女装はそろそろ限界です。(エミリアン視点)

 

 あの日、僕は母に抱かれた彼女を見た。

 とても小さくて守りたいと思った。


「アリーに会いたい?ダメ。男の人が怖いって言ってるんだから。あのひ弱そうなお父さんを見ても、怖がってったし……。あ、でもエミリアンなら大丈夫かな?」



 あの子はアリーという名前で、なんと母の友達のルネさんの姪っ子だった。

 ルネさんは母が男に絡まれていたところを助けてあげた以来の友達だ。

 ルネさんの娘イヴォンヌは二つ上なんだけどいつもお姉さんぶって好きじゃない。

 今日だってルネさんに頼みに来たのに、なんでこいつが答えるんだ。


「そうね。エミリアンなら」


 イヴォンヌの隣でルネさんがニヤッと笑った気がした。


「何で僕がこんな格好を!」

「イヴォンヌの服がぴったりだわ」

「私より似合うなんて」

「まさか我が子にこんな特技が」


  僕はイヴォンヌの服を着せられ、付け毛で髪を増やされ、女装させられていた。

 

「さあ、これなら会わせても大丈夫」

「いや、こんな姿で」

「だったら会わない?」

「会います」


  イヴォンヌに問いかけられ、僕は即答した。

 会えるなら何でもいい。


 そうして僕はアリーと出会うことがあった。

 あの時より少しふっくらしてて、可愛かった。

 それから、僕は女装して、エミリーとして会うことになった。スカートはとても動きにくいし、髪は邪魔だけど、アリーと会えるなら我慢した。

 付け毛だった髪も伸ばすようになって、アリーと会わないときは、一つ結びにした。

 そうして九年が経って、僕が騎士団に入団する日がやってきた。

 アリーのそばにいるため、女の子として生きようかと思っていたけど、騎士団には母もいるし、性別に嘘はつけない。

 だから男として入団。

 アリーに褒められたこともあって、頑張った。

 だけど、弊害もあって……。


「あちゃー。エミリアン。こんなにゴツゴツしてきたら、女の子に見えないじゃないの」


 三ヶ月の訓練が終わって初めての休み、女装するためまず本館を訪れる。

 アリーはいまだに男が苦手で、屋敷の外れに住んでいて、僕はいつも本館でイヴォンヌが用意した服をきてから、アリーに会いにいく。


「化粧もしないとまずいわよ。日に焼けすぎ。まあ、騎士団だもんえ」

「け、化粧?!それは嫌だ」

「化粧しないと、もう女の子に見えないんだって」

「わかった」


 仕方なく僕は化粧を受け入れ、身支度を済ませてから、アリーと会った。

 久々に会ったアリーはやっぱり可愛くて、騎士団に入ったことを少し後悔した。

 彼女に強請られ、騎士団の話をする。


「女の子なのに、大変よね。頑張ってね」

「あ、うん」


 アリーは僕のことをまだ女の子だと思っている。

 わかっているけど、ちょっと辛いな。


「え、これ、喉仏?声が少し低くなってきたって思ったら。うわあ。喉にリボンでも巻こうかしら。それとも襟があるドレスにする?」


 騎士になる前の見習いの期間は、休みがほとんどない。あっても、宿舎を出られないので、アリーになかなか会うことができなかった。

 そうして時間が経っていくに連れて、僕の体は変化していく。

 身長も伸びて、もうイヴォンヌの背はとっくに抜いていて、母と同じくらいになった。


「そろそろ限界ね。もう誤魔化すのは難しいわ」


 体の線を隠すようなドレスを作ってもらって、僕はなんとか身につけた。胸にも何やら詰め物を入れる。お尻にも膨らみを持たせ、本当に大変な作業だ。

 それでも僕が女装してられるのは、もう難しいだろう。


「……アリーが私の結婚のことを気にして、修道院に行くっていうのよね」

「修道院?!ダメだよ。それは」

「そう。私も反対したのだけど。ねぇ。エミリアン。あなた、アリーのこと本当に好き?」

「も、もちろんだよ。だから、ずっと女装なんてことをしてるんだ」

「だったら結婚しなさいよ」

「え?」

「それがいいわ。うん。アリーはまだ男性恐怖症だけど、エミリアンなら大丈夫よ。きっと」

「え。大丈夫って。でも結婚だよ?」

「アリーが修道院にいってもいいの?もう会えないのよ?」

「それは嫌だ」

「結婚すればいつも一緒にいられるわよ。女装もする必要もなくなるわ」


 僕は安易にイヴォンヌの案に乗ってしまった。 

 そうしてアリーは倒れた。


 目を覚ました彼女は、見合いの相手が僕だと知らなかった。

 しかも女装していないのに、僕のことを女の子だと思っていた。

 ろくにアリーと話もしないうちに、イヴォンヌによって部屋を追い出され、次に部屋に入った時は、しばらく屋敷に滞在して、アリーと暮らすことが決定していた。

 部屋はアリーの隣。

 僕は、アリーの前で、女の子として振る舞うのをやめ、私から、本来の僕という呼び方に戻した。それからドレスも女の子の服も着なかった。髪は切ったまま、付け毛もつけない。

 だけど、アリーは僕のことを女の子と思っていた。


 とっていた休暇が終わり、僕が騎士団へ戻らないといけない日になった。

 彼女と離れたくなくて、一緒に暮らさないかと誘ったら、「いいよ」って返事をもらった。結婚の話をしたら、女の人とは結婚できないと言われた。

 僕は、自分が男だって思われたくて、シャツを脱ごうとしたんだけど、アリーが叫んで、僕は我に返った。


 自分の気持ちを優先して、彼女を傷つけてしまった。

 そんな僕が嫌でたまらなかった。

 でも許してほしくて、彼女を抱きしめる。

 抵抗はされなかった。

 きっと、彼女はまだ僕のことを女の子だって思っているからだ。


 僕は彼女を大切にしたい。

 だから諦めた。


「アリー。僕は女の子でいいよ。だからたまに会ってくれる?」

「ううん。私は毎日エミリアンと過ごしたい。だから結婚して」


 だけど、アリーは僕の腕の中で、顔を上げて言った。


「アリー!?」

「エミリアンが男の人でも、私はあなたが好き」

「アリー!」


 僕は天に舞い上がりそうになった。

 そして思わず彼女を抱きしめる腕に力を込めすぎてしまった。

 おかげで部屋に入ってきたイヴォンヌに怒られた。


 その後、イヴォンヌたちの結婚と僕たちの結婚式を一緒にする話になって僕は反対したんだけど、アリーがそう望んだから、合意した。

 でもそのおかげで早く結婚できそうだ。

 来月にしたいっていったら、イヴォンヌが慌てていてザマアミロって思った。

 今まで女装の時に、下着まで用意されて、本当は嫌だった。

 イヴォンヌの婚約者、見たことないんだけど、どんな人か気になる。

 女装趣味なんだろうか。

 来月結婚式で会えるのがとても楽しみだ。


(エミリアン視点 おしまい)

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男性恐怖症なのに縁談を持ち込まれました。 ありま氷炎 @arimahien

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