第1話 脛齧りの誓いをたてる

 はじめにを書いていて思い出したが、私が21歳の頃、父と大喧嘩をした。


 当時の私は、幼少の頃から続けていたバレエ教室で、お教室お抱えの舞踊団ぶようだんの見習いをしながら、アルバイトで最低限の収入を得ていた。

 家に毎月2万円入れ、あとはお稽古や携帯料金を払うのに使っていた。食費や光熱費、税金は親に払って貰うというように要は脛を齧っていたわけだが、脛齧りのフリーターでも家に二万円は入れているという自負があった。


 21歳の頃なんてまだ学生の友人もいたし、社会人をしてる友人だって実家に住んでる子達は、毎月きちんと家にお金を入れている子は、居なかったのだ。勿論、世間的には実家にお金を入れている子は沢山いたと思う。ただ私の周りには居なかった。

 正社員として勤めている子達より収入が少ない訳だから、オシャレや旅行や買い物を我慢して、少しずつだが貯金とお稽古代と衣装代に舞台製作費、あと祖母に出して貰った自動車学校の学費を返済していた。


 分かってもらえるだろうか? 私は甘えた状況の中でも甘えすぎないを努めていたのだ。だから21歳のGW、父にバレエの事について言及されて、人生でも初めてくらい怒り狂った。


「いつまでも夢を見て、甘えた事を言うな」


そんなような事を言われた。現実を生きろみたいなニュアンスの。

 私は激怒して、自室に飛び込み、その辺にあったTシャツに食いついた。噛みちぎってTシャツをズタズタにしても怒りは収まらなくて、下の階に父親が居るのもお構いなく



「一生脛かじって生きてやるー!!」



そう叫び、父を震え上がらせた。(これは後日父から聞いた)もし、この日の誓いを未だ根に持っていて、父への復讐を目論んでいるなら、いい加減父を許して、自分を解放してやりたいと思う。その為にも父に対する思いを書こう。




 21歳のあの時の私は、どうしても父が許せなかった。父は、私が6歳の頃から不倫を繰り返す人だった。母によれば結婚前も浮気の疑惑があったらしい。父の女遊びで、一番大きな揉め事になったのは12歳の時。弟が母のお腹にいる時で、それもGW休みの日だった。(……今思うと我が家は、GWが鬼門すぎる。)子供ながら、父が私と妹を愛してくれている事を知っていたし、愛情を感じていた。なので愛情の面に不満はなく、これまで不倫が発覚してもダメージというものはあまり負っていなかった。それでもこの時ばかりは父が、愛する母を苦しめる状況にショックを受けた。更にその時父が放った言葉が忘れられない。父の不倫で揉めているその状況で父は私達に


「もう家族で一緒にいる意味はない」


こう言い放った。



 それまで、父と母の問題だと思っていた不倫は、この一言で私を含めた家族の問題になり、私は打ちのめされた。一緒にいる事に意味が必要なのか? 家族は、愛しあってるから一緒にいて、家族なんじゃないのか? 12歳の純粋な子供には、刺激の強い言葉じゃないか。傷つくよ、そんな事を言われたら。

 そんな父に私の生き方や大切な物を否定され、これまでの人生で一番怒り狂った。発狂した。



 書いてみて思ったけれど、未だにめちゃめちゃ怒ってるな。今回こうして気持ちを吐き出す事が出来たから、いい加減この感情に囚われるのもやめて自由になりたい。しかし、どうやってこの怒りを終わりにすればいいんだ?

とりあえず、『一生脛かじって生きてやるー!!』宣言は撤回だ。

もう脛は齧らない。今のこの決意を寝る前に思い出してしばらく生きてみようと思う。

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