだ。

 だから僕たちはあまり助けることはしない。

 まあ今回は僕たちが襲わせたようなものなので助けたら絡まれること請け合いだ。


 ルーキーたちの阿鼻叫喚など無視して僕たちは進む。

 道中で現れるゴブリンたちは僕たちが来た道を走って行く。きっとルーキーの元へと辿り着くことだろう。

 5階層まで潜って来れたのなら耐えるか逃げることは可能だろうから頑張ってほしいね。


◇ ◇ ◇ ◇


 醜い小鬼は群がる。そこに慈悲は無く、あるのは理不尽な暴力のみ。


 既に7人いた男は残り1人。しかし彼にも理不尽な暴力は訪れる。

 10を越える小鬼に囲まれ、すぐ側には鼻から血を流し骨を折られ泣き叫ぶ少女たちがいた。


 小鬼は下卑た笑みを浮かべながら少女へ悪意を注ぎ込む。いや、苗床へとタネを蒔く。種を増やすために。


 男は自身の無力を嘆き、しかし最後まで諦めない。

 全ての力を振りしぼり今まさに起死回生の一撃を放つために。


 衝撃が走り、地が震え、全てが反転する。


 男は地に伏すが小鬼は許さない。殺意には殺意を、暴力には暴力を。息絶えるまで続く暴力を。


 少女は横目に光を失ったことを理解する。

 既に諦め泣き叫ぶこともしないモノもいる。

 入代いれかわり立ち代わり小鬼はタネを蒔く。


 そこには嘲笑を浮かべた小鬼と理不尽な暴力に蹂躙されるモノたちだけが残っていた。


◇ ◇ ◇ ◇


「うーん、まさかの全滅か」


 僕たちは目的地まで進み、引きかえしてルーキーたちと別れた場所まで戻ってきたのだが、時間にして30分くらいかな? 男は全員殺され、女は絶賛犯され中だった。


 助けるべきか悩むな。助けたところで少女たちはすでに心が死んでるし周りからの視線に耐えるのは難しいだろう。だからと言って助けようとしないのも変な話だ。


「助けるか殺すか、どちらにする?」

「後で面倒だし殺そうか。周りに冒険者もいなくて丁度いいし」


 エリーの質問に答えるとエリーはゴブリンを一体その場でテイムした。そしてその他のゴブリンはアデラインとラシャドが殲滅する。

 辛うじて生きている少女たちはエリーがテイムしたゴブリンに殺させる。


 ルーキーたちの亡骸を見ながら全員のギルドカードと荷物を集める。

 ギルドカードは持ち主が死ぬと色が赤く染まる。そしてそれをギルドに持って行くと、預けてあるお金の殆どをもらう事ができる。

 荷物も似たようなもので、欲しいものはもらう事ができるし残りは遺品として遺族や仲間に返される。


 ルーキーだから基本的にお金は殆どないだろうな。

 口にするものは怖いし、安物の武器や防具はあまり必要がない。

 今回欲しいものは新品同様のスリングと鉛の弾くらいか。ダンジョンで弾になる石を拾って使えばいいのに鉛を買うなんてルーキーがやるべきことじゃないよなあ。

 これは本当にお金に関して期待できそうにないな。


 エリーがテイムしたゴブリンを殺して僕たちは町へ帰ることにした。

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