第31話 試作搭乗型戦闘ゴーレム『タロス』

「ロボット……ですか?」


 ゴーレムの修行中、師匠がポツリと漏らした言葉にレーヴは反応した。

 師匠は一つ一つ言葉を選びながら説明する。


「うむ。簡単に説明するなら魔法を使わないゴーレムじゃな。まあ人型はそう多くは無かったがの」

「師匠の世界にもそのようなものがあったのですね」


 たまに師匠の口から出る異なる世界の話。

 ゴーレム製作の手を一度止め、レーヴは師匠の話に耳を傾ける。


「人型が少ないとなると最小限の機能を持っているのでしょうか?」

「そうじゃな。物を運ぶだけのロボットがあれば、菓子を作るようなものもあった」

「なるほど。作業の一部をそれらに任せれば効率も上がる。どの世界だろうと、行きつく先は一緒という事ですかね」


 そう笑みを浮かべるレーヴに師匠は同じく笑みを返す。


「そうかも知れんの。じゃがロボットは何も実用的なだけではない。ロマンも教えてくれた」

「ロマン……ですか?」


 予想外の言葉にレーヴが困惑していると、師匠は懐かしむように口にする。


「レーヴ、お前は想像できるか? 人よりも城よりも大きなゴーレムが戦う姿を」

「……いえ。師匠の世界では当たり前にあるものなのですか?」


 素直にそう返事するレーヴの頭を撫でながら、師匠は笑って答える。


「まさか、あくまで空想上のものじゃ。大きさは再現できても動かすのはまだまだ先の話じゃった」

「いえ、そこまでの大きさを造れる時点で技術的に高いと思うのですが」

「それは恐らく間違いないじゃろうが、今伝えたいのはそこではない」


 師匠はレーヴの目を見ながら、真剣な表情で伝える。


「レーヴ。例えお前がこの先どの様に進むにせよ、ロマンを追求せよ。どんな事が出来たら楽しいか、それを考え続けろ。前例が無いからと諦めるな、それをやり通すだけの力が人間にはある」

「……はい!!」


 その教えが、結果として師匠が教えた最後の教えとなった。



 その日以来、レーヴは師匠の話を元に時間を見つけては少しずつロボットと呼べるゴーレムの製作に励んだ。

 コザクラとの戦いを経てからは製作のスピードを上げ、今まさに不完全ながらもレーヴなりの答えが姿を現したのである。


「な、何をしてる! 囲んで仕留めろ!」


 顔面を押さえながら、コンディは必死な形相で指示を飛ばす。

 その指示を受けて、王国兵士たちはタロスと呼ばれたゴーレムの周りを囲もうとする。


「そう簡単に」


 レーヴのその言葉と同時に、タロスの脚部から魔力が噴き出す。

 その勢いのままタロスは王国兵に高速で移動する。


「行くわけないだろ!」


 そしてそのまま鉄で出来た剛腕を大きく振るい、剣と鎧を壊しながら吹き飛ばす。

 まるでボールのように弾きとぶ仲間たち、それを見て王国兵士たちは思わず動きを止める。


「近づいて駄目なら弓矢を使え! 遠方から攻撃しろ!」


 フラフラと立ち上がるコンディの指揮を受け、十人ほどが弓をタロスに向け放つ。

 だがレーヴは避ける事もしないで正面から受け止める。

 その結果、弓矢はタロスに当たったが傷一つ付ける事は叶なかった。


「なっ!?」

「こいつは硬度に優れたアダマントで覆っている。そんな貧弱な矢で傷を付けられると思うなよ」


 そう説明するレーヴの後ろから王国兵が近づいて攻撃しようとするが、その動きが見えているかのようにタロスは重い胴体を捻りつつ迎撃する。


「クソッ! ゴーレムなのに何であんな軽やかに動けるんだ!?」


 王国兵士が思わずそう叫ぶのに対して、レーヴは近づいてくる者をタロスの腕で振り払いながら答える。


「こいつの関節は柔軟性に優れたワイルドウルフの筋肉を加工して使っている。ゴーレムではあるがこれにより柔軟な動きが出来るわけだ」

「よ、余裕振りやがって! これでも喰らえ!」


 隊長クラスの王国兵が突然杖を構え、大きな火球をタロスにぶつける。

 周りの草木にも火が飛び散り、煙がタロスを包む。


「もう一発!」


 再び魔法を使おうとする王国兵であったが、その前にタロスは大きく跳びあがる。


「なっ!? き、効いてないないのか!?」


 その言葉を最後に、目の前に着地した着地したタロスの腕によって弾き飛ばされる。


「こいつの中にいるのは魔法使いだぞ? その程度の魔法が効く訳無いだろ」

「ひ、怯むな! 攻撃を続けろ!!」


 もはや誰の言葉かも分からなかったが、王国兵士たちはその言葉に従ってタロスに攻撃を続ける。

 向かってくる兵士たちをなぎ倒しながら、レーヴの脳内では冷静にタロスについて考えていた。


(近接戦闘は上々。ただし遠距離戦の不安要素は拭えない……。この中からでも魔法が使えるように改造するか)


 戦っている内に怒りは引いてきたのか、レーヴは冷静に周りを見渡し始める。

 周囲には十数人もの王国兵士たちが苦悶の表情で転がっていたが、周囲にはまだ多くの兵士たちが怯えながらも囲んでいた。


(いっそ玉砕覚悟で突っ込んで来てくれたが、不安要素は少ないんだがな)


