第32話 騒がしき日々

「ブ、ブラドだと!? なぜ宰相がここに!?」


 突然現れた帝国二番手に、王国の兵士たちは動揺を隠せないでいた。

 改めて逃げようとする者も出てくる中、木々の中から新たに現れたのは帝国でも選りすぐりの兵士であるブラドの部下たちであった。

 抵抗すら許さず次々と捕縛されていく王国の兵士たちであったが、その中の一人が苦し紛れに叫ぶ。


「放せ! 人質がどうなってもいいのか!?」

「と、言っていますが。その辺りどうなのですか宰相」

「想像がついているくせに人任せにするな便利屋。そういう所が気に入らん」


 ブラドはため息を吐きながら王国の兵士たちに向けて話始める。


「貴様らが誘拐した職人、二十四人は一人残らず保護した。つまり貴様らが交渉できる材料は既にない」

「う、嘘だ! あの場所は何重にも魔法による隠ぺいを」

「このような林にそれだけの魔法を使えば逆に検討がつくというものだ。基礎からやり直すといい」


 呆れたようにしているブラドにさらに別の王国兵士が叫ぶ。


「で、では第四騎士団は一体何だったんだ! 見当はずれの場所ばかり探していたじゃないか!」


 その答えはブラドではなくレーヴが口にする。


「第四騎士団を派手に別の地点に動かす事でお前らを安心させ、その隙を狙って本命が救出する。それすら想像も出来ないとはな」

「く、クソッ!!」


 ヤケになったのか一人の王国の兵士が拘束を振りほどき、ブラドに斬りかかろうとする。

 クラウディアを始めとして、誰もがブラドを守ろうと動き始める。

 だが、それよりも速くブラド自身が魔法を展開。

 四つの光の矢が迫ってくる王国兵士の四肢を、まさに光速で貫く。


「痛ってぇぇぇぇ!?」


 痛みに苦しむ王国兵士を帝国兵士が素早く気絶させ拘束する。

 ブラドはその様子を見届けると、まずクラウディアに近づいていく。


「第四騎士団長、クラウディア」

「は、はっ!」


 緊張した面持ちで礼を尽くすクラウディアにブラドは優しく声を掛ける。


「必要であったとはいえ関係無い場所への捜索の任、伝えずにいて済まなかった」

「い、いえ! 帝国のためであれば如何様にも!」

「我が権限を持って第四騎士団には数日の休暇を与える。しばらく体を休ませるといい」

「ありがたきお言葉です。部下も喜ぶ事でしょう」


 クラウディアにそう伝え終わると、ブラドはレーヴに近づいていく。


「人が乗り込むゴーレム……か」

「はい」


 妙な緊張感が辺りを包む中、ブラドはタロスを見渡しながら感想を口にする。


「まだまだだな。もっと活動時間を伸ばさなければ実戦では役に立たないだろう。今回の一件は運が良かったと知れ」

「宰相様、お言葉ですが」


 ブラドの言葉にイヴが反論しようとするが、それを静止したのは他でもないレーヴであった。


「ご忠告、ありがたく頂戴します」


 実際、ブラドが指摘した事は間違っていなかった。

 試作品だからと言って言い訳する気はレーヴには無かった。


「分かっているならばよい」


 そう言ってこの場を去ろうとするブラドであったが、突如足を止め後ろ向きのまま話始める。


「だが、発想自体は悪くない。そしてその発想をここまで形にした事は称賛すべき事である」

「えっ?」


 思わぬ言葉にレーヴが呆けているが、構わずブラドは話続ける。


「魔法使いが接近された時どう対処するか、その答えの一つを見させてもらった。とは言え荒削りなのは間違いない。これからも満足せず研鑽を積むといい」

「……あ、ありがとうございます」

「ふん」


 その言葉を最後に、ブラドは連れて来た兵士と捕縛した王国兵を連れてラーハへと向かっていった。

 月が皆を照らす中、ようやくこの事件は幕を閉じるのであった。



「痛たたたたた」

「無茶のしすぎですレーヴ」


 次の日の午後、レーヴは横になりつつイヴに治療薬を塗ってもらっていた。

 タロスの激しい動きにレーヴの体がついて行けず、筋肉痛になったのである。


「ふむ。この際ですのでレーヴ殿も体を鍛えてはどうですかな?」

