第3話 第二の世界地図を描きたい

 【インセプション】という映画を観た事があるだろうか?2010年のハリウッド映画だ。主演は、レオナルド=ディカプリオ。渡辺謙が出演し、日本でも話題になった作品だ。

 眠っている時に見る“夢”を共有する事で、対象となる人物の記憶や秘密を覗いたり、抜いたり、全く新しいアイデアを植え付けたり出来る。それを専門とする産業スパイの仕事が裏稼業として確立されている世界の話だ。

 映画はスピード感があり、面白い作品なので、是非手に取って欲しいが一旦置いておく。



 皆と同じように私も日々、夢を見ている。良い夢より、悪い夢の方が多いのも皆と同じだ。記憶にある一番古い夢は幼稚園の頃から。その時から今まで幾度も夢を見てきた。

 見る夢は、同じ場所であったり、違う場所であったり色々。夢の中の実家。夢の中の中学校。夢の中のバイト先。夢の中の通学路。夢が同じ場所であれば、前回の夢と同じ間取りや造りで構成されている。

 20歳を超えた時、今まで夢を見た小学校と実家を繋ぐ通学路の夢を見た。現実で使っていた小学校への通学路にプラスアルファで夢の世界にしかない建造物や抜け道が追加されている。

 夢から覚めた私は、小さな感動を感じた。


「例え夢でも、世界って繋がってる……!」


 その日から、これまで見てきた夢の中の場所と場所を地理的に繋ぐ夢を見始めた。同じ道順を辿れば、必ず目的の場所へ辿り着けるのだ。曖昧な世界だと思っていたのに、そこきはきちんと地理が存在していて、26歳になる頃には、夢の世界の地図を描けるのでは? というくらい、しっかりした世界を眠りの中で生きていた。

 夢は記憶の整理なのだから、学校は毎回同じ学校である事は当たり前だ。夢の中の実家周辺、スーパーへの道順、友人宅の場所を把握し、現実世界の実家より幾分広い間取りの夢の世界の実家での生活にも慣れた頃、皆の夢の世界がどんな物か気になった。だから友人に尋ねた事がある。


「学校通ってた頃の夢とか見る?」

「んー、まあ時々」

「夢の中の学校て、実際の学校とはどう違う?」

「……どういう意味?」


返ってきた答えはこれだった。


「例えば、本当の小学校は、体育館が1つしかなかったじゃん」

「うん」

「でも、私の夢の中の小学校には、第一体育館と第二体育館があって、南校舎の3階には本来ない美術室があって、そこはずっと工事中だから足場が組まれていて、そんな中で授業を受けるの」

「え? 夢の中の学校の間取りが毎回同じなの?」

「え? うん」

「はーん? ごめん、そんなに細かく夢なんて覚えてない」

「え。……私ね、何年もかけて小学校の構造とかも少しずつ広がってるの。今まで教室内だけだった夢が、下の学年の教室の場所が分かったり、パソコン室の場所が4階だって分かったり」

「独特な夢の見方してるね」

「夢の世界の地図描ける。これって変?」

「さあ。私は、覚えてないってだけかも」


 衝撃を受けた。夢覚えてないとか、そんな人いるんだ!って。だから、別の友人にも聞いてみたけれど、答えは似たり寄ったり。夢を覚えていても、毎回少しずつ何かが違うらしい。


 この事が分かった時、私は【インセプション】のあるシーンを思い出した。

 複数の人が集まり、夢を共有しているシーンだ。完全に脇役で、その一回しか出て来なかったキャラクターが言っていた。


「彼らは、眠りに来ているんじゃない。現実に帰りに来ている」


映画は所詮、映画でフィクションだ。けれど、もしかしてと思わざるを得ない。あの映画は、事実を語っているのでは? そして私の周りにいないだけで、世界の大多数が第二の世界を持っているのでは? 

 自分は少々内向的で、変なのかも……と心配になった部分もあるけれど、ワクワクとした期待感の方が少し大きい。色んな人の第二の世界に興味ある。


 何の作品か忘れてしまったけれど、ライトノベルの作者さんも作品の舞台は、自分の夢に登場した学校と言っていた気がする。彼らは、自分の第二の世界をどう捉えているんだろう? 私は、どんなに夢は夢であり、現実ではないと思っていても何か面白い秘密はないか、面白い事は起きないのか、なんて期待してしまうんだが……。最初に白状したが、私はパラレルワールドを信じている。魔法も妖怪も信じている。私の夢見がちな性質に拍車が掛かるのも仕方がないと思わないだろうか。


 今でも私の第二の世界は、少しずつ広がっている。新しい場所が現れ、繋がり、世界は細かく精密になっている。それは楽しくもあり、心がいつか帰って来られなくなるのではないかという小さな不安も感じている。

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