第41話 蒼の限界点

 土曜日

 蒼は朝コーヒーを飲んでいた。

 ここ一か月は神楽と付き合い始めていろんなことがあった。

 一番印象に残ったのは月の周りに人がいたことだ。

 彼女にもきっと友達ができたのだろう。

 蒼はコーヒーを飲みながらそんなことを考えていた。


 ピンポーン


 そんな時に久しぶりに家のインターホンが鳴った。

 時刻は9時くらいなのでまあまあ早い時間帯だ。


「一体誰だ?」


 一瞬月かと思ったがここ一か月話してないのできっと違うだろう。

 蒼はすぐに玄関に移動してドアを開ける。

 そこには美波が立っていた。


「こんな早くからどうし、」


 蒼が言い切る前に美波は蒼の胸倉をつかんでいた。

 掴んで前に押した。


「え?」


 その瞬間蒼は後ろに倒れた。

 美波は蒼に覆いかぶさるような形で倒れた。


「どうしたんだ?美波。」


 倒れながら蒼はそういった。


「ねえ。どういう事?」


 美波は驚いたようにそういった。


「何の話だ?」


 そんな問いに意味が分からず蒼はすかさず問い返した。


「なんでこんなに細くなってるの?それに目のクマも酷いし、」


「何でもない。それで美波はわざわざどんな用件でここに来たんだ?」


「私は月ちゃんに蒼が別の女の人と付き合ったって聞いて、それで来たの。」


 美波は蒼の胸倉を離すと立ち上がって蒼の手を掴んで立ち上がらせる。


「そうか。すまないがその件に関して俺は君に何も話すことができない。」


 蒼はそう言い美波から目をそらした。


「そっか。そんなことはどうでもいいの。いや、どうでもよくなった。本当に何があったの?月ちゃんとのことは置いといていいから一体蒼に何があったの?今の蒼は中学の時の蒼よりもなお悪く見える。しかも、その笑い方はなに?無理に取り繕っているような顔にしか見えないよ?」


 美波は顔を背ける蒼の顔を両手でつかむと自身の目と合うように強制的に顔を向けさせる。


「そんなことない。離せって。」


 そういって美波の腕を振り払おうとしたができなかった。


「蒼しっかりご飯食べてるの?」


「昼は食べてるよ。」


「それ以外は食べてないってことね。」


「いいから離せって、え?」


「え?」


 二人がそんな声を上げると同時に蒼の目からは雫が零れ落ちていた。

 それは涙などではなかった。


「蒼?どうして血が出てるの?」


「なんで、」


 蒼はそう言いながら白目をむいて後方に倒れた。


「ちょっと蒼!?どうしたの?ねえ?返事してよ!」


 美波は必死にそう問いかけるが蒼が返事をすることは一向になかった。

 その間も蒼の目からは血が流れ続けており、さらには鼻血も出てきていた。


「美波さん?どうしたの?」


 隣の部屋が騒がしいのを聞きつけたのか月が蒼の家の玄関を開けていた。

 美波は部屋の中を見て「ひっ、」と悲鳴を上げた。


「ちょうどいいところに。今すぐ救急車を呼んで!」


「え、うん。」


 月はいわれるがままにスマホを取り出して救急車に連絡を入れた。


「なんでこんなことに?」


「わかんない。蒼と話してるといきなり目から血が出てきたかと思うと白目剥いて倒れちゃったの。」


 美波は少し焦りながらも月にそう説明した。


 それから救急車が来たのは約数分後のことだった。


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