035 3日で5000万!

 朝食を済ませると、まずはいつも通りに漁へ。

 大規模な農業を展開するには資金が必要だ。

 考えをまとめる時間もほしかった。


「今日は5人死んだらしいね」


 川の魚を一網打尽にしている最中に由衣が言った。

 その発言によって、俺は生存者の数を調べ忘れていたことに気付く。


「ということは、生存者の数は430人か」


 死亡者数は3日連続で1桁ではあるものの、0には至っていない。


『こちら水野、順調っす! どうぞーっす!』


 懐のスマホから声が聞こえてきた。

 スピーカーモードで水野と通話を繋いでいる。


「相変わらず海しか見えないか?」


『はいっす! なーんにも見えないっす!』


「進路方向は合っているんだろうな」


『もちろんっす! ただ、想定より遅くなりそうっす!』


 水野によれば、漕がないと波に押し返されるそうだ。

 その為、寝て起きるとゴールから離れている。


「金銭面は大丈夫か?」


『大丈夫っす! まだまだ余裕っす!』


「足りなくなったら言えよ。いつでも送金する」


 離れていても問題なくお金の受け渡しができる。

 販売を駆使したお金の譲渡テクニックが活きる場面だ。


『了解っす! それでは用を足すので一度終了するっす! 大きい方っす!』


「詳細は言わなくていい」


 水野は豪快に笑いながら通話を切った。


 ◇


 午前は漁に集中した。

 そして昼食が終わると、いよいよ農業の始まりだ。


「まだ発芽はしていないね」


 まずは洞窟の入口付近に並べたプランターを確認した。

 プランターはいくつかあり、それぞれ別の種を仕込んでいる。


 これは由衣の案だ。

 畑で大規模展開をする前にプランターで様子を見ようというもの。

 より稼げる作物が分かったら、それを畑で全力で栽培するわけだ。


 プランターと同時進行で畑作りにも着手する。

 俺達は更地へ移動し、購入した土を地面に盛っていく。


「本当にこれでいけるのかねぇ」と波留。


「ま、物は試しだ」


 ググった知識を参考に畑――正確にはうねを作る。

 畝とは直線状に盛った土のことで、そこに種を蒔いていく。


 本来、畑を耕すには深い知識が求められる。

 ただ土を盛って畝の形にすればいい、というわけではない。

 土の種類もさることながら、肥料についても知識が必要なのだ。


 だが、俺達は肥料を使わない。

 というより、〈ガラパゴ〉には肥料が売っていなかった。

 そして、使用している土の商品説明にはこう書かれている。


『この商品は栽培に適した土であり、肥料を必要としません』


 仕組みはよく分からない。

 俺達の中には農業に詳しい人間がいないから。

 だから勝手に、肥料添加済みの土なのだろう、と認識している。


「こんなものだな」


 10メートル四方の更地に8つの畝を作り上げた。

 それらの畝に、水野のプランターと同じく支柱を突き立てる。

 支柱は無料と大差ない激安価格。ただの棒だからだろう。


 完成だ。

 見た目はどこからどう見ても畑である。


「これでなにも実らなかったら大赤字だよなぁ!」


 波留がニシシシと笑いながら俺を見る。


「その時は素直にプランターを買って並べるさ。金がかかるけどな」


 俺達はトマトの種を購入し、畝に蒔いていく。

 あとはその畑に水をやって終了。


「もし上手いこといったらどれくらいの稼ぎになるかな?」


 千草が尋ねてくる。


「この畝は1つにつきプランター10個分だ。それが8つある。つまり80倍だな」


「プランターは1個で25万ptの収入だったから、それの80倍だと……」


「2000万だよ」と、すかさず歩美が答えた。


「うっひゃー! 2000万!? 漁の10倍じゃん!」


 波留がぶったまげてみせる。


「種代も80倍で400万かかるから、差っ引いた収入は1600万になるけどな」


「別にいいじゃん! 上手くいけばちゃちゃっと水をやるだけでいいんしょ?」


「まぁな。それに土地を拡大すればもっと規模を大きくできる。プランターと一緒で水やりをちょろっとする程度で大丈夫なら、3ブロックくらいは畑にしても問題ないだろう。1ブロックにつきトマトの果実が4万個あるはずだから、収穫するのはとんでもなく面倒くさいが」


「3倍ってことは4800万じゃん! 3日で約5000万とかやばすぎっしょ!」


「トマトより効率の良い作物が見つかればもっと稼げるぜ」


「大地すげぇ! 農業すげぇ!」


「きっかけは水野のプランターだけどな」


「じゃあ水野もすげぇ!」


 俺達は数日後のことを想像して胸を躍らせた。


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