「な、なんだったら私が協力してもいいわよ! 今回の礼もあるし!」


 その隣ではライアンとアーシャがそれぞれレーヴの体を鍛える事を進める。

 だがレーヴは笑いながら拒否する。


「普段でさえ忙しいのに体まで鍛えてられるか。そういうのはイヴやお前らに任せる」

「そ、そう。で、でも凄いわよねあのタロスっていうゴーレム。敵無しなんじゃないの?」

「そうでもない。むしろ穴だらけだ。悪いが今後二人にはタロスの実戦データを集めるのに協力してもらうぞ」

「もちろん。自分で役に立てるのであれば」

「……」

「アーシャ様? どうなされました?」


 突然黙り込むアーシャを心配そうに見つめるイヴであったが、何かを決意したように彼女はレーヴを見つめる。


「あ、あのねレーヴ。まずは信じてくれてありがとう」

「気にするな。損得を考えただけの話だ」

「で、でね! こんな時に、こんな場所で言うのもあれなんだけど! も、もし良かったら私と……!」

「レーヴ居るか! ようやく事情聴取が終わったぜ!」

「アクト様」

「「「……」」」


 入ってきたアクトを出迎えたのはイヴのみで、他の三人は黙り込んでしまう。

 特に告白寸前までいってキャンセルを食らったアーシャの表情は顔を伏せられており判別がつかない。


「皆ここにいたか! 俺を助けるためにありがとうな!」

「気にするなアクト。というか現在進行形で命の危機がお前に迫ってるがな」

「ですな」

「ライアンまでなんだよ。……ってアーシャ、元気ないがどうした? 相談に乗るぞ?」


 何かが切れる音と同時にアーシャが立ち上がり、つかつかとアクトに近づいていく。


「そうね。今、凄く困っているの。空気の読めないバカのせいで」

「あ、アーシャ? 何で武器を召喚しながら迫ってくるんだ?」

「だから取り敢えずこの言葉だけ言わせてもらうね」


 アクトの言葉を無視し、アーシャは武器を大きく振り上げる。


「一回頭を作り直して来い! この大馬鹿野郎!!」

「何でだ!?!?」


 次々に武器を召喚してはアクトに切りかかるアーシャを横目に、三人はのんびりと会話する。


「何故アーシャ様はアクト様にお怒りに?」

「……まあイヴにもそのうち分かるよ、そのうちな」

「とは言えこのままでは店が壊れてしまいますな。自分が止めてきましょう」

「怪我するなよライアン」


 意を決してアーシャを止めようとするライアンを見送りながら、レーヴはとにかく痛みを和らげるため横になろうとする。

 だが突然店の扉が開けられると同時に小さな影が飛び込んで来た。


「便利屋殿! 酷いではがござらんか! 切り札があるならどうしてあの時使って下さらなかったのでござるか!」

「また厄介な奴が」

「コザクラ様、どこでその話を?」


 乱入してきたコザクラにイヴがそう聞くと、興奮した様子でコザクラは答えを返す。


「クラウディア殿が休みに入る前に語ってくれたでござるよ! それよりも拙者にも是非そのゴーレムを味合わせて……ではなく! 立ち会わせてほしいでござる」

「勘弁してくれ」


 何とか追い出す手段をレーヴが考える前に、空いたままの扉からもう一人厄介な人間が入って来た。


「イヴさーん! この! マイストスが! 再び! やって来ましたよ!」

「マイストス様。今は少し……」


 マイストスも入ってきて、ギュウギュウとなりつつある部屋を見渡しながらレーヴは思う。

 自分を中心に騒がしくなっている今の現状を師匠が見たらどう思うか、と。

 その答えを出す前に、師匠の笑っている顔が目に浮かぶレーヴはとにかく事態の収集を図るのであった。




 あとがき

 という事で第一幕これにて終幕です。

 あとは出番の少なかったあの人の番外編を書いて、終了です。

 今後コンテストの参加状況によって続きを書く日時は変更になります。

 できればこの物語の続きは書籍という形で、とは思っています。

 それでは皆様、続きをご期待ください。


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