第45話 美波の緊急事態

「大丈夫か?美波。」


 俺は美波の彼氏が亡くなったと聞いてすぐに美波の家にいた。

 あまりにもいきなりの知らせだったから学校を飛び出してきてしまったが致し方あるまい。

 今は緊急事態だ。


「あはは、心配させちゃってごめんね。」


「いや、そんなことはいいんだがおじさんとおばさんは?」


「今は二人とも海外に出張してるんだ。だからこの家に私だけ。」


「そうか。」


 まさか、おじさんとおばさんが出張中なんて、タイミングが悪い。


「とりあえず、何があったのか聞いても大丈夫か?」


 本人に聞くのは酷だと思うが聞かないことにはどうすることもできない。


「うん。えっとね、昨日私たちはデートしてたの。二人で歩いて時に居眠り運転をしたトラックが私のほうに突っ込んできてそれから庇って彼がひかれちゃったの。」


 なんてこった。

 居眠り運転のトラックに轢かれるなんて運が悪すぎる。


「そうか。」


「私が悪いの。私が昨日デートなんて誘ったから。」


 そんなことは無い。

 どう考えても悪いのは居眠り運転をして突っ込んだトラックだ。


「そんなことは無い。君は悪くないよ。」


 我ながらありきたりな言葉しか出ない自分の口に苛立ちを感じる。


「ありがとね。」


 やばいかもな。

 このままじゃ自殺しかねない。

 今のこいつは明らかに正常じゃない。

 おばさんかおじさんがいないから誰もこいつを支えてやる奴がいない。

 俺が何とかするしかない。


「とりあえず、美波はいったん寝たほうがいい。その様子だと全く寝れてないんだろう?」


「うん。そうしようかな。」


 力なく美波はうなずくと自分の部屋に向かって歩き出した。

 が、足元がふらふらしている。


「おい大丈夫か?」


「ごめん。立ちくらんだだけ。」


 美波はそういうがどうにもそんな風には見えない。

 とりあえず美波の手を掴んで支える。


「迷惑かけてごめんね。」


「迷惑なんかじゃないから気にすんな。とりあえず部屋まで付き添うから歩けるか?」


「うん。」


 俺は美波に肩を貸しながら部屋に向かった。


「とりあえず寝ろ。なんかあったら起こすから。」


「うん。」


 美波は素直に布団に入った。

 少し様子を見ていると小さな寝息が聞こえてきた。

 どうやら眠ったようだ。

 俺はとりあえず部屋を出て学校に連絡を入れる。

 とりあえず一週間くらい休むことを伝えて電話を切った。

 今の美波を一人にするのは危険すぎるから立ち直るまで一緒にいようと思ったからだ。




「もしもし?」


「ああ。月か?」


「うん。いつも可愛い月ちゃんだよ?いきなりどうしたの星乃君。」



「美波の彼氏が亡くなった。」


「え?それほんとう?」


「こんな嘘つかない。」


 嘘ならよかったんだけどな。


「だよね。」


 電話先の月の声が暗くなった。


「今の美波を一人にさせるのは不安だから一週間くらい一緒にいようと思うからしばらく家に帰れない。」


「うん。わかった。美波さんのこと助けてあげてね。」


「もちろん。」


 電話を切るとすぐに美波の部屋の扉があいた。


「おはよう。」


「うん。おはよう。」


 美波が部屋から出てきたが顔色は優れない。


「一週間くらいこの家に泊めてもらってもいいか?」


「それは全然良いけどなんでいきなり?」


「今のお前を一人にしたくないからな。」


「そんな気にしなくてもいいのに。」


「気にするよ。お前は俺を助けてくれた。だから恩返しくらいさせてくれ。」


 俺がつらかった時美波はずっとそばにいてくれた。

 次は俺が美波を支える番だろう。


「ありがと。」


 美波は少しほほ笑んだがやはりぎこちない。

 まあ、彼氏が亡くなったんだから当然か。


「食欲はあるか?」


「うん。おなかすいたかも。」


「わかった。適当になんか作るからゆっくりしててくれ。」


 とりあえず美波の家の冷蔵庫の中を見てあり合わせで料理を作る。

 あの様子だと昨日から何も食べていないようだ。

 相当滅入っているらしい。



 俺が作った夕飯を美波は食べた後風呂に入って速攻部屋で寝ていた。

 俺もいったん鍵を借りて自分の家から着替えなどの荷物を持って再び美波の家に戻った。

 そのころには12時を回っていたためシャワーだけ浴びて俺も寝ることにした。

 俺が昔救われたように美波が立ち直るまで俺は美波のそばにいようと誓った。

 葬式は明後日に行われるらしい。

 勿論俺も美波も出席する。

 今はすやすや寝ている。

 だけど、たまに悲鳴のようなものが聞こえる。

 様子を見に行っても寝ているだけだったからうなされているんだろう。

 きっと美波は自分のせいで彼が亡くなったと思っている。

 今、美波は罪悪感に苛まれているんだと思う。



「どうしようかな。」


 俺は独り頭を抱えるのだった。

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