第40話 とある少女の独白

 いつから彼のことが好きだったのだろうか。

 明確に好きになった時期は自分でもはっきりわからない。

 でも、きっかけはやはり高校一年の時の体育祭だろう。


「やっぱり、あれがきっかけだよね~」


 そう言いながら私はベッドの上で手を伸ばす。

 体育祭以前からは彼のことを意識したことは全くなかった。

 そもそも、眼中にもなかったと思う。

 彼は一見すると物静かで全く喋らない。

 学校で楽しそうに会話をしているのを見たことがない。

 いや、意識していなかったから見ていなかっただけかもしれない。

 それに、彼は前髪で顔が隠れていて顔の造形があまりわからない。

 物静かな雰囲気も相まって根暗といった印象を受ける。


 でも、体育祭以降彼を意識してみてみるといくつかわかったことがある。

 彼は物静かだが友人と一緒にいるときはそんなこともないらしくよく話しているのが分かった。

 他にも時々前髪が上がるときに顔が見えることがあるが彼の顔はかなり整っていた。

 それも、そこら辺のアイドルなんかよりは整っていたように思う。

 勿論顔だけで彼のことを好きになったわけではない。

 彼はいつも周りに興味がなさそうにしているが、その実彼は常に周りに気を配っていた。

 些細なことでも彼は周りに気づかいをしていたのだ。

 それも、あまり仲が良くない人間や彼に対して悪口などを言っている相手に対しても彼は気遣いを欠かすことは無かった。


 原因は気になったが私は彼に話しかけることができなかった。

 ただ勇気が出なかったというのもあるし、学校で私はクラスの中心のような人物になってしまったためあまり彼と関わることができなかったのだ。


「いや、こんなのは言い訳かな。」


 私はただ臆病で彼に話しかけることができなかったのだ。

 でも、彼は普段から人気がある人じゃないし今のところ彼を好いている子がいなかったから安心していた。

 でも、そんなときにあの子が転校してきた。

 あの子は転校してきてすぐに彼に告白をしたそうだ。

 彼女はとてもかわいくて明るくて、

 そんな彼女に彼が取られるんじゃないかと思って不安になった。

 だから私はすぐに彼に告白した。

 でも、恥かしくて素直に告白なんてできなかった。


「だから、彼にあんな振られ方をしちゃったんだよね。」


 あの時に事を思い出すと軽い自己嫌悪に陥る。

 だから、私は彼女に八つ当たりをしちゃったんだよね。


「でも、結果的に私は彼と一か月くらい付き合えてる。」


 勿論、彼が自分のせいで彼女がハブられてると知ったからそれを止める条件で私と付き合った。

 半ば脅しのような方法で彼と付き合った。

 でも、そろそろこんな偽物の関係は終わらせるべきなんだろう。

 最近彼はどこかおかしい。

 いつも私といるときは笑顔だが、どうにも無理してその顔を作っているように見える。

 きっと私は彼に無理をさせている。

 だから一度別れてそれからしっかり彼を落とそうと思う。

 そうじゃないと彼にも彼女にも悪いだろう。

 だから、次は正々堂々彼と付き合うためにこの関係を終わらせないといけないのだ。


「よし、今日はもう金曜日だから来週の月曜日にしっかり言おう。」


 私はそう決めて眠りについた。

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