 遠距離戦以外でレーヴがタロスに不安を感じる事があるとすれば二つある。

 一つは魔力供給源の代わりとなるレーヴの魔力消費量の激しさ、そしてもう一つは必然的に熱が籠る搭乗部。

 この二つは総じてこのゴーレム、タロスが長期戦に向いていないという欠点でもあった。


(さて、どうするか。時間稼ぎにしては暴れすぎたが、そろそろ……)

「動きが止まったぞ! 今だ!」


 考え事に集中しすぎたせいか、動きが止まったタロスに兵士たちが再び襲いかかる。

 すぐさま迎撃に移ろうとするレーヴであったが、その前に後ろの兵士たちが倒れていく。


「な、何事だ!?」


 次々に倒れて行く仲間たちに、混乱に包まれる王国兵士たち。

 一方でレーヴは、その光景に安堵を覚えるのであった。


「全く。真っ先に切り込んでくるなよ、クラウディア」

「レーヴ殿? ゴーレムの中にいるのですか?」


 まるで突然現れたように姿を現したのは帝国における第四騎士団の団長、クラウディアであった。

 タロスを驚きの目で見つめるクラウディアを見て、王国兵士たちの一人が驚きの声を上げる。


「く、クラウディアだと。あの『閃光』だと言うのか!?」

「他国ではそう呼ばれているようですね。自分にはその二つ名は相応しくないと思いますが」


 瞬く間に敵を倒していくその姿から、畏敬を込めて他国に付けられたクラウディアの二つ名『閃光』。

 帝国内でも浸透しつつあるこの二つ名をクラウディア自身はあまり良く思っていないが、周囲からはピッタシだと思われていたりする。


「ひ、怯むな! たかが一人増えたところで」

「一人ではありませんぞ」

「何? うおっ!?」


 突然現れた鎧姿の大男に王国兵士が弾き飛ばされるのを皮切りに、物陰から二つの影が襲い掛かる。


「なっ、何者だ!」

「少なくともアンタ達の敵よ!」


 そう言って王国兵士たちを切りつけるのはアーシャであった。

 その近くではライアンが大剣を振るい、イヴはその脚技で王国兵士たちを気絶させていた。


「レーヴ、タロスを使用したのですね。性能は如何ですか?」

「まあ悪くはない、と言っておこう」

「えっ!? 何かレーヴの声があのゴーレムから聞こえたんだけど!?」

「もしやゴーレムの中にいるのですかレーヴ殿」

「その反応もだいぶ飽きてきたな」


 レーヴはそう言うと、タロスの搭乗部が開き出てくる。

 汗だくになりつつ無防備な状態になるが、それを狙えるほどの統率力は既に王国兵士には無かった。


「な、何でだ! 閃光もこいつらも夕暮れの森にいるはずだ!」

「そんなもの、俺が伝令を送ったに決まっているだろ?」


 当たり前のように答えるレーヴであったが、王国兵士は半狂乱になりつつ反論する。


「バカな! 通信魔法を使う素振りどころか、人一人通らなかったはずだ! せいぜい犬が通った程度だ!」

「その犬が伝令用のゴーレムだと発想出来ないのが王国兵士だよな」


 事前に異変を感じたレーヴは夕暮れの森に向かった三人に向けて行先を書き記した手紙を犬型のゴーレムに持たせたのである。


(まあクラウディアもこっちに来たのは、幸運と言えるがな)


 レーヴがそう思いつつ戦況を見渡す。

 奇襲を受けた王国兵士たちは混乱しており、こっちの勝利はもはや確実であった。


「投降してください! これ以上の血を流す必要はありません!」


 近づいてくる兵士たちを迎撃しながらクラウディアが叫ぶ。

 それに対し王国兵士はコンディに判断を仰ぐ。


「こ、コンディ騎士団長! どうなされますか! ……騎士団長?」


 だが何処を見渡してもコンディの姿は見当たらず、声も届いてこない。

 その状況を見てレーヴは軽蔑を込めて結論を出す。


「逃げたな。自分だけ」

「そ、そんな……」


 レーヴの言葉に心が折れた王国兵もおり、逃げ出そうとする者もいた。

 そんな中である王国兵士が、狂ったように笑い始める。


「いいのか? こっちには人質がいるんだぜ? このままだとアイツらの居場所は一生分からないままだ!」

「っ! ……卑劣な」


 ライアンのその言葉に対して、王国兵士は笑いながら後退していく。


「何とでも言え! このまま帰らしてもらうぜ!」

「あー。それは無理そうだぞ?」

「レーヴ?」


 イヴを始めとした面々が不思議そうにしている中で、後退していた王国兵士の足を何かが貫く。

 悲鳴を上げ転がるその兵士を無視しながら、レーヴはその後ろから現れた人物に声を掛ける。


「そちらの首尾は如何でしたか、宰相」

「ふん。やはり気づいていたか便利屋」


 その人物とは、帝国の頭脳。

 ここに居る筈もないブラド宰相であった。




 あとがき

 本日はここまでとなります。

 レーヴの切り札であるタロス、その実力と経緯が語られました。

 そして一連の事件は決着を迎えつつあります。

 どのような結末か、お楽しみに。


 感想や評価を貰えると凄くやる気が出ます!

 もし良ければ是非お願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る