第8話

父は逮捕された。

過去に病院でしていた不正が告発されたのだった。


父は医師法違反の容疑で取り調べを受けることになった。

嫌いな父ではあったが、実際にこうして警察に捕まってしまうと家族として心が傷んだ。


父は何をしたのか。

それを知り、私は人生が大きく変わることとなった。

これまでの人生も、そして、これからの人生も……



私の父は、私が生まれる前から綾香さんと不倫をしていた。

なんと、母と綾香さんは、同時期に妊娠をしていた。

綾香さんは父に堕ろすよう説得されていたが、シングルマザーとして育てるつもりでいたらしい。

そして、これもなんという運命の巡り合わせ。

前に綾香さんが言っていた通り、二人は同じ日に出産したのだった。


綾香さんは、自分の赤ちゃんは死んだと言っていた。

父の逮捕により、それは違っていたということが判明した。

死んだのは、私の母の子の方であった。

母は病弱で、出産にも失敗していたのだった。


父は医師会会長の娘と結婚し、子を成すことで出世しようとしていた。

しかし、子はすぐ死んでしまった。

一方、不倫相手である綾香さんの子はしっかり生まれてきてしまった。

父は、医師という立場を利用し、こっそり赤子を入れ替えたのだった。



私は、父と綾香さんとの間に生まれた子だった……



大好きだったお母さんと私は、血が繋がっていなかった。

憎くて憎くて仕方なかった綾香さんの方が、本当の母親だった……



赤子の入れ替えは一部のスタッフしか知らないことだった。

母も綾香さんも、まったく知らなかった。

母は、私を実の娘だと思って、まったく疑いもせずに育ててくれていたのだった。

綾香さんも、自分は死産をしたのだと思い込み、私が実の娘であるとは知らずに今日まで過ごしてきたのだった。



父は、医師会の会長に立候補していた。

激しい派閥争いがそこにあった。

対抗する派閥が、父の過去の不正を暴き立て、怪文書を流して父を失脚させたのだった。


警察の取り調べを受けたものの、17年前の事件ということで、父は起訴猶予処分となった。

しかし、医師の世界は狭く、噂はあっという間に広まってしまった。

医師会での出世の道は閉ざされた。


釈放され帰宅してきた父は、私と綾香さんの前で、再び土下座をした。


「すまなかった」


なんという安っぽい言葉だろう。

そんな言葉で許されるはずもない。


綾斗くんとは実の姉弟だったということは、嬉しく思えた。


けれど……

綾香さんのことは……


しばらく考えたけど、そして、考えはまとまらなかったけど……



私は、綾香さんを初めてこう呼んだ。



「お母さん」



綾香さん、いや、お母さんの目から涙が溢れた。

私も、いつの間にか涙をこぼしていた。


私はこれからどうすればいいのか分からなかった。



< 了 >


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父の裏切り 神楽堂 @haiho_

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