第46話 受け入れがたい現実

 今日、美波の彼氏の葬式が行われた。

 学校の連中がいっぱい来ていたのを見るとやはりあいつは人望が厚い奴だったんだと再認識させられた。

 美波と一緒に式に参加したがその時の美波の表情は悲しいといった表情よりはいまだに現実が受け入れられていないようだった。

 葬式から二日経って気づいたことがある。

 時々彼女は何もない一点を見つめている時があった。

 他にも家には俺と美波しかいないはずなのに虚空に話しかけたりと

 明らかに普通ではない行動をしていた。


(やっぱりこれは不味いか?)


 俺はどうすればいいんだろうか?

 多分このまま彼女を放置していたら取り返しのつかないことになりそうだ。


「どうした?」


 そんなある日、部屋から出てこなかった美波がいきなり出てきたかと思うと玄関に向かっていた。


「ちょっと出かけてくる。」


「ああ、わかった。」


 やっと外に出る気になったのはうれしいことだが、唐突じゃないか?

 いや、でもここで彼女を止めるのは良くない気がする。


「まあ、外に出ることで少しでも気が晴れればいいんだけどな。」


 俺は美波の家で洗い物をしながらそうつぶやくことしかできなかった。


 ………………………………………………………………………………………………


「あ?」


 不味い。俺ねてたのか?

 どうやら美波を見送ってすぐに寝てしまっていたようだ。

 時計を確認すると時刻はすでに午後10時を回っていた。


「美波いるか?」


 俺は美波の部屋をノックしながら美波を呼ぶ。

 だが、しばらくしても返事はなかった。


「?入るぞ。」


 俺はそういってから美波の部屋に入った。

 でも、そこには美波の姿はなかった。


「は?」


 どういうことだ?

 美波が家を出てからもう数時間は経ってるし、あたりはもう真っ暗だ。

 それに家の外を見てみるとかなりの量の雨が降っていた。

 あいつ傘持ってたか?

 いや、そんなことよりもなんであいつは今家にいないんだ?


「捜しに行かなきゃ。」


 俺は衝動的にそう思い美波の家を出た。

 心当たりなんてものはないが、とりあえず足を動かすことしかできない。


(無事でいてくれよ!)


 ……………………………………………………………………


 あれからどれくらい走っただろうか?

 10分?1時間?

 そんなことはもうわからない。

 案外そんなに時間は経っていないのかもしれない。

 でも、どれだけ走り回っても美波は見つからなかった。


(一体どこに行ったんだ?)


 走りながら俺は考える。

 美波のここ最近の不自然な行動。

 未だにあいつの死を受け入れられてないのかもしれない。


「もしかして、あそこか?」


 俺は今思いついた場所に向けて走り出す。

 そこにいなかったらもうお手上げだ。素直に警察に捜索願を出すしかないだろう。


「はぁはぁ。やっと見つけた。」


 俺は息を切らしながら美波を見つけることができた。

 美波は事故現場にいた。

 そこでただただ立っていた。


「お前何してるんだよ。」


 俺は美波の肩を掴む。

 かなり長い時間いたのか完全に冷え切っている。


「、、、」


 だが、美波は何も話さない。


「とりあえず帰るぞ。」


 そういって俺は美波の手を取って引っ張って帰ろうとする。


「離して!」


 だが、その手は美波によって振りほどかれた。


「まだ、彼が戻ってきて無いの!」


 美波は涙を流しながらそう叫んだ。

 やはり美波は未だにあいつが死んだ現実を受け入れられることができていないようだ。

 こんな時どうすればいいのか俺にはわからない。

 こんな経験をしたことは無いから。

 こんな時にどう声をかければいいのかわからなかった。


「あいつはもう戻ってこない。」


「どうして!?」


「あいつは少し前にトラックにはねられて死んだ。」


 素直に言うことしかできなかった。

 こんなことを言っている俺は最低なんだろう。

 でも、言わないと美波はここから動かないだろう。


「お前だってわかっているはずだ。」


「そんなことない。彼は帰ってくる。」


 美波は頑なにここを動こうとしない。


「わかった。とりあえずいったん帰ろう。」


 何とかして家に帰さないと美波は風邪をひいてしまう。

 そうでなくても女の子がこんな時間に一人でいるのは危険だ。


「わかった。」


 俯きながら美波はうなずいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る