第43話 ビンタでチャラね?

「ありがとう美波さん。事情は大体わかったよ。」


「えっと、いつからそこに?」


いきなり月が入ってきた?

いや、今の発言的に扉の前でずっと話を聞いてたのか?


「最初からかな?星乃くん?」


「騙したな!美波!」


俺はじろっと美波に視線を飛ばす。


「騙したってなんの事?別に私は蒼の話を誰にも言ってないよ?ただ"偶然"月ちゃんが病室の前にいて蒼の話が聞こえちゃっただけだからね。」


こいつ俺を嵌めやがったな。


「お前知ってたな?」


「何のことかな?まあ、後はお若いお二人さんで話してください。」


美波はそう言いながら立ち上がると月にウインクをして病室を出ていった。


あいつ今度あったら覚えとけよ。


「星乃くん?今聞いちゃった話もう少し詳しく聞かせてもらえるかな?」


俺死んだかも。

今までも月を怒らせたことは何回かあったけど今回のは次元が違う気がする。

その証拠に月が浮かべてる笑顔がとても恐ろしく見える。

具体的には目が据わっている。


「詳しくというと、、、」


「全部かな?どういうことを考えて神楽さんと付き合ったのかとかそこら辺を詳しくね?」


病室の中で修羅場って起こるもんなんだな。

やっぱり世に出てるラブコメは嘘ばっかりだよちくしょー。


「えっとですね。だからそのキャンプの時にハブられてること聞いて、その原因を調べたら俺に原因があって、で、その事を神楽に言ったら付き合うことを条件にハブるのを辞めるっていうから付き合うことになりました。」


「それで?付き合って楽しかったの?」


まずい。笑顔だけど目が笑ってない。

返答を間違えたら刺されるかもしれない。

病室で刃傷沙汰とか勘弁願いたいところだ。


「えっと、黙秘権ってあったりは、」


「は?」


「ですよねごめんなさい。」


今までで聞いたことのないくらい低い声が月の口から出てきた。


何て答えればいいんだ?

楽しかったかと聞かれれば別にどちらでもなかった。

強いていうなら弁当がとても美味かったくらいだ。

別に神楽のことは嫌いではないが付き合ってる理由が罪滅ぼしみたいなものだったから楽しいとか感じる余裕は無かったんだよな。


「まあ、いいや。星乃くんは私がハブられてるって事を知って助けてくれようとしたんだよね?」


「まあ、はい。」


「じょあ何であの時あんな酷いこと言ったの?」


酷い事というのは最後に月が家に来た時に俺が言った事だろう。


「俺なんかとは関わらない方が君のためになると思って嫌われようとしたからかな。」


「なんで星乃くんはそんなに不器用なの?確かに星乃くんのおかげでクラスで話せる人は増えたよ?でも、私が一番話したくて一緒にいたい人とは一ヶ月も話せなかった。私は別にハブられててもよかったの。ただ星乃くんと一緒にいれたらそれでよかったのになんで星乃くんは私に嫌われようとなんかしたの?」


月は俺の胸ぐらを掴んで言った。

珍しいと思った。

この子がこんなに感情的になっているのはあまり見なかったから。

それこそキャンプの時くらいだったか。

いつも俺にくっついてきたが何を考えてるのかはあまりわからなかった。

でも、今の発言は嘘偽りのない本心だってわかる。


「俺は君みたいに凄くない。だから釣り合ってないんだ。俺みたいなやつと一緒にいると君が不幸になる。だから、」


「釣り合うって何?星乃くんは一体誰の目を気にしてるの?私は君と一緒にいたい!君と一緒にいる事が私の幸せなの!なのに何で離れていっちゃうの?」


俺と一緒にいるのが幸せか。

そんな事初めて言われたな。


「ごめん」


「別に謝らなくていい。でも、約束して!二度と黙って私から離れないで。」


「わかった。」


俺がそういうと月は俺の胸ぐらから手を離した。

そして、パチーンと綺麗な音が響き渡った。

少し遅れて頬に痛みがあった。

おれは月にビンタされていた。


「なんで?」


「これでこの前私に酷いこと言ったのはちゃらにしてあげる。」


「はい。」


俺は甘んじて罰を受け入れた。

結構痛い。


「あと、星乃くんは"なんか"じゃないよ。少なくともわたしにとってわね。」


本当に俺は何してんだろうな。

こんな月を見ているとそう思ってしまう。

勝手に自己嫌悪に浸って月の気持ちも考えずに距離をおこうとして、バカみたいじゃないか。

こんな可愛い女の子に言い寄られて何で好きになれないんだろうな。


「そっか。ありがとな。」


もちろん答えなんかわかってる。

俺はいまだに怖いのだ。

好きになって裏切られる事が怖くて仕方がない。

一度信じたものに裏切られるのが怖い。

あのトラウマが俺に再び恋愛をすることを許さないのだ。

それでも、もしもう一度誰かを好きになれるなら俺は月のような人がいいな。

まあ、こんな事本人には絶対に言えないが。


「月」


「なに?もしかしてもう一回ビンタして欲しいとか?」


「違う違うそんなんじゃない。君のおかげで前向きになれたかもしれない。ありがとう。」


あれ結構痛かったからもう食らいたくはないんだよな。


「どういたしまして!」


月はそう言ってにっこりと微笑んだ。

本当に可愛いな。


俺はそんな月に不覚にも少し見惚れてしまった。

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