第11話

「ハムハムハム……」


「……」


 帰り道。持ってきた最後の食糧である焼き鳥を美味しそうに頬張る彼女を見て、僕は少しだけ後悔するのだった。


「……」


「もうないよ?」


「っ!?」


 そう言うと彼女は分かりやすくがっかりとした表情を見せた。随分と僕に心を開いているようだ。


 この子、僕が持っていた食糧非常食も含めて全て食べ切って見せたのだ。弱り切っている人にいきなり大量の食事をさせるのは良くないのだが……。


 彼女は止まらなかった。


 よっぽどお腹が空いていたのだろうね。僕の財布にダイレクトアタックするのはやめて欲しいのだが。


 しかしそのおかげか、すぐに体力を回復させ、こうやって歩くことができたのだ。


「ねぇ」


「ん?」


 と、彼女が僕の袖を引っ張りながら話しかけてきた。僕が彼女の方を向くと、彼女はとある一点を指差していた。







「来る」


「来る……?──っ!?」



 



 その彼女の声と同時に奥から一匹の大きな魔物が飛び出してきた。僕はそれを一眼見て、その正体を察した。


「グランウルフ!?」


 ウルフの群れの長で、常に群れで行動しているはずのグランウルフだったのだ。


 よく見ると身体中がボロボロで何かに追われているような感じだが……。


「いたぞ」


「冒険者と、子供?もいるが」


「……グランウルフ共々始末しろ」


「わかった」


 奥から黒の外套を着た二人の男女が片手剣を持っていきなりこっちを襲ってきた。


防御シールド


「そんなもの意味がな──っ!?」


 片手剣の攻撃を防御シールドで防がれたことに驚きの表情を隠せなかった男は僕の攻撃に対応できずに飛ばされた。


「弱いなぁ……」


「何をしている」


「……す、すまない」


 僕は更に攻撃しようとして防御シールドを飛ばしたが、それは女の方に阻まれてしまった。


「こいつ、例の」


「っ!?なるほど」


「あー……」


 そして奴らの会話からこいつらの目星をつけた僕は、殺すのではなく捕まえる方に思考をシフトした。


「あ、あの……」


「下がってて」


「あ、はい……」


 僕は後ろに奴隷の少女を下がらせると、彼女の周りに防御シールドを張った。これで彼女は大丈夫なはずだ。


 こうして一対一対二の構図が出来上がったわけだが……どうやらグランウルフには僕と敵対するつもりはないらしく、ずっと二人の方を向いたまま、僕の方には一切顔を向けることはなかった。


 と言うことは、先にあの二人を捕まえてしまったほうがいいだろう。きっとグランウルフはあの二人を殺すよりも逃げる方に専念したいだろうし。


 いや、ここは──


防御シールド


「「っ!?」」


 僕は彼ら二人を囲むようにして防御シールドを張った。それを好機と見たのか、グランウルフはそそくさとこの場を去っていった。


 そしてグランウルフの姿が無くなったと同時に僕の防御シールドが破られた。


 二人は分かりやすいほどに怒りの表情を見せていた。


「お前、今自分がしでかした事わかっていないのか?」


「あのグランウルフは私たちの──いや……とにかく、お前はここで殺す。その子供と一緒に死ね」


「へぇ、できるもんならやってみてよ。ま、無理だと思うけど」


「っ!舐めるなっ!」


 激昂した男は即座に僕の方へと向かってきた。速さは十分だが、遅い。


防御シールド


「それはもう対策──がはっ!?」


 防御シールドを動かして奴の胴体にぶち込んだ。そして気絶させるつもりで奴の頭を短剣の柄頭で思いっきり殴った。後遺症に関しては衛兵の回復士にでも任せよう。


 そして案の定、男は気絶した。残ったのは女の方だが……。



 ガキン!!



「いい速さだ」


「っ!?」


「隠匿性もしっかりとして、奇襲としては満点だ。が、見誤ったね。さっきの防御シールドが一番硬いだなんて誰か言ったのかな?」


「くそっ!」


「気づいて戻るの遅すぎるよ」


 既に彼女が剣を振ろうとしていた時、僕の防御シールドは発動していた。と、同時に攻撃用の防御シールドも彼女のそばに発動させていたのだ。


「おしまい」


「がっ!?」


 そして彼女にも頭に一撃を食らわせて気絶させた。


「うん。あとはこいつらを縛って、と」


「あ、あの、手伝います」


「うん。じゃあそっちの女の方よろしく」


「はいっ!」


 







「……昨日の今日で、ちょっと早くないかい?」


「そうですかね?」


「はぁ……まぁいいよ。とりあえずこいつらは尋問しておくとしよう。例え暁じゃなかったとしても、グランウルフを追っていたと言う部分が引っかかるからね。また別の、まだ私たちが知り得ていない情報を持っているかもしれない」


「そこら辺はザイン様にお任せしますよ。それで……」


「あぁ、その子の件だね。盗賊のアジトにたった一人、か。わかったこちらでなんとかしよう」


「ありがとうございます」


 これで彼女はここで働くことになるんだろうな。


 僕は彼女をザイン様の執事に預けようとするが、なぜか僕にしがみついたまま離れることをしなかった。


「ちょっと」


「……私を買ってください」


「……」


「はは、随分な懐き用じゃないか」


「ザイン様……」


「うむ、ちょっと待っててくれ。えっと君は……」


「セレスです」


「うむ、セレス。ちょっとこっちに来たまえ。何、いい話をするだけだ」


 そう言って奴隷の少女もとい、セレスを連れて行ったザイン様は二人で何か話し合っていた。そしてしばらくするとセレスは、


「……分かった。離れる。それじゃあね、サフェト様」


「え、う、うん……」


 この変わりように僕は何か嫌な予感がした。が、それが一体なんなのか、僕には見当もつかなかった。